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2章 オダ郡を一つにまとめる
112話 連合軍の撤退
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サム・ライが代表者だと勝手に名乗り、話をした後、戻ってきた。
「サム殿、ガロリング卿の使いの者からなんと言われたのです?」
「ライアンよ。あの城を焼くのは中止だ」
「何故です!?」
「マーガレットが亡くなった。この戦に最早、大義はない。サブローに我らの関与が勘付かれる前に撤退する」
「随分勝手だね。じゃあ、彼らの人権を冒涜した悍ましい行いは一体何の意味があったんだい?」
「リチャード。俺が悪かった。頭に血が昇って、冷静な判断ができなかったのだ」
リチャード・パルケスは、サム・ライの変わりように、何か裏があると勘付くが撤退を止める理由はない。
それゆえに波風を立てないように当たり障りのない言葉で返した。
「いえ、わかってくれたのなら良かった。彼らを降ろして、祈りを捧げても?」
「構わない」
リチャード・パルケスが1人1人、丁寧に遺体を下ろすと、もう既に肉は焼け焦げ、ところどころ骨の露出した物言わぬ遺体を前に祈りを捧げた。
「天に召します我らが主よ。我らの罪を許し賜え。彼らの罪を許し賜え。この魂が天へと無事届くことを願わん。イーメン」
この行動を見ていたテキーラ・バッカス。
「熱心なセイントクロス教の信者が居ようとはな。だがアイランド公国では祈りを禁じていたはず。しかし、敵にもあのように人間のできた者が居たのだな。祈りを捧げてくれたこと感謝する。彼らにもう苦しみが訪れんことを」
「オッサン、何してんだ?」
「友たちのために祈っていたのだ。アイツらが恨みでこの地に居座られては、ワシもおちおち昼寝もできんからな。ガッハッハ」
「オッサン、こういう時は泣いて良いんだぜ。俺は向こう向いてるからよ」
「ジャガの癖に、気が効くではないか。だが、だがワシが泣けば、アイツらも安心できぬであろうが。ぐっ。ぐぅぅ」
テキーラ・バッカスは、唇を噛み友を亡くした悔しさを滲ませながら嗚咽を漏らす。
ジャガ・イモは、そんなテキーラ・バッカスのことを気付かぬフリして、静かに涙を流す。
ジャガ・イモにとって、彼らと過ごした時間はテキーラ・バッカスに遠く及ばない。
だが、農民上がりの自分を信じて、策に従ってくれただけでなく仲間として受け入れてくれた。
これから彼らと共にテキーラ・バッカスのことを盛り立てていく決意を固めた矢先の出来事だった。
彼らには彼らなりの信念があった。
それは理解できる。
でも、死ぬ可能性の高い方法を選ぶ必要など無かったはずだ。
戦争とは人が簡単に死ぬ。
それを悲しむ暇さえ与えてくれない。
だが、今だけは今だけは彼らのために泣くことをどうか許してほしい。
共にこの戦を戦った戦友のために。
『イモ軍師、俺たちの分までお前がテキーラ様を支えるのだ』
『イモ軍師、テキーラ様のこと頼んだぞ』
「クライナーのオッサン。コカレロのオッサン。アンタらの想いは俺が受け継ぐ。オッサンのことは俺に任せてくれ。だから、ゆっくりと休んでくれよな。うっ。うぅ」
風に乗って、聞こえてきたように感じる2人の声にジャガ・イモは、より一層テキーラ・バッカスのために身を粉にして働くことを決意するのだった。
リチャード・パルケスが祈りを終え、撤退の準備を始める。
「叔父上、気は済みましたか?」
「ライアン、君には失望したよ。あのような人道にもとる策を推進するなんて」
「申し訳ありません。サム殿に逆らうのは得策ではないと考えたのです。キチョウのためにね」
「その歪んだ愛情は、早く捨てるべきだと言ったはずだよ」
「俺とキチョウに血の繋がりはありませんから」
「!?いつから知っていた?」
「僕をみくびらないことです叔父上。必ずキチョウは、俺のモノにします。早く、そんなくだらぬ宗教など捨てさせてね」
「そう」
まさかライアンが知っていたなんてね。
キチョウは、僕が建立した孤児院の前に捨てられていた。
僕は、キチョウを娘として育てるつもりだったのだけれど。
その頃、子供のいなかった兄夫婦に請われる形で、奪われた。
その後、直ぐに兄夫婦にライアンが誕生。
兄夫婦の意向で、キチョウの方が姉なのに妹とされた。
この国では、女性よりも男性の方が優遇されるからね。
それにキチョウは、事あるごとに僕のところに訪ねてきて、僕の信仰するセイントクロス教の教えを熱心に取り入れた。
その結果、兄に追い出される事となったのだけど。
僕としては、大事な娘が戻ってきてくれて、本当に嬉しい。
絶対に守らなければならない。
兄夫婦に義理を通すのは、これで止めよう。
自分にとって、何が大事かライアンのお陰で、ようやくわかったよ。
娘のことは僕が守る。
「撤退だ」
サム・ライの言葉で連合軍が撤退を開始する。
ククッ。
デイルの奴は下手を打ったな。
ヒヒッという奇妙な笑い声などお前以外におるまい。
これで、我らが参戦した理由をレーニンの救出にすり替えて、全てをタルカのせいにできるというもの。
あわよくば嵌められたことを強調して、陛下にサブローへの協力を取り付け、領土を切り取るのもアリだな。
まぁ、何はともあれ我が主に手土産はできた。
この戦での戦果としては、これで十分であろう。
