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第二部
地獄路
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向井はドセとともに特別室へ向かいながら、
「ドセ君は仕事に戻ってもいいですよ」
と彼を見た。
「いえ、手が空いているのが僕だけなんで、
一応、部屋まではご一緒します」
二人は特別室の前に立つと、
ドアをノックして中に入った。
いつもの如く道川のだみ声が響いてきた。
「このボンクラが!! 呼んだらすぐ来んか!! 」
「申し訳ございません」
向井は深々と頭を下げると、
「冥王から伝言を言付かってまいりました。
お忙しいとは思いますが、
道川様と灰田様のお二人には、
冥王から話がございますので、
別室の方へ移動していただきます」
「用があるなら、そっちからここへ来んかい!! 」
「お言葉ですが、ここでの全権は冥王にございます。
全ての権利はあなた方ではなく、
冥王が握っているという事をお忘れなく」
「何だと!! 生意気な!!
このままですむと思うなよ」
怒鳴る道川に向井の横にいたドセは、
ビクッと体を震わせた。
向井は何も言わずに道を開けると、
ドアから出るように頭を下げた。
廊下にはアートンが待機しており、
「どうぞこちらへ」と、
地獄路へと二人を案内していった。
「ドセ君はもう下がっていいですよ」
ドセはホッとしたような顔をすると、
一礼して部屋を出て行った。
大沢と須原は何も言わずに見ていたが、
ドアが閉まるのを待って、
大沢が口を開いた。
「確かに私らは死んでいるわけだからな。
ここにいるとつい忘れてしまうが。
あいつらもそろそろ成仏させられるという事か。
だがな、この国を支配しているのは、
間違いなく私らなんだよ」
大沢は椅子に腰かけるとニヤリと笑った。
この国で何が一番の問題なのか………
それはメンツだ。
大沢が以前向井に言った言葉を思い出していた。
「私はメンツをつぶされるのが
何より気に食わない。
それはたった一人の命でも、
メンツを保てるのであれば私は切り捨てる。
考えてもみろ。
いつの時代も火の粉が自分にかかれば、
正義の味方でも共犯者になるもんだろう」
だれが責任を取るのか。
結局誰も取らないから、
こういう事件はいつまでもなくならない。
大沢が向井を嘲笑するように見た。
「冥王などと偉そうに言っても、
結局私らがここにいることで、
全て証明されているじゃないか?」
「…………」
向井は反論することもせずに、
大沢と須原をじっと見ていた。
「私らのやり方に不満があるなら、
抗議でもなんでもすればいい。
下界を見てみろ。
不満はあれど、
誰も私らに逆らいはしない。
国民に選ばれている以上、
私らにこの国の生殺与奪の権利は与えられている。
それも分からんお前らに、
私らの生き死にに権利があるというのは笑止千万。
片腹痛いわ」
向井は唇をかみしめた。
死んで自分は神だという大沢にも、
その大沢を神と崇めている国も、
狂った歯車を止められないことにも。
大沢は哀れだ。
この二年間落ち着いていた災害が、
活発になってきた。
冥王が言った凶行と大沢の握るカード。
恐らくそこに何か秘密があるはずなんだが……
向井はどこまでも不遜な大沢を、
ただただ黙って見ていた。
「ドセ君は仕事に戻ってもいいですよ」
と彼を見た。
「いえ、手が空いているのが僕だけなんで、
一応、部屋まではご一緒します」
二人は特別室の前に立つと、
ドアをノックして中に入った。
いつもの如く道川のだみ声が響いてきた。
「このボンクラが!! 呼んだらすぐ来んか!! 」
「申し訳ございません」
向井は深々と頭を下げると、
「冥王から伝言を言付かってまいりました。
お忙しいとは思いますが、
道川様と灰田様のお二人には、
冥王から話がございますので、
別室の方へ移動していただきます」
「用があるなら、そっちからここへ来んかい!! 」
「お言葉ですが、ここでの全権は冥王にございます。
全ての権利はあなた方ではなく、
冥王が握っているという事をお忘れなく」
「何だと!! 生意気な!!
このままですむと思うなよ」
怒鳴る道川に向井の横にいたドセは、
ビクッと体を震わせた。
向井は何も言わずに道を開けると、
ドアから出るように頭を下げた。
廊下にはアートンが待機しており、
「どうぞこちらへ」と、
地獄路へと二人を案内していった。
「ドセ君はもう下がっていいですよ」
ドセはホッとしたような顔をすると、
一礼して部屋を出て行った。
大沢と須原は何も言わずに見ていたが、
ドアが閉まるのを待って、
大沢が口を開いた。
「確かに私らは死んでいるわけだからな。
ここにいるとつい忘れてしまうが。
あいつらもそろそろ成仏させられるという事か。
だがな、この国を支配しているのは、
間違いなく私らなんだよ」
大沢は椅子に腰かけるとニヤリと笑った。
この国で何が一番の問題なのか………
それはメンツだ。
大沢が以前向井に言った言葉を思い出していた。
「私はメンツをつぶされるのが
何より気に食わない。
それはたった一人の命でも、
メンツを保てるのであれば私は切り捨てる。
考えてもみろ。
いつの時代も火の粉が自分にかかれば、
正義の味方でも共犯者になるもんだろう」
だれが責任を取るのか。
結局誰も取らないから、
こういう事件はいつまでもなくならない。
大沢が向井を嘲笑するように見た。
「冥王などと偉そうに言っても、
結局私らがここにいることで、
全て証明されているじゃないか?」
「…………」
向井は反論することもせずに、
大沢と須原をじっと見ていた。
「私らのやり方に不満があるなら、
抗議でもなんでもすればいい。
下界を見てみろ。
不満はあれど、
誰も私らに逆らいはしない。
国民に選ばれている以上、
私らにこの国の生殺与奪の権利は与えられている。
それも分からんお前らに、
私らの生き死にに権利があるというのは笑止千万。
片腹痛いわ」
向井は唇をかみしめた。
死んで自分は神だという大沢にも、
その大沢を神と崇めている国も、
狂った歯車を止められないことにも。
大沢は哀れだ。
この二年間落ち着いていた災害が、
活発になってきた。
冥王が言った凶行と大沢の握るカード。
恐らくそこに何か秘密があるはずなんだが……
向井はどこまでも不遜な大沢を、
ただただ黙って見ていた。
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