Confesess(自白屋娘)6 狙われたConfesess 決死の脱出劇 下巻

蓮時

文字の大きさ
18 / 24

下巻 第七章 (1)

しおりを挟む

翌朝、天美は日課のジョギングをしていた。例の事件に巻き込まれ、できなかったので、久しぶりのジョギングである。走行中、まずは、
「ドーブラエ ウートラ お元気でしたか」
 ロシア人のナターシャさんが、続いて、にっこりと微笑みながら、いつものトレードマークのミニヘッドホンをつけた、ドイツ人少年のヨルク君が、
「グーテン モルゲン 久しぶりだね」
  と背中をたたき、あいさつをしてきた。なおも、走っていると、
「おはよう、少しの間、見なかったけど、安心したよ」 
「よ、おはようさん。姉ちゃん、しばらくぶり達者だったかい」
 次々と、常連が声をかけてきた。彼らは、新聞で、ある程度の事件の情報を得ていたが、まさか、目の前の少女が事件に関係をしていたなんて、夢にも思ってない様子である。
 だが、今朝に限り、ある人物だけが最後まで姿を現さなかった。
「やはりね。しかし、こうも、わかりやすい行動するなんて」
  難しい顔をした彼女は、大きな決意を固めると、ある場所に行くことにした。

「確か、このあたりと言っていたような。なかったら、今度こそ調べてこないと」
 天美はそうつぶやきながら、南麻布の住宅地を歩いていた。とそのとき、彼女のよく知っている生き物が目に入った。その生き物は小さな庭に放たれていた。
「アンディ!」
 天美は、その犬の名を呼んだ。そう、それは、彼女の早朝のジョギング中に、いつも、じゃれついてきた、スピッツのアンディであったのだ。
 つまり、ここは、その飼い主の家であった。表札にはカーマイクルと表記されていた。
 アンディは、門扉越しに、近づいてきた天美の姿を見て、立ち上がった。そして、
「クーン、クーン、ハアハア」
 目を細めながら舌を出してきた。その興奮により、門扉がカチャカチャと音を立てた。
「アンディ、どうしたのだい? 朝っぱらから」
 庭に男性があらわれた。天美のよく知っている人物アロンだ。アロンは、玄関先にいる天美を見つけると、ギョッとしたような顔をした。だが、驚いてばかりはおれずに、
「き、君か」
「グッドモーニング、ミスターアロン」
 そして、天美も笑いながら英語であいさつをした。
「グッドモーニング、天美ちゃん。おどかしっこは、なしにしてくれよ。それで、朝っぱらから、どうしたのかな?」
 アロンは動揺をさとられないように冷静に尋ねてきた。
「今日、姿、見なかったから、何か、あったかな、と思って来たのだけど」
「そうなんだ。ちょっと、色々あってね」
「もしかしたら、ここから、引っ越すのかな」
「ど、どうして、それを?」
 アロンは再び反応した。図星であったのだ。
「どうしたのって、ただ、そう思っただけなのだけど」
「なーんだ、ただのカンか」
 アロンは、ホッとしたような表情をすると、
「まっ、せっかく来たのだから、入ってくれ」
 そう言って、アロンは天美を室内に招いた。