この数ヶ月後、ルルーニ・カイロに謀られたことがわかり、ドレッド・ベアの怒りを買ったサム・ライは単独行動の責任を取る形で処刑される。
「サム殿、ガロリング卿の使いの者からなんと言われたのです?」
「ライアンよ。あの城を焼くのは中止だ」
「何故です!?」
「マーガレットが亡くなった。この戦に最早、大義はない。サブローに我らの関与が勘付かれる前に撤退する」
「随分勝手だね。じゃあ、彼らの人権を冒涜した悍ましい行いは一体何の意味があったんだい?」
「リチャード。俺が悪かった。頭に血が昇って、冷静な判断ができなかったのだ」
リチャード・パルケスは、サム・ライの変わりように、何か裏があると勘付くが撤退を止める理由はない。
それゆえに波風を立てないように当たり障りのない言葉で返した。
「いえ、わかってくれたのなら良かった。彼らを降ろして、祈りを捧げても?」
「構わない」
リチャード・パルケスが1人1人、丁寧に遺体を下ろすと、もう既に肉は焼け焦げ、ところどころ骨の露出した物言わぬ遺体を前に祈りを捧げた。
「天に召します我らが主よ。我らの罪を許し賜え。彼らの罪を許し賜え。この魂が天へと無事届くことを願わん。イーメン」
この行動を見ていたテキーラ・バッカス。
「熱心なセイントクロス教の信者が居ようとはな。だがアイランド公国では祈りを禁じていたはず。しかし、敵にもあのように人間のできた者が居たのだな。祈りを捧げてくれたこと感謝する。彼らにもう苦しみが訪れんことを」
「オッサン、何してんだ?」
「友たちのために祈っていたのだ。アイツらが恨みでこの地に居座られては、ワシもおちおち昼寝もできんからな。ガッハッハ」
「オッサン、こういう時は泣いて良いんだぜ。俺は向こう向いてるからよ」
「ジャガの癖に、気が効くではないか。だが、だがワシが泣けば、アイツらも安心できぬであろうが。ぐっ。ぐぅぅ」
テキーラ・バッカスは、唇を噛み友を亡くした悔しさを滲ませながら嗚咽を漏らす。
ジャガ・イモは、そんなテキーラ・バッカスのことを気付かぬフリして、静かに涙を流す。
ジャガ・イモにとって、彼らと過ごした時間はテキーラ・バッカスに遠く及ばない。
だが、農民上がりの自分を信じて、策に従ってくれただけでなく仲間として受け入れてくれた。
これから彼らと共にテキーラ・バッカスのことを盛り立てていく決意を固めた矢先の出来事だった。
彼らには彼らなりの信念があった。
それは理解できる。
でも、死ぬ可能性の高い方法を選ぶ必要など無かったはずだ。
戦争とは人が簡単に死ぬ。
それを悲しむ暇さえ与えてくれない。
だが、今だけは今だけは彼らのために泣くことをどうか許してほしい。
共にこの戦を戦った戦友のために。
『イモ軍師、俺たちの分までお前がテキーラ様を支えるのだ』
『イモ軍師、テキーラ様のこと頼んだぞ』
「クライナーのオッサン。コカレロのオッサン。アンタらの想いは俺が受け継ぐ。オッサンのことは俺に任せてくれ。だから、ゆっくりと休んでくれよな。うっ。うぅ」
風に乗って、聞こえてきたように感じる2人の声にジャガ・イモは、より一層テキーラ・バッカスのために身を粉にして働くことを決意するのだった。
リチャード・パルケスが祈りを終え、撤退の準備を始める。
「叔父上、気は済みましたか?」
「ライアン、君には失望したよ。あのような人道にもとる策を推進するなんて」
「申し訳ありません。サム殿に逆らうのは得策ではないと考えたのです。キチョウのためにね」
「その歪んだ愛情は、早く捨てるべきだと言ったはずだよ」
「俺とキチョウに血の繋がりはありませんから」
「!?いつから知っていた?」
「僕をみくびらないことです叔父上。必ずキチョウは、俺のモノにします。早く、そんなくだらぬ宗教など捨てさせてね」
「そう」
まさかライアンが知っていたなんてね。
キチョウは、僕が建立した孤児院の前に捨てられていた。
僕は、キチョウを娘として育てるつもりだったのだけれど。
その頃、子供のいなかった兄夫婦に請われる形で、奪われた。
その後、直ぐに兄夫婦にライアンが誕生。
兄夫婦の意向で、キチョウの方が姉なのに妹とされた。
この国では、女性よりも男性の方が優遇されるからね。
それにキチョウは、事あるごとに僕のところに訪ねてきて、僕の信仰するセイントクロス教の教えを熱心に取り入れた。
その結果、兄に追い出される事となったのだけど。
僕としては、大事な娘が戻ってきてくれて、本当に嬉しい。
絶対に守らなければならない。
兄夫婦に義理を通すのは、これで止めよう。
自分にとって、何が大事かライアンのお陰で、ようやくわかったよ。
娘のことは僕が守る。
「撤退だ」
サム・ライの言葉で連合軍が撤退を開始する。
ククッ。
デイルの奴は下手を打ったな。
ヒヒッという奇妙な笑い声などお前以外におるまい。
これで、我らが参戦した理由をレーニンの救出にすり替えて、全てをタルカのせいにできるというもの。
あわよくば嵌められたことを強調して、陛下にサブローへの協力を取り付け、領土を切り取るのもアリだな。
まぁ、何はともあれ我が主に手土産はできた。
この戦での戦果としては、これで十分であろう。
この数ヶ月後、ルルーニ・カイロに謀られたことがわかり、ドレッド・ベアの怒りを買ったサム・ライは単独行動の責任を取る形で処刑される。
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