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下巻 最終章 (2)
しおりを挟む「そう、その通り。よく考えたら、もう、この家の場所、わかっちゃってるのよね。その電話の発信スイッチ、きらない限り、もう、この家住めないかも」
天美がそう言ったとき、
「うっ」
声にならない声が聞こえた。その主はテセラだ。彼女が思わず発した声だ。
ここで、天美はテセラをあらためて観察した。自分に銃を向けている女性、テセラは残酷な人間なのか、本当は情け深い、寂しがり屋ではないかと。
まず、彼女は誰も殺していないということである。それは、過去、彼女が対峙した銃のエキスパートとは、まったく違う人物像であった。
アメリカのような国では、二十二口径の銃は護身としては必要だ。実際、セラスタでお世話になったミレッタさえも、つねに持っている。それに怪我、相手を倒さなければならないときは、大怪我をさせることはいくらでもある。
〈ミレッタの方が冷たそうだし、ざく姉の方が残虐、所長さん(御雪)も底が知れない〉
とさえ思っていた。
寂しがり屋と感じたのは、今までの態度である。今回、テセラは『もう、この家住めないかも』という言葉に反応した。先ほど、取り乱したときに言っていた言葉も、『せっかく、引っ越さなくてもよくなるのに、あたしたち』であった。この家を、手放ことに反応したのだ。また、アロンの言葉に従属的なことも気になっていた。
アロンの話だとテセラは超能力者ということだ。つまり、小さい生い立ちのとき、それなりに、いろいろとあったのであろう。だから、孤独になるのが怖いのだ。
〈だいたい、この、奥さんは、わったしの、ちからについて、どこまで、知らされてるのか? もしかして、まったく知らされずに、ただ、アロンの命令で動いているだけではないのか? どちらにしても、心は優しい人なんだ〉
この女性、テセラは冷静なときは、念動力が発動して、百発百中だが、気持ちが乱れたら、その限りではない。それは、先ほどのアロンの態度が証明していた。
彼女は酷だと思いながらも、そこを、つくことにした。そして、
「とにかく、奥様も、ここから引っ越しね。旦那さんも、わったしの身体検査して、発信器ぐらい持ってるかどうかぐらいは、調べておけばよかったのに、バカよね」
テセラの顔が曇るのを見てアロンは、そのテスラに向かって声を掛けた。
「引っ越しぐらい、しょうがないよ。この子を捕まえて本国に送るということは、ものすごい偉業なのだよ。たとえ、ここを、離れることになっても、僕たちは、いい生活ができることは変わらないよ。もしかしたら、本部勤務に昇進するぐらいの快挙なんだ」
「本当にそうかなあ」
天美はそう答えた。負けず嫌いであるが、テスラに対しての揺動である。
「間違いないよ、テセラ。この子を本国に送り込んだら、僕たちの未来は明るいんだ。だから、今は、そのことに集中すればいいだけだよ。それより君」
アロンは再び天美を見つめると、次のように言った。
「結局、君の立場は変わらないのは一緒だよ。今、仲間が助けに来なければ意味がないだろう。さらわれたあとに、踏み込んできてもおそいのだからね」
アロンの言葉は正しかった。そのあと、アロンは、
「どのみち、あと五分もすれば、うちの方の仲間がくるよ。そのとき、携帯電話を取り上げればいいのだよ。君を眠らせて、うかつに触れないように気をつけてね。あとは、その電話を、どこか、どこかほかの場所に遺棄する。それで問題ないさ。とにかく、これで、発信器のことは処理できるね。盗聴器ではないのだから」
アロンは自分が勝ったという手応えを持ちながら答えていた。
「では、その、盗聴器というもの、持ってたら、どうする? ここの今までの会話、すべて、つつぬけになってるけど」
「盗聴器の登場か。そんな言葉しか言えないなんて、だんだん苦しくなってきたね」
アロンは前以上に余裕顔であった。その顔を見ながら、天美は鋭い声で、
「どうなの、まだ、返答聞いてないけど。わったしが、盗聴活動してたらどうなるの?」
「それは、仮定の話だけど、まずいことになるね。いくら、君を本国に送るという大金星をあげても、さすがに盗聴なんかされていたら、厳罰ものだよ」
「厳罰ですめばいいけど。お払い箱になったりして」
「実際、大金星をあげなきゃ、お払い箱になるぐらいの失態だからね。でも、僕は君は盗聴器を持っていないと断言できるね」
「どうして、そう思うの? 身体検査すらしてないのに」
「自分が不利になったからと、急に言い出すなんて持っているわけないだろう。それにね、先ほども話題に出たけど、君は、ここから帰ろうとしたことだよ。帰るつもりがある人間が盗聴行為などするのかい。帰る気なら、録音をするはずなのだよ」
「どっちでも、一緒じゃないの」
「大きな違いがあるよ。録音ぐらいだったら、君を眠らせたとき、発信器のときと同じように、気をつけて、所持品を押収すればいいだけだよ。でも、盗聴をされているのだとしたら、誰かほかに受け手がいて、そいつに、情報が、すでに、もれているということなのだから、今更、どうしようもないじゃないか」
