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第二部
安達 快気祝い
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仕事を終えて冥界に戻ると、
休憩室から賑やかな声が聞こえてきた。
「何かあったのか? 」
牧野がヒョイッと部屋をのぞくと、
快気祝いの垂れ幕の前に、
安達が立たされていた。
セイがパシャパシャと写真を撮っている。
「カッコいいじゃん」
まるでお誕生日会のような帽子をかぶらされ、
モニターの前にいる安達に、
プッと笑うと言った。
「………………」
ムスッとしている安達に、
「ほら、みんな帰ってきたんだから挨拶して」
と早紀は言いいながら、
向井達に部屋へ入るよう手招きした。
「それがすんだら、
ケーキとご馳走を食べていいから。
はい、心配かけて~」
早紀が促す。
「………ご、ごめんなさい」
「よく言えました。
じゃあ、ケーキをカットしよう」
真っ赤になってうつむく安達の姿に、
ちょっと同情しながら、
向井と佐久間は笑った。
安達が帽子を取り外す。
「せっかくだから、付けとけよ。
今回の主役だろう? 」
「うるさい! 」
安達が怒ったところでブザーが響いた。
源じいが、
「焼却が終わったかな。
今日は数が多くてね。
さすがに真紀子ちゃんだけじゃ大変だからな」
よっこらしょと立ち上がると、
「ボンは幸せもんだな」
と頭をぐしゃぐしゃに撫でた。
「私の分も取っといてね。
爺でも腹は減るからさ」
笑いながら部屋を出て行った。
「このケーキは優香ちゃんが、
安達君の為に作ってくれたんだよ~
大好きなキャラメルとチョコレートだってさ。
オードブルは倉田さんと岸本君からの差し入れ。
わざわざ、安達君の様子見に来てくれたんだから、
感謝しなさいよ」
早紀はお皿に取り分けながら言った。
「私も手伝いますよ」
佐久間がそういいながら、
早紀の方へ歩いて行く。
安達は髪の毛を直しながら、
向井の方へ歩いてきた。
なんだかんだ言っても、
安達にとって向井の近くが、
一番安心できるのかもしれない。
「安達君が元気になって、
みんな嬉しいんですよ」
向井はそういうと彼の顔を見た。
「今度から苦しい時は、
助けて~と叫んでごらん」
「叫ぶ? 」
「そうだな~
牧野君を少し見習うといいかな。
好きなことは好き。
嫌いなことは嫌い。
好き勝手に動いて、
わがまま放題でしょ? 」
今も料理を頬張って、
早紀に怒られている姿が見えた。
「安達君も多少わがまま言っても、
いいんですよ。
誰も怒りませんから。
俺から見たら、
君はまだまだ子供なんだし」
「子供じゃない……」
「そうやって不貞腐れてるのは、
子供ですよ」
向井は安達の首を腕で挟むと、
もう一方の手で頭をぐりぐり撫でた。
「やめろよ」
「やめない」
向井が笑いながらそんなことをしてると、
「入り口で何やってるんですか? 」
弥生が呆気にとられた様子で足を止めた。
「悪ガキとちょっとしたじゃれあい? 」
向井の言葉に弥生はプッと笑った。
「何ですか。それ。
向井さんでもそんなこと言うんですね」
「おや? 俺はもともとこんなおじさんですよ」
「向井さんはおじさんじゃないです」
弥生がまじめに否定するので、
向井が驚く顔をして笑った。
「えっ? おじさんですよ」
「もう」
弥生はそれだけ言うと、
部屋の中に入っていった。
「向井は鈍いのか、
かわすのが上手いのか分かんない」
「安達君は案外、
鋭いところを突きますね。
おっ、
主役が食べる前に、
牧野君の胃袋に収まっちゃいそうですよ」
「えっ? 」
安達が向井の腕から抜け出すと、
慌ててテーブルに向かった。
向井は安達の姿を目で追いながら、
記憶を手繰っていた。
いつもふと、
何かが頭の隅をよぎるのに、
それが何なのか分からないことに、
自分でも落ち着かなくなっていた。
最近は特に、
多くなっているような気もするが……
思い出せないのか、思い出したくないのか、
自分でもわからなかった。
「向井君、ほらケーキ。取りに来て」
早紀はケーキ皿を差し出すと呼んだ。
向井が皿を受け取っていると、
楽し気な声が聞こえてきた。
「この煮込みハンバーグ美味しいな」
「サーモンマリネが好き」
「ポテトサラダも美味しいですよ」
安達を囲んで笑顔の牧野と弥生を、
微笑ましく見た。
「なぁに~お父さんみたいな顔しちゃって」
「酷いな~早紀ちゃん、
そこはお兄さんにしてほしいな」
「アハハ 流石にお父さんは可哀想か。
でも、安達君は少し雰囲気変わったよね。
前は身構えている感じだったけど、
ちょっと可愛くなった?」
向井もその変化に驚いていた。
休んでいた間、
冥王と一緒だったとセイ君が言っていたが、
それが良かったのかもしれないな。
何をしていたのか冥王に聞いたが、
内緒とはぐらかされてしまった。
セイに尋ねると、
「二人で仲良く遊んでましたよ」
との答えが返ってきた。
ミニチュアだけでなく、
優香ちゃんにケーキ作りを習ったり、
ボルダリングもしていたそうだから、
リフレッシュできたのかもしれない。
安達君にとっても楽しかったのだろう。
表情も大分穏やかになっていた。
向井と早紀がそんな彼らの姿を眺めていると、
「向井さん、戻ってきてたんだ」
セイが二人の傍にやってきた。
「ちょっと前にね。何か用? 」
「さっき妖鬼が、
ステージの事で探してましたよ。
冥王がステージは、
向井さんの担当だからって」
「いつの間に俺の担当になったんですか? 」
向井が驚いたように言った。
「えっ? 違うの?
