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下巻 最終章 (3)
しおりを挟む万策尽きた表情をしている天美をあざわらうかのように、アロンの言葉は続いた。
「とにかく、残念だったね。おっと、肝心な盗聴器の存在を確かめることを忘れていたよ。実際に盗聴なんかされていたら、やはり、僕の立場はよくないからね」
そのあと、アロンは携帯端末を取り出した。そして、言った。
「では、今から調べてみようかな。実は盗聴されているかどうか確認する方法なんて、いくらでもあるのだよ。さっきは、つい、あせっちゃったけど。このアプリは、かなり信頼できるもので、盗聴器の存在なんて、すぐわかっちゃうんだ。よく考えたら、本当は、こんなことをする意味なんてないのだけど、どうにも、テセラが落ち着かないのでね」
天美は、その言葉を下を向いて聞いていた。盗聴されてない、ということが判明し、その憂いをなくさせてしまっては。念動力者が正常心を百パーセント取り戻すことになったら、残り時間から見て、この状況から逃れるのは絶望的だからだ。
その彼女の心中を見通すように、アロンは、
「君は本当に手強かったよ。持ってないものを持っているように見せるなんて、ここまで疲れたのは初めてだね。でも、その心理合戦の決着は、またも、僕の勝ちだったね。あとは、新しい国、僕の本国アメリカで、残りの人生を楽しむといいよ」
そのあと、テセラの方を向くと、
「では、テセラ、今から、確かめるからね。この器械に何も反応がなかったら、盗聴されてないっていうことだから、されてないとわかったら、本当に集中するのだよ」
と言ってサーチボタンを押した。
押したと同時に、異様な警告音が端末から発された。そして、点滅しだしたのだ。それも激しく、これは、今まさに盗聴中の証明である。
「何だと、本当にこいつ、持っていやがった! これは、やばいぞ!」
アロンは冷静をかいたのか、口汚く叫んだ。テセラの顔も驚愕的になっていた。
そのチャンスを逃さなかった天美。すでに、飛び出していた。
テセラは慌てて引き金を引いたが、この状況では天美の方が上であった。銃弾は目標である天美の左足をわずかにそれた。二発目を撃とうとしたとき、天美は、すでにテセラのふところに入り身体に触れていた。同時に弱善疏も、
「アロン、この子は逃がさないと」
能力に墜ちたテセラは、アロンに向かって言った。
「テセラ、何を言っているんだ。任務を忘れたのか。早く、こいつの足を撃て」
アロンは目を見開いて言い返したが、テセラは動かなかった。
「こうなったら、とにかく、こいつを始末をしないと。確かあれが」
アロンは新たな武器を取りに行こうとしたが、その銃口は、いつのまにかアロンの方に、
「テセラ、何をする気だ。方角が違うよ」
驚いたアロンはたしなめたが、銃口は、そのアロンに向けられたままである。
「テセラ! 僕を撃つ気なのか。君が愛している僕だよ!」
アロンは必死に叫んだが、彼女の銃口の先はアロンから変わらなかった。
「テセラ! ぼ、僕だよ。わからないのか。頼む、目を覚ましてくれ!」
アロンは叫び続けたが、テセラの態度は同様である。天美の能力の前には、どんなに愛しあった夫婦の絆も、こんなものであった。
「テセラ、思い出してくれ。三年前だって、あのとき・・」
そのアロンの言葉をさえぎり、天美は冷たい声を発した。
「奥さん、わったしの、ちからにかかってるから、何、言っても、ダメだと思うけど」
アロンは、まざまざと、天美の能力のすごさを感じていた。上司から、かねてから教えられていた天美の能力、ある程度は知っていたが、ここまで、すごいものとは、
「大丈夫、わったしへの敵意なくせば、奥さん撃たないはずだし」
天美が、あえて言うこともなく、アロンの敵意は消えた。そして、へなへなと崩れ落ちた。顔色も真っ青で精気がなかった。これで、破滅だと悟ったのであろう。
彼女は思わず、述懐をするようにつぶやいた。
「当たった、わったしのカンが当たった。まさに、この展開こそ最後の切り札だった!」
彼女の言う展開というのは、アロンが盗聴発見装置を用いる、ということであった。
その展開になったら、装置が反応することを、ほぼ確信していた。それは、アランの、この住居を教えた人物。そして、ジョギングをしていたとき、背中に付いた感触であった。