「そういうことね。だからもう、観念した方がいいと思うけど」
「いや、僕は絶対に盗聴されてないと思うね。僕は、ずっと観察をしていたけど、君は一度も、器械のスイッチらしきものを操作することはなかった。リモコンのようなボタンもさわっていなかった。つまり、盗聴器を持ってないということだよ」
「それは、甘いね。最初から、スイッチ入れて、乗り込んだことも考えないと」
「でも、無事に帰る気だったのだろ。それで、あらかじめ、盗聴器のスイッチを入れておいて、一連の行動をしていたなんて、そんなこと、どう考えてもありえないよ」
「確かに、カーマイクルは、そう思いたいのよね。一流の工作員気取ってる手前、小娘の演技一つ見抜けないぐらい人間観察、未熟なんてこと、絶対、認めたくないからね!」
天美は一気に口撃モードに入った。
「君もいやなことをいうねえ」
アロンは気色ばんだ。プライドが傷ついたのか、もう一押しと思った天美は、
「盗聴器だって同じこと、わったしが持ってるわけない、と自分に言いきかせるしかないよね。実際、盗聴されてたら、大恥なのだから。スパイの拠点での会話が、だだもれなんて、話にならないよね。たとえ、わったし、捕まえるの成功したとしても、評価がた落ち」
「がた落ちしても、君を捕まえ、洗脳し仲間にすればいいのだよ! 今まで、誰しも成し遂げられなかったことなのだからね!」
アロンのボルテージが上がった。彼は思わず椅子から立ち上がっていた。
「そうなの、でも、盗聴あったこと認めたとすると、そんな、のんびりしたこと言っておれないよね。さっき、いろいろ、普通で、話していけないこと話しちゃったのだから」
「あれぐらい何とかなるよ。チームのメンバーとか漏らさなければね」
「じゃあ、奥さん超能力者だ、ということも、ばれちゃってもいいんだ」
「うっ」
再びテセラの、うめきが聞こえた。彼女を直撃したのだ。
天美が、そのテセラを観察すると、少し顔におびえらしきものが見えた。仮面の顔を百パーセントであるとすると、九十パーセントぐらいか。つまり、今の段階で天美が飛び出せば、一割の勝機ができたことになる。すぐさま、アロンがフォローに入った。
「心配ないよテセラ。君の能力がばれることはないよ。この子は盗聴器なんか絶対に持ってないね。今回も僕を信じるんだ。そんな、言葉なんかに惑わされるんじゃない!」
夫の言葉に、テセラは冷静を取り戻そうとした。
だが、チャンスと見た天美は容赦なかった。彼女は声を大きくすると、
「やはり、カーマイクルは甘ちゃんね。本当に確かめるため、身体検査しないのだもの。もし確かめなくて、盗聴器あったこと、わかったら、クビだけですまないのじゃない!」
重ねるように、おどかしの言葉をかけ、なおも、テセラの方を向いて言った、
「クビだけじゃすまないってことは、組織に消される可能性も考えないと。隠し事である奥様の能力も、つつぬけになっちゃったこと、わかっちゃったし、これは大変ね。あーあ、愚か者の旦那さん持ったばっかりに、奥様、お気の毒に」
やはりというか、ここで、大きくテセラの表情が変わった。不安にまみれ、夫に訴えるような目つきである。今なら、飛び出して、能力を使う成功率、二割の可能性か。テセラの様子を見て、アロンも慌てだした。
「テセラ! この子の言葉に耳を貸すな! 盗聴されているわけはないんだ!」
アロンはそう叫んだが、彼女の不安は戻らなかった。かなりの心配顔である。今にも仮面が崩れて任務に支障がきそうな状況になっていた。
「わかった。今から、僕が確かめればいいのだろう」
そして、アロンは、盗聴器を見つけるために天美に近づこうとした。
ついに、待ちに待った展開が来た。今のテセラの状態なら、弾道の範囲内に夫が入ったとき、正確には撃てないだろう。ここで、近づいてきたアロンに触れれば勝負ありだ。
天美が固唾をのむなか、アロンは早歩きで向かってきた。
だが、あと少しの距離で彼女の接触となる刹那、立ち止まったのだ。そして、
「おっと危ない。危うく、引っかかるところだったよ」
と言って苦笑した。そのまま、アロンは、目論見が失敗したときのくやし顔をして、自分を見つめている天美に向かって、得意そうに声を出した。
「本当に引っかかるところだったよ、天美ちゃん、人が悪いね。僕が盗聴器を探そうと範囲内まで近づいたら、手を出して、能力を発動させる予定だったのだろ。本当は、盗聴器なんて持っているはずはないのにね。君は、いつもそうやってピンチを脱してきた。まったく、その頭の回転のよさには頭が下がるよ。だが、今回ばかりは、そんなわけにいかなかったね。僕もくどいほど、上から注意を受けていたからね」
確かに、それが、彼女の作戦であった。彼女は、実際、アロンの自宅には真相を聞きに行くのが目的であったので、本当に『盗聴器なんて最初から用意していなかった』だからこそ、このように相手を挑発し、不安にさせる行動をとったのだが・・
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