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2章 オダ郡を一つにまとめる
111話 殿がため心は決して折れぬ
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ワシヅ砦、前方にて、地面に突き刺した杭のような物に身体を貫かれた状態で、炎を焚べる。
ナバル郡の将軍であるサム・ライによるワシヅ砦内の人間の心を折る残酷な計略である。
しかし、この光景を見たワシヅ砦内に残る兵士たちは、涙を流しこそすれどこのような残酷な行動を行なった敵側に対して、怒りの炎が瞳に宿る。
そして、テキーラ・バッカスによる演説によって、彼らの怒りは敵を断固として、この先に行かせないという強固な想いとなる。
「眼前の光景を見て、戸惑い狼狽えている者たちよ。案ずるな!我らが殿がタルカに対して、行なった事を思い出せ。殿の父君が亡くなられたのを好機と我が領土を掠め取ろうとした者がどうなった?殿の言葉によって、大義名分を得るに至った。今回もきっと殿なら我らに復讐の機会をお与えくださる事だろう。この悲しみを忘れるな。この怒りを忘れるな。敵が我らにした仕打ちを決して許すな。そして、それはこの戦を乗り越えた先にしか訪れんことを忘れるな。我らがこの城を抜かれれば、殿の身に危険が及ぶことを忘れるな。我らは殿を守る最後の砦なのだ。このワシヅフォートを敵に抜かせるわけにはいかん!我らの友の死を無駄にするでないぞ!」
『うおおおおおお』という地鳴りのような大歓声が起こり、全員がまさに死兵と化した瞬間だった。
攻め寄せるナバルとチャルチとマリーカの連合軍は、先程とは比べ物にならないほどの抵抗に遭い、その数を日に日に減らしていた。
昼夜問わず攻めても一向に防衛の手は緩まない。
この状況にイライラを募らせるサム・ライは、とうとうあり得ない命令を降すこととなる。
「あの人間の形をしたクソどもが。そうかそうかそんなにアイツらと同じ目に遭いたいのだな。良いだろう、そこまでいうならあの城ごと燃やし尽くしてくれるわ!」
「何を言ってるんだ!ゲスター辺境伯のことを何も見ていなかったのか?あの城は火を吹くんだ。迂闊に火を使えば、燃えるのはこちら側だと何故わからない!」
「叔父上。サム殿の策は、この状況を打開できるかも知れません。このまま闇雲に突撃を繰り返しても、こちらの被害が嵩むだけです。それなら火を用いて、燃やすのもまた良いかと」
「ライアン!君まで、何を言って」
「これで、反対はお前だけだなリチャード。ライアンは本当に見所がある。火を放て!」
ドドドドドドドドドと馬の駆ける音が聞こえる。
「弓を射るのは、待たれよ!我が名は、ルルーニ・カイロ。ガロリング卿に手を貸す貴族の1人だ。マーガレット・ハインリッヒの事で、話したいことがある。至急、代表者と話がしたい」
「ん?マーガレットだと!?俺がこの軍の代表者のサム・ライだ。話を聞こう」
「このような形での使者に対して、思いとどまってくれたこと感謝する。早速本題に入らせてもらいたい。レーニン・ガロリングによって、マーガレット・ハインリッヒは先程命を落とした」
「馬鹿な!?レーニンは、何を考えているのだ!陛下を説得できる材料を自らの手で、潰すなど」
「マーガレットがレーニンの養女となることを拒み、隠し持っていた短刀で、その命を絶った。これが証拠の短刀だ。それと間も無くレーニン・ガロリングが討ち死にしたという情報も流れるだろう」
「何がどうなっている!?レーニンの奴は、我らが主にマーガレットの説得は既に済んでいると。まさか嘘の報告をしたのか!?我らの力を借りるために」
「その事に関しては、申し訳ないとしか言えない」
「それではすまないのだ!いや、しかしレーニンが討ち死に?」
