ヴェスパラスト大陸記

揚惇命

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最終章 真実をその手に掴み悪を討て

激昂の屍王プリンス

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 ゾンビの身体となり朝が苦手となった屍王プリンスが配下の声で目を覚ます。
「騒々しいな。何事だ!」
「プリンス将軍、ようやく目が覚めてくださいましたか。ウエストリンギア将軍とダイアンサス将軍が寝返りました」
「なんだと!?一体俺が寝ている間に何があったというのだ!」
「プリンス将軍の命じた通り、戦を仕掛けようと動く時には既に、居なくなっていまして」
「どうして、すぐに起こさない!」
「何度も起こしたのですが、ぐっすりと」
「朝はだから苦手なのだ。今、何時だ」
「深夜です。相手の陣を覗いたのですが眠っているのか人1人居ません。裏切り者を含めて処分するチャンスかと」
「では、進軍を開始せよ」
「えっ?ゾンビが先陣を担ってくれるのでは?」
「お前たちはまだ理解していないようだな。もう良い。これだから人間は面倒なのだ」
 プリンスは口から瘴気を吐き出すと人間の兵士どもをゾンビへと変えて、突撃を指示する。
「突撃せよ」
「あぅぅぅぅぅぅ」
 ゾンビたちが押し寄せてくる陣地には誰も居ない。スパーダは既に次の策を打っていたのである。
「この陣地を捨てる?」
「うむ。イーリスは、あの者たちを連れて後方へと下がった。次の相手はゾンビと人間の兵の混合だ。だが足並みが揃うと思うか?揃わない足並みをどう揃えると思う?」
「まさか、全員を魔物に?」
「うむ。先の2人と違い。元エンペラード王国の王子とやらは完全に魔物化している。いうことを聞かない兵士を魔物じゃないからだと思っても仕方ないだろう。そもそも足並みを揃えないとダメなわけだからな」
「でも、常軌を逸している」
「それが魔物へと完全に身を堕とすということだ」
「じゃあ、スパーダも?」
「いや、そういうのに反対している魔物がデイモン様を神輿に担いだのであろう。俺はそういうのと関わり合いたくなかったから傭兵稼業をしていたのだ」
「魔物の中にも人間との共存・融和を望む者もいれば滅ぼしたいと思う者もいるということだ。人間に脅威を抱いているからなのだ」
「オックスは、元々そういう考えだったってこと?」
「あぁ、人間がいるから我々が脅かされると思っていた。デイモン様に協力して、アレクシアを与えられる前まではな。あの男は恐ろしい。己が人間の体を介して、産ませた女を魔物や男に与えて懐柔して、意のままに働くようにしていくのだ」
「人間だけがそういう考えなのかと思っていたけど魔物にもいろんな考えを持っているのがいるんだな」
「そういうことだ。攻めてくるのはどうせ駒としてしか利用価値のなくなった元人間たちだ。我々は後ろで踏ん反り返っている屍王とやらの御尊顔を拝みに行こうではないか」
「それは賛成だな。こんな奴らの王が魔王国に復帰したら混沌が深まってしまう」
 そして、今プリンスのいる本陣に奇襲を仕掛けた。
「あぅあぅ」
「全ての人間をゾンビにしたのが仇となったな」
「貴様ら。全魔物は、我が王の前に屈するがいい。何故わからぬ。魔物となればこうして幸せを手に入れることもできるというのに。なぁ、マミ・ユミ・アカリ」
 声にならない声を発している女の姿をしたゾンビを愛おしそうに抱きしめているプリンス。だが、カイルから見れば、彼らはプリンスの身体を貪っているようにしか見えない。
「これが幸せ?愛しい人をゾンビにして、物言えないようにして、そばに置くことが?」
「お前に何がわかる!今まで、エンペラード王国の王子である俺に取り入ろうとしていた親族連中のガキどもが我先に責任を俺に押し付け、俺の愛するマミ・ユミ・アカリに陵辱を働こうとして、拒否されたからと、殺そうとしやがったんだぞ!魔物を倒せば出してやると言われたにも関わらずな。人間の浅ましさをあの日ほど痛感したことはなかったよ。それとキマリには感謝してるんだ。こんな俺に素晴らしい力をくれたのだからな。この力で、あのクソ野郎どもは全部肉にしてやった!人間などという下等な生物は魔物という最上級の生物に全て喰われちまえば良いんだ!アヒャヒャヒャヒャヒャ」
「イカれてやがる」
「人工的に生み出された魔物であるキマイラよ。お前は本当にこれで良いのか?そこまでして、その男に尽くす価値があるのか。至る所をゾンビに喰われてまで」
「何を言っている?キマリに噛み傷があるだと?俺の妻たちがやったと言いたいのか?無礼なことを言うんじゃねぇ!」
「オックス・カイル、最早、何を言っても無駄じゃ。此奴は、精神を病んでおる。恐らく、我らと見えているものが違う」
 違いはたくさんある。プリンスには幼馴染の女たちの声が聞こえる。だがカイルたちにはあぅあぅとしか聞こえない。プリンスは、愛おしそうに幼馴染の女たちを抱きしめている。だがカイルたちには女ゾンビが食欲を満たすためプリンスに噛み付いているとしか見えないのだ。プリンスにはキマリが美しく気高い傷のない魔物に見えている。だがカイルたちには、人により生み出された人工生物であるキマイラの身体のいたるところには、恐らく女ゾンビたちに噛まれたであろう複数の咬み傷が見受けられるのだ。
「私のせいなのです。私が彼を喰わなければ」
「お前、話せるのか?」
「仕方ないのです。私が彼を守らなければ、心の壊れてしまった彼を」
「愛してしまったんだな?」
「愛?これが?」
「何を話している。キマリ、とっととコイツらを殺せ!」
「お前は話せない、そう認識しているんだな?」
「えぇ、彼は自分の妄想の世界で生きることで心を守ることを選んだんだと思います。攻めて、あの御三方をゾンビから人に戻せたりできれば好転するかもしれませんが」
「不可能ではないかもしれない。母さんがいれば」
「確かにイーリスなら可能かもしれんな」
「勝手なことを頼んでいるのはわかっています。ですが可能ならお願いします」
 こうして、一抹の望みを抱きイーリスの元にカイルが向かうのであった。
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