今回は、向こうから盗聴という言葉が出てきたが、出てこなかったら、自分から誘うつもりであった。何にしても、成功させるのには、それなりの演技も必要であったが、
天美は、そのまま、大きな声で言い放った。
「わったしは、無理矢理、言うことを聞かせようとする人たちは大きらいなの。まして、脳改造を考えるなんて、とんでもないことね! わったしは、自分が納得しない限り、どこの国にも協力する気なんてない、セラスタや日本はむろん、アメリカだって、ドイツだって、ロシアだって、国連に頼まれたって同じよ、その気持ち変わらないから!」
精気を失い、打ちひしがれたアロンは、天美のセリフを聞くしかなかった。
その様子を見ながら、考えが浮かんできたのか、彼女は次の言葉を言った。
「アロンさん、さっきの携帯端末出して、録音したいことあるから」
「録音だって」
「そう、早くしないと、わったし帰っちゃうよ。そうなったらもう・・」
その天美の眼を見て、アロンは彼女の言うとおり、携帯端末を彼女の前に出し、そして、録音ボタンを押した。
天美は軽い深呼吸をすると、その端末に向かって、次のセリフを
「今回の最大の黒幕さん。このように、わったしは今無事。でも、そっちの立場もわかるから取引してもいいと思う。条件はアロン一家の現状維持。いっさい、罰も何も手出さない。今回の報酬上げるのは歓迎するけど。
アロンさんは、わったしとの連絡のため、必要だと思うよ。わったしだって、今の世界情勢はわかってる。敵が許せないとか納得する事件のときは、協力してもいいよ。もしかしたら、わったしから、アメリカさんに頼みたいことも出てくるかもしれないし。
そういうことで、アロンさんたちが、わったしの連絡係として、ここに、住み続けるのなら、取引として成立。わかったね。もう時間ないから、ここまでだけど」
その録音を終えた天美に、アロンが問いかけてきた。
「本当に僕たちに協力をしてくれるのか」
「むろん、わったしも許せない敵いたとき、我慢できないから。ただし、わったしに頼む窓口はアメリカではアロンさんだけ、上の人だって国益が大事だし、バカでないから、わったしの提案、聞くと思う。そうすれば、カーマイクル一家と今まで通りでおれるでしょ」
「こんなことをしたのに、そこまで、気をつかってくれるのかい」
「だから、それは、立場上仕方なかったのでしょ。アロンさんは、自分の家庭守らなければならなかったし、わったしも、自分の身守らなければ、ならなかっただけ。今回、たまたま、わったしの方に運ついてただけの違い、ただ、それだけなの」
「ありがとう。君の困ったときは、いつでも是非、心から協力をさせてもらうよ」
アロンはそう答えた。能力にかかっていたテセラの目にも涙が。その様子を見ながら、
「では、そういうことで、わったしも、これ以上、ここにいると、また話ややこしくなるから帰るけど、きっと、すぐにまた会えるよ。わったしもアンディに会いたいし」
と天美は言い残し、カーマイクル家をあとにした。彼女が玄関を出て、しばらくすると、前方から白いワゴン車が走ってきた。あわてて、家と家との間に隠れた天美。
ワゴン車は天美の存在に気がつかず、そのまま走り、目的の家の前に止まった。
そのころ、有栖川宮記念公園では、ミニヘッドホンをつけたヨルク少年がベンチに腰かけ、楽しそうな顔をして前方を見つめていた。
視界である数メートル先では、一羽のモズが食用のために地虫を捕まえていた。
ヨルクは、ベンチから立ち上がると、近くの小石を拾い、今にも爪でつかんだ地虫を持って、飛び立とうとしていた、そのモズに向かって投げつけたのだ。
突然、飛んできた小石にびっくりしたのか、モズは捕まえていた虫を放した。そして、空に向かって飛び立っていった。
「ははは、小さな鷲さん、残念だったね、せっかく、捕まえていたのにね。僕が邪魔したせいで、あと少しのところで、目の前の獲物を逃がしちゃったよ」
その様子を見ながら、ヨルクは大笑いをしていた。近くにいたナターシャも、ヨルクの態度で、何が起こったか理解をしたのか、にんまりとした笑みを浮かべていた。
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