「近衛兵から聞いたところによるとヒヒッという奇妙な笑い声をした兵士に『マーガレットが死んだのならお前に用はない』と背後から心臓を貫かれた」
「奇妙な笑い声をした兵士だと?」
「勿論、そのような兵士がガロリング卿の配下に居たという話は聞いたこともない。恐らく、敵対勢力であるサブロー・ハインリッヒの仕業なのは間違いないと考えている」
「まさか!?いや、しかし奇妙な笑い声をする男などアイツ以外に」
「その反応は!?心当たりがあるのならお教え願いたい!盟主を殺された我らは瓦解寸前、下手人まで逃したとあれば、これ以上継戦することはできない。何としても捕らえて背後を明らかにしなければならないのだ」
サム・ライは、思い当たる人間について、これは使えると判断して、秘匿する事にした。
「いや、勘違いさせたのならすまない。俺にも心当たりはない。レーニン殿の件、残念だ。我らが救援すべき対象は消失した。我らの関与が疑われる前にこの場から撤退することをお許し願いたい」
「救援に来た時点で既に無駄だと思いますが」
「ボソボソと何か言ったか?」
「いえ、ガロリング卿とどのような約束をしていたのかわかりませんがこれはこちらの落ち度、直ぐに撤退することをオススメします」
「知らせてくれたこと感謝する」
こうして、ルルーニ・カイロの危機迫る口八丁の嘘によって撤退する連合軍。
その中で、明らかに他の将と違う安堵した表情をしている優しそうな雰囲気の男性にルルーニ・カイロは近寄るとポケットの中に紙を忍ばせ、耳元で呟く。
「そのままで。今、貴方のポケットに紙を入れました。貴方が今、1番連絡を取りたいであろう人物への片道切符です」
「!?成程、見事だね。頭に血が昇っていたサム殿を撤退に導くなんて。深くは聞かないよ。感謝したいぐらいだ。有り難く、貰っておくよ」
そうルルーニ・カイロは、リチャード・パルケスの懐にあの宿屋の場所を記した地図を忍ばせ、そこの店主に『オーナーに会いたい』とだけ伝えるようにと書いたのである。
ナバル郡の将軍であるサム・ライによるワシヅ砦内の人間の心を折る残酷な計略である。
しかし、この光景を見たワシヅ砦内に残る兵士たちは、涙を流しこそすれどこのような残酷な行動を行なった敵側に対して、怒りの炎が瞳に宿る。
そして、テキーラ・バッカスによる演説によって、彼らの怒りは敵を断固として、この先に行かせないという強固な想いとなる。
「眼前の光景を見て、戸惑い狼狽えている者たちよ。案ずるな!我らが殿がタルカに対して、行なった事を思い出せ。殿の父君が亡くなられたのを好機と我が領土を掠め取ろうとした者がどうなった?殿の言葉によって、大義名分を得るに至った。今回もきっと殿なら我らに復讐の機会をお与えくださる事だろう。この悲しみを忘れるな。この怒りを忘れるな。敵が我らにした仕打ちを決して許すな。そして、それはこの戦を乗り越えた先にしか訪れんことを忘れるな。我らがこの城を抜かれれば、殿の身に危険が及ぶことを忘れるな。我らは殿を守る最後の砦なのだ。このワシヅフォートを敵に抜かせるわけにはいかん!我らの友の死を無駄にするでないぞ!」
『うおおおおおお』という地鳴りのような大歓声が起こり、全員がまさに死兵と化した瞬間だった。
攻め寄せるナバルとチャルチとマリーカの連合軍は、先程とは比べ物にならないほどの抵抗に遭い、その数を日に日に減らしていた。
昼夜問わず攻めても一向に防衛の手は緩まない。
この状況にイライラを募らせるサム・ライは、とうとうあり得ない命令を降すこととなる。
「あの人間の形をしたクソどもが。そうかそうかそんなにアイツらと同じ目に遭いたいのだな。良いだろう、そこまでいうならあの城ごと燃やし尽くしてくれるわ!」
