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第三部

特例 源じい

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その後、

健次郎達が何か行動を起こすのではないかと、

向井達も気をつけていたが、

動きがないまま時間は過ぎていった。

向井は、

特別室と安達の事で冥界と下界を行き来し、

特例になって一年たった頃、

源じいが新たに入ってきた。

「源じいは幾つ? 」

牧野は年は取っているものの、

背筋の伸びた紳士がやってくると、

開口一番に聞いた。

「ボンよ。目上の者に尋ねる時は、

まず自分が名乗るのが礼儀だぞ」

「あっ、そっか。悪ぃ。俺は牧野悠斗。二十一歳」

牧野は悪びれる風もなく言った。

「私の年は八十六だ」

「そんな年寄りなのに、まだ寿命があんの? 」

牧野が驚くように声を上げた。

「源太郎さんに失礼ですよ」

向井が注意すると、源じいは笑いながら言った。

「まあいい。彼から見たら私は老木だからな」

「そうじゃねえよ。こんな年寄りなのに、

死んでもまだ働かせるの? って思っただけだよ」

むくれて言う牧野に向井と源じいは驚くと、

顔を見合わせ笑った。

「私は長生きらしいぞ。あと十年残っているそうだ」

「ふう~ん。じゃあ、十年は色んなことできるな」

「そうなのか? 」

源じいが聞くと、

「そうだよ。仕事してれば、

何してても誰も文句言わねえもん」

「ほぉ~そりゃいいな」

源じいも声をたてて笑うと、

牧野と一緒に休憩室に入っていった。

「この人誰? 」

室内にいた安達が聞く。

「源じいだよ」

牧野が教えると、

「お菓子食べる? これ美味しいよ」

安達は田所がお土産で買ってきた、

マカロンの箱を見せた。

「ではひとつ頂こうかな」

源じいは笑顔で言うと、

楽しそうに若者の輪の中に入った。

向井はそんな光景を見ながら、

特例の基準は、

寿命の他にも何かあるのだろうかと、

このとき思ったのが最初だった。
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