冥王が向井さんも賛成したって言ってたから」
「確かにアイデアは褒めましたけどね。
まあ、いいや。
そういえば、セイくんも発表会に参加するんでしょ? 」
「へへへ。ティンと一緒に参加します」
嬉しそうに顔をほころばせた。
「ねえ、発表会って何? 」
早紀が二人の会話に割って入ってきた。
「あれ? 早紀ちゃんはまだ知らなかった?
冥王が発表会をやろうって言いだして、
それぞれ出し物がある人は参加するんですよ」
「へえ~じゃあ私も一輪車でもやろうかな」
その言葉に向井とセイが驚いて早紀の顔を見た。
「一輪車乗れるの? 凄い。カッコいいなぁ~」
セイが憧憬の眼差しになる。
「そんな顔されると、ちょっと照れるな。
私こう見えても一輪車競技のソロ演技で、
大会に出たことあるのよ。
まあ、子供の時の話だけどね。
今は……乗れるかどうかが心配だわ」
早紀がケラケラと笑った。
「是が非でもその特技披露してもらわないと。
佐久間さんも紙切り芸を見せるそうですよ」
「佐久間さんも参加するんだ。で、向井君は? 」
早紀とセイが期待するように顔を見た。
「俺? 俺はこれと言って芸がないからなぁ~
今回は運営陣としての参加かな」
「え~つまんない」
「勘弁してください」
向井は笑って頭を下げると、
「じゃあ、俺はここで失礼して、
妖鬼さんのところに行ってきますね。
早紀ちゃん、安達君の様子見ててもらえるかな」
「任せといて」
向井はちらりと安達の様子を確認すると、
そのまま工房へ向かった。
休憩室から賑やかな声が聞こえてきた。
「何かあったのか? 」
牧野がヒョイッと部屋をのぞくと、
快気祝いの垂れ幕の前に、
安達が立たされていた。
セイがパシャパシャと写真を撮っている。
「カッコいいじゃん」
まるでお誕生日会のような帽子をかぶらされ、
モニターの前にいる安達に、
プッと笑うと言った。
「………………」
ムスッとしている安達に、
「ほら、みんな帰ってきたんだから挨拶して」
と早紀は言いいながら、
向井達に部屋へ入るよう手招きした。
「それがすんだら、
ケーキとご馳走を食べていいから。
はい、心配かけて~」
早紀が促す。
「………ご、ごめんなさい」
「よく言えました。
じゃあ、ケーキをカットしよう」
真っ赤になってうつむく安達の姿に、
ちょっと同情しながら、
向井と佐久間は笑った。
安達が帽子を取り外す。
「せっかくだから、付けとけよ。
今回の主役だろう? 」
「うるさい! 」
安達が怒ったところでブザーが響いた。
源じいが、
「焼却が終わったかな。
今日は数が多くてね。
さすがに真紀子ちゃんだけじゃ大変だからな」
よっこらしょと立ち上がると、
「ボンは幸せもんだな」
と頭をぐしゃぐしゃに撫でた。
「私の分も取っといてね。
爺でも腹は減るからさ」
笑いながら部屋を出て行った。
「このケーキは優香ちゃんが、
安達君の為に作ってくれたんだよ~
大好きなキャラメルとチョコレートだってさ。
オードブルは倉田さんと岸本君からの差し入れ。
わざわざ、安達君の様子見に来てくれたんだから、
感謝しなさいよ」
早紀はお皿に取り分けながら言った。
「私も手伝いますよ」
佐久間がそういいながら、
早紀の方へ歩いて行く。
安達は髪の毛を直しながら、
向井の方へ歩いてきた。
なんだかんだ言っても、
安達にとって向井の近くが、
一番安心できるのかもしれない。
「安達君が元気になって、
みんな嬉しいんですよ」
向井はそういうと彼の顔を見た。
「今度から苦しい時は、
助けて~と叫んでごらん」
「叫ぶ? 」
「そうだな~
牧野君を少し見習うといいかな。
好きなことは好き。
嫌いなことは嫌い。
好き勝手に動いて、
わがまま放題でしょ? 」
今も料理を頬張って、
早紀に怒られている姿が見えた。
「安達君も多少わがまま言っても、
いいんですよ。
誰も怒りませんから。
俺から見たら、
君はまだまだ子供なんだし」
「子供じゃない……」
「そうやって不貞腐れてるのは、
子供ですよ」
向井は安達の首を腕で挟むと、
もう一方の手で頭をぐりぐり撫でた。
「やめろよ」
「やめない」
向井が笑いながらそんなことをしてると、
「入り口で何やってるんですか? 」
弥生が呆気にとられた様子で足を止めた。
