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第三部

冥王のお重

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冥界に戻ると、

牧野は悪霊騒ぎですぐにエナトに引きずられ、

「俺の弁当残しといてよ~」

と言い残し、

再び下界に下りて行った。

向井は休憩室に行くと、

「赤姫折詰買ってきましたよ」

と声をかけ、

一つだけ別に持つと冥王室に向かった。


コンコンコン―――

ノックをすると部屋に入った。

「冥王が楽しみにしていたお弁当ですよ」

「おっ、やっと来ましたぁ~」

冥王は雑誌から顔をあげると笑顔になった。

「何を読んでいるんですか? 」

向井が折詰を渡して聞くと、

「漫画ですよ。漫画。

これが面白くて、

毎月楽しみにしてたのに、

来月で最終回なんです。

もう少し続きが読みたかったのに残念です」

冥王は寂しそうに言うと、

お弁当の蓋を開けた。

「おお~これは美しい。彩りも食材も、

センスのいいお弁当ですね」

冥王は楽しそうに見つめた。

「そうだ。冥王にも食べた感想と、

好きなものを教えて欲しいそうです」

「ほお~その意図は? 」

「赤姫の売り上げがいいので、

閻魔重を作りたいそうですよ」

「私の弁当はお重ですか。いいですね~

どんなお弁当になるのか楽しみです」

冥王はそういうと箸を手に取った。

「君も一緒に食べましょうよ」

「俺は休憩室で頂きます」

「ええ~だったら、私もみんなと一緒がいいです」

「なら、休憩室に行きますか? 」

向井はそういうと、

冥王と一緒に休憩室に向かった。

部屋に入ると新田と田所とセイが、

ソファーに座ってお弁当を食べていた。

「向井君、先に頂いてますよ。

一品一品美味しくて………

あれ? 冥王もここで食べるんですか? 」

「いいじゃないですか~

一人で食べても寂しいです」

田所の言葉に拗ねたように言うと、

みんなの輪の中に入った。

「みなさんは………お茶飲んでますね。

じゃあ、俺もお茶にしよう。

冥王も同じでいいですか? 」

「はい、お願いします」

嬉しそうにお弁当を食べ始めた。

「知ってますか? 今度は私のお弁当が出るそうですよ」

「えっ? そうなんですか? 」

新田が驚いたように言った。

「まったく………冥王はお喋りですね。

実は黒谷君が第二弾は、

冥王のお重を計画しているみたいです」

「私のはお重ですよ~

赤姫より素敵になる予感がしませんか? 」

冥王は嬉しそうに話すと、

「この魚の煮つけは美味しいです」

と、パクパク口に運んだ。

「味の好みは赤姫と同じですね」

向井はお茶を運んできて冥王に手渡した。

「赤姫も煮つけは一番喜んでました。

好みが同じだと、

お弁当は頓挫しちゃうかもしれませんね」

「えっ? 」

冥王の驚く顔に、

「冗談ですよ」

向井がいい、その場にいた全員が笑った。

「あっ、安達君。安達君もお弁当食べませんか? 」

ふらりと休憩室に来た姿を見て、

向井が声をかけた。

「お弁当? 」

「美味しいですよ」

冥王が言いながら手招きした。

「食べる」

安達は部屋に入ると、

自然と向井の横に座った。

向井がお弁当とお茶を渡す姿を、

冥王はにこやかに見ていた。

「可愛い………」

眼光が鋭く無表情なので分かりにくい安達だが、

少しずつだが表情が出てきた。

リングの効果なのか、

言葉も増えてきているようだ。

安達はお弁当を見て笑顔になった。

「白、赤、緑………色の魔法。

可愛くて、美味しい色のお弁当………」

安達は素直になれない時も多いが、

このように時折見せる感性が不思議だ。

「これはね、手毬寿司。

小さくて可愛いよね」

向井が言うと、安達はにっこり笑って食べ始めた。

牧野と一緒の時は年が近いからか、

無意識に肩に力が入ってしまうようだ。

今は少し力が抜けているので、

冥王達も見守る様子で眺めていた。

安達の冥界での日常は、

通常の生活に慣れることから始まっていった。
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