 天美が通された場所は、庭が見渡すことができる来客用の部屋である。庭は芝生がよく手入れされており、アンディは目をうるませながら天美を見つめていた。
 彼女もまた、テーブルに座りながら、そのアンディを目を細めて見ていた。
「お待ちどうさま」
  声とともに、様々な食事が乗った銀のプレートを持った女性が現れた。そして、アロンは、にっこりとした表情で言った。
「紹介するよ。妻のテセラだ」
 彼女もまた、天美に微笑みながら、目の前に、いくつかのパンが入った大きなかご、紅茶の入ったティポット、ミルクが入ったミルク入れを置いた。
  続いて、小皿にのった、スプーンとティーカップを、主人であるアロンと天美の前に並べた。最後に、バターとジャムが入った、それぞれの容器と小皿、グラスに入ったスティックシュガーをテーブルに置くと、その場を去っていった。
「これは?」
 天美が尋ねると、
「むろん、朝食だよ。こんな時間だから、まだ終わらせていないんだ」
 アロンは笑いながら答えた。何も屈託もない様子である。
「でも・・」
「遠慮するなよ、君もまだなのだろ。ワイフの焼いたパンはおいしいよ」
  アロンは手に取ったパンを手に天美に食事をすすめた。天美は、そのアロンの行動をしっと観察をしていた。そして、同様に、かごからパンを手に取って口に運んだ。
 アロンは次に、ティーカップの中にティーポットから二人分の紅茶をそそいだ。そして、
「どっちでもいいから、取りなよ」
 と言った。ティーカップの選択権は天美に任せたということか、天美は、手前の方のカップとスプーンを手に取った。それを見たアランは、グラスから一本のスティックシュガーをとりだし、封を開けて自分の紅茶の中に入れた。
 そして、ミルクは入れずに口に運んだのである。その行動を見た天美。目の前のミルクを皿に注ぎ込むと、そのまま、庭にいるアンディをのところに持って行こうとした。
「天美ちゃん、どうしたの?」
 アロンの驚いた顔をよそに、
「せっかくの朝でしょ。わったしからも、アンディ君に、ミルクあげようと思って」
 天美は微笑みながら答えた。そして、相手も、
「そうかい、天美ちゃんが、直接、くれるのなら、アンディも大喜びだね」
 という言葉を返してきたのだ。その応答に天美は戸惑った。アロンは、紅茶にミルクを入れなかった。つまり、ミルクに何か入っているはずだ。
  だからこそ、アンディに飲ませようとしたのに、この態度は、アロンは、表向き、公園の散歩を怪しまれないようにだけの理由で、アンディを小道具として飼っているのか。
 だから、睡眠薬が入っていることがわかっていても驚かない。人間だったら、わずかの時間で昏睡する量、スピッツなら悶死するかもしれない。
 目の前の人間はそこまで、冷徹な人間なのか。彼女の直感は違うと判断していた。だが、その直感は同時に警告をも発していた。その結果、考えついたことは! 
 彼女は、まさかここまで? と思いながら、グラスから、無造作に一本のスティックシュガーを取り出した。そして、その封を開け、目の前のミルクの皿に注いだ。その途端、
「それをあげるのは、やめてくれ!」
 アンディの叫び声がした。
「どうしたの? 悲鳴なんかあげて、子供のように可愛がってるアンディ君でしょ。ここは、平等にあつかうべきでしょ」
「負けたよ。僕の負けだよ」
  アロンは椅子にへたりこんだ。彼にとってアンディは、やはり、大切であったのだ。
  読み通り、スティックシュガーの方に強力な睡眠薬が混ぜてあった。おそらく、アロンが取ったスティックシュガー以外は、すべて、睡眠薬入りであろう。何かの目印があり、その目印がついた一本を、先に彼が取ったということである。
「HEY,YOU!」
 天美が振り返ると、二十二口径のリボルバーを持った女性が立っていた。テセラである、彼女は天美に向かって銃口を向けていた。
 当然、それをにらみつける天美。両者の間には険悪な空気が、たまらず、
「やめなさい、テセラ!」
  アロンが叫んだが、作戦が失敗し、冷静を失ったテセラは銃を下ろさなかった。
「聞こえないのか、テセラ。今の君では、この子に当たりやしない、やめるんだ!」
「でも、せっかく、引っ越さなくてもよくなるのに、あたしたち!」
 その興奮をしているテセラに、アロンは近づいて耳もとでささやきを、おそらく、説得をしているのであろう。やがて、説得が功をなしたのか、テセラは銃を引いた。
「あとは、僕がなんとかする。だから、ここは、わかったね」
 結局、テセラは、その場から去っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...