「悪ガキとちょっとしたじゃれあい? 」
向井の言葉に弥生はプッと笑った。
「何ですか。それ。
向井さんでもそんなこと言うんですね」
「おや? 俺はもともとこんなおじさんですよ」
「向井さんはおじさんじゃないです」
弥生がまじめに否定するので、
向井が驚く顔をして笑った。
「えっ? おじさんですよ」
「もう」
弥生はそれだけ言うと、
部屋の中に入っていった。
「向井は鈍いのか、
かわすのが上手いのか分かんない」
「安達君は案外、
鋭いところを突きますね。
おっ、
主役が食べる前に、
牧野君の胃袋に収まっちゃいそうですよ」
「えっ? 」
安達が向井の腕から抜け出すと、
慌ててテーブルに向かった。
向井は安達の姿を目で追いながら、
記憶を手繰っていた。
いつもふと、
何かが頭の隅をよぎるのに、
それが何なのか分からないことに、
自分でも落ち着かなくなっていた。
最近は特に、
多くなっているような気もするが……
思い出せないのか、思い出したくないのか、
自分でもわからなかった。
「向井君、ほらケーキ。取りに来て」
早紀はケーキ皿を差し出すと呼んだ。
向井が皿を受け取っていると、
楽し気な声が聞こえてきた。
「この煮込みハンバーグ美味しいな」
「サーモンマリネが好き」
「ポテトサラダも美味しいですよ」
安達を囲んで笑顔の牧野と弥生を、
微笑ましく見た。
「なぁに~お父さんみたいな顔しちゃって」
「酷いな~早紀ちゃん、
そこはお兄さんにしてほしいな」
「アハハ 流石にお父さんは可哀想か。
でも、安達君は少し雰囲気変わったよね。
前は身構えている感じだったけど、
ちょっと可愛くなった?」
向井もその変化に驚いていた。
休んでいた間、
冥王と一緒だったとセイ君が言っていたが、
それが良かったのかもしれないな。
何をしていたのか冥王に聞いたが、
内緒とはぐらかされてしまった。
セイに尋ねると、
「二人で仲良く遊んでましたよ」
との答えが返ってきた。
ミニチュアだけでなく、
優香ちゃんにケーキ作りを習ったり、
ボルダリングもしていたそうだから、
リフレッシュできたのかもしれない。
安達君にとっても楽しかったのだろう。
表情も大分穏やかになっていた。
向井と早紀がそんな彼らの姿を眺めていると、
「向井さん、戻ってきてたんだ」
セイが二人の傍にやってきた。
「ちょっと前にね。何か用? 」
「さっき妖鬼が、
ステージの事で探してましたよ。
冥王がステージは、
向井さんの担当だからって」
「いつの間に俺の担当になったんですか? 」
向井が驚いたように言った。
「えっ? 違うの?
冥王が向井さんも賛成したって言ってたから」
「確かにアイデアは褒めましたけどね。
まあ、いいや。
そういえば、セイくんも発表会に参加するんでしょ? 」
「へへへ。ティンと一緒に参加します」
嬉しそうに顔をほころばせた。
「ねえ、発表会って何? 」
早紀が二人の会話に割って入ってきた。
「あれ? 早紀ちゃんはまだ知らなかった?
冥王が発表会をやろうって言いだして、
それぞれ出し物がある人は参加するんですよ」
「へえ~じゃあ私も一輪車でもやろうかな」
その言葉に向井とセイが驚いて早紀の顔を見た。
「一輪車乗れるの? 凄い。カッコいいなぁ~」
セイが憧憬の眼差しになる。
「そんな顔されると、ちょっと照れるな。
私こう見えても一輪車競技のソロ演技で、
大会に出たことあるのよ。
まあ、子供の時の話だけどね。
今は……乗れるかどうかが心配だわ」
早紀がケラケラと笑った。
「是が非でもその特技披露してもらわないと。
佐久間さんも紙切り芸を見せるそうですよ」
「佐久間さんも参加するんだ。で、向井君は? 」
早紀とセイが期待するように顔を見た。
「俺? 俺はこれと言って芸がないからなぁ~
今回は運営陣としての参加かな」
「え~つまんない」
「勘弁してください」
向井は笑って頭を下げると、
「じゃあ、俺はここで失礼して、
妖鬼さんのところに行ってきますね。
早紀ちゃん、安達君の様子見ててもらえるかな」
「任せといて」
向井はちらりと安達の様子を確認すると、
そのまま工房へ向かった。
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