「何を言ってるんだ!ゲスター辺境伯のことを何も見ていなかったのか?あの城は火を吹くんだ。迂闊に火を使えば、燃えるのはこちら側だと何故わからない!」
「叔父上。サム殿の策は、この状況を打開できるかも知れません。このまま闇雲に突撃を繰り返しても、こちらの被害が嵩むだけです。それなら火を用いて、燃やすのもまた良いかと」
「ライアン!君まで、何を言って」
「これで、反対はお前だけだなリチャード。ライアンは本当に見所がある。火を放て!」
ドドドドドドドドドと馬の駆ける音が聞こえる。
「弓を射るのは、待たれよ!我が名は、ルルーニ・カイロ。ガロリング卿に手を貸す貴族の1人だ。マーガレット・ハインリッヒの事で、話したいことがある。至急、代表者と話がしたい」
「ん?マーガレットだと!?俺がこの軍の代表者のサム・ライだ。話を聞こう」
「このような形での使者に対して、思いとどまってくれたこと感謝する。早速本題に入らせてもらいたい。レーニン・ガロリングによって、マーガレット・ハインリッヒは先程命を落とした」
「馬鹿な!?レーニンは、何を考えているのだ!陛下を説得できる材料を自らの手で、潰すなど」
「マーガレットがレーニンの養女となることを拒み、隠し持っていた短刀で、その命を絶った。これが証拠の短刀だ。それと間も無くレーニン・ガロリングが討ち死にしたという情報も流れるだろう」
「何がどうなっている!?レーニンの奴は、我らが主にマーガレットの説得は既に済んでいると。まさか嘘の報告をしたのか!?我らの力を借りるために」
「その事に関しては、申し訳ないとしか言えない」
「それではすまないのだ!いや、しかしレーニンが討ち死に?」
「近衛兵から聞いたところによるとヒヒッという奇妙な笑い声をした兵士に『マーガレットが死んだのならお前に用はない』と背後から心臓を貫かれた」
「奇妙な笑い声をした兵士だと?」
「勿論、そのような兵士がガロリング卿の配下に居たという話は聞いたこともない。恐らく、敵対勢力であるサブロー・ハインリッヒの仕業なのは間違いないと考えている」
「まさか!?いや、しかし奇妙な笑い声をする男などアイツ以外に」
「その反応は!?心当たりがあるのならお教え願いたい!盟主を殺された我らは瓦解寸前、下手人まで逃したとあれば、これ以上継戦することはできない。何としても捕らえて背後を明らかにしなければならないのだ」
サム・ライは、思い当たる人間について、これは使えると判断して、秘匿する事にした。
「いや、勘違いさせたのならすまない。俺にも心当たりはない。レーニン殿の件、残念だ。我らが救援すべき対象は消失した。我らの関与が疑われる前にこの場から撤退することをお許し願いたい」
「救援に来た時点で既に無駄だと思いますが」
「ボソボソと何か言ったか?」
「いえ、ガロリング卿とどのような約束をしていたのかわかりませんがこれはこちらの落ち度、直ぐに撤退することをオススメします」
「知らせてくれたこと感謝する」
こうして、ルルーニ・カイロの危機迫る口八丁の嘘によって撤退する連合軍。
その中で、明らかに他の将と違う安堵した表情をしている優しそうな雰囲気の男性にルルーニ・カイロは近寄るとポケットの中に紙を忍ばせ、耳元で呟く。
「そのままで。今、貴方のポケットに紙を入れました。貴方が今、1番連絡を取りたいであろう人物への片道切符です」
「!?成程、見事だね。頭に血が昇っていたサム殿を撤退に導くなんて。深くは聞かないよ。感謝したいぐらいだ。有り難く、貰っておくよ」
そうルルーニ・カイロは、リチャード・パルケスの懐にあの宿屋の場所を記した地図を忍ばせ、そこの店主に『オーナーに会いたい』とだけ伝えるようにと書いたのである。
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