信長英雄記〜かつて第六天魔王と呼ばれた男の転生〜

揚惇命

文字の大きさ
110 / 166
2章 オダ郡を一つにまとめる

110話 戦場で死ぬことこそ本望

しおりを挟む
 クライナーとコカレロ、連合軍が撤退したのを好機と捉え、追撃を開始した。
 2人ともテキーラ・バッカスに古くから仕える古参の将である。
 そんな2人とテキーラ・バッカスとの付き合いは、当主を継ぐ前からである。
 元々、腕の良かった盗賊である2人は、バッカス家へと盗みに入ったところをまだ青年だったテキーラ・バッカスに見つかり、交戦した。
 坊ちゃん貴族と侮る2人を拳で殴り飛ばして、何故盗みなどするのか聞き、2人が義賊であること。
 盗んだ品を高値で売って得たお金で貧しいものたちを助けていることを聞いた。
 テキーラ・バッカスは、そんなことをして今日のように別の奴らに見つかったら大変であることを説いて、住み込みの兵として取り立て、賃金を得ることで、貧しいものたちを助ければ良いと。
 貴族でありながら豪快な性格で、漢気溢れるテキーラ・バッカスに惚れた2人は、仕えることに決めた。

「フッ。あれからもう40年か。良い歳になったものだなお互い」

「あぁ。懐かしいな。お前と背中合わせで、最期に思い出すのがあの時のこととは」

「我らの死をテキーラ様は嘆かれるだろうな」

「うむ。だが命尽きるまで、主家のために戦場にて敵を葬ることこそ武将の本分」

「あぁ。悔いはない。先に行った友たちに、恥じぬように、最期まで戦い抜くのみ」

 周りには、自分たちの5倍近くの屍が築かれていた。
 話は少し遡り、クライナーとコカレロが追撃を開始した頃のナバルを中心としたチャルチとマリーカを含む連合軍は、偽装撤退による釣り出しが狙いだった。

「ククク。馬鹿な奴らだ。たった200程度の追撃で、天下のナバルに勝てると思うとは、な」

「サム殿、油断大敵だよ。それに200という数字は凄く気になる」

「フン。リチャードよ。とっとと配置につけ、取り囲んで潰すぞ」

「サム殿の言うとおりです叔父上。向こうも一枚岩ではなかったということかと」

「うーん。まぁ、防衛戦力を削れることに越したことはないか」

 まるで袋の鼠と言わんばかりに、熱い包囲陣を敷いて、飛び込んできた追撃部隊を包囲殲滅するだけだったのだが。
 追撃部隊の取った次の行動に唖然となった。
 彼らは、将を真ん中に方円陣形で突撃してきたのだ。
 まるで、奇襲などお見通しだと言わんばかりに。
 だが、ここアイランド公国は、戦における陣形もしかり、砦などを知らないことからお分かりいただけるだろう。
 だからこそ、気にせず奇襲した連合軍の被害が大打撃を受けていたのである。
 そして、これを直感で行えるのがクライナーとコカレロという将である。

「フハハハハ。我が名はクライナー。圧倒的大軍で攻めてきた貴様らが退いた。何も無いと思って追撃するとでも思ったか!若造ども。これが実戦経験での差だ」

「同じく、我が名はコカレロ。我らが全滅するまでに貴様らの兵を出来るだけ減らしてくれる」

「舐めるな!ジジイどもが。ナバルの将軍であるこのサム・ライが負けるわけには行かんのだ。相手はたった200だ。とっとと取り囲んで、殺してしまえ!」

「サム殿、悪戯に兵を損耗させるのは得策じゃ無い」

「叔父上!ですがあの200は、壊滅させねばなりません。今後のためにも」

「ライアン。そんなことは、僕もわかってる!でもあの異様な陣に無策で突っ込むべきでは無いと言ってるんだ!」

 リチャード・パルケスが止めるのも聞かず攻撃し、返り討ちとなって死体の山が築かれる連合軍。

「馬鹿な!?貴様ら、何をしてる!相手はたった200だぞ!潰せ潰せ潰せーーーー!!!」

「たった200などとは、舐められたものだ。俺たちは、こういうことでしか役に立てない防衛では無駄な戦力だよ。今頃テキーラ様は、さらに守りを固めてる頃さ」

「お前らは間違えたんだよ。こんな策を弄したこと自体がな」

 しかし、兵力差は500倍はある。
 徐々に徐々に疲れから200の兵は、数を減らしていく。

「ようやく。ようやく。残り20程になったわ。このまま押し潰して、あの城も攻め滅ぼしてくれるわ!」

 そんなことを言うナバル郡の将軍であるサム・ライだが足元には、相手の10倍は超えるであろう屍が転がっていたのである。
 たった200を討つために減らした兵力は2000は軽く超えていた。

「この化け物が倒れろ!」

「何かしたか?ガキ」

 クライナーとコカレロの周りを固める20の兵は精鋭中の精鋭。
 さらに被害が蓄積していく連合軍の兵。
 クライナーとコカレロだけになる頃には、屍の数が5000を超えていた。

「フッ。全くテキーラ様に会えて、良い人生だった」

「戦場で散ることこそ我らの本分。最期の御奉公とさせていただきますぞ殿」

「えぇい。怯むな!怯むな!残りは2人だ。その首、斬り落として、ここの200の兵と共に城の前に飾りつけてやるのだ!」

 20人がかりでようやくクライナーとコカレロを突き刺して、殺すことに成功したのだが、最期の抵抗に遭い、40人が薙ぎ払われた。

「サム殿、先ほどの言葉は本気か?」

「それがどうした?」

「そんなことをすれば、相手の怒りを買うことがわからないのか!」

「叔父上。僕もサム殿の言葉は、敵の士気を挫くには効果的な策と考えます」

「何を言ってるんだ!決死の覚悟で戦い抜いた彼らの死を冒涜するような真似をして、敵の士気を本気で挫けると考えているのかい?」

「フン。リチャード、貴様はまだわからんようだな。あぁいう手合いにはこれが1番心に刺さるんだ」

 ワシヅ砦へと戻ってきた連合軍の兵が200の兵士の屍を地面に突き刺した杭で貫き、炎をくべる。
 そう、降伏しないと次はお前たちの番だと言わんばかりに残酷な光景を見せ付けたのである。
 この光景を前に、テキーラ・バッカスの瞳には怒りの炎がメラメラと灯っていた。
 そして、戦友たちの変わり果てた姿に、短く『大義であった』と呟いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...