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第四部

ミヒカ神

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団地では赤姫と黒谷が、

何やら楽しそうに話していた。

「あっ、向井さん………とアートンさん? 」

「お久しぶりです」

アートンは笑顔で近づいた。

「そうか。二人はお知り合いでしたね」

向井が言うと赤姫が二人を見た。

「お前らが来たという事は………

あの妖怪が追い出された土地か? 」

「そうです。説明が省けて助かった」

アートンが言った。

「妖怪の土地って何? 」

横から聞く黒谷に、

「お前は妖怪を怖がらんから、

簡単には教えられんな」

赤姫が顔をしかめた。

「そうだよ。妖怪にも善と悪がいるからね。

小型の悪霊を追い払えても、

妖怪は別だから」

アートンの言葉に、

黒谷はムッとした顔をしたが、

思い当たる節があるのか、

腕組みをして俯いた。

「確かに………俺、妖怪に追われたことあるんだよね」

「えっ? 」

三人が同時に振り返った。

「妖怪のオーラって複雑で読みにくいのよ。

綺麗なオーラだって近づいたら、

いきなり悪霊みたいになったりさ」

「むやみに近づくなと申しておるだろう」

赤姫はまるで息子に叱咤するように、

眉間にしわを寄せた。

「まるでわが子を心配する母親ですね」

向井が笑った。

「な、何を申すか」

赤くなる赤姫に、

「こんな綺麗なお母さんなんて自慢だよ~」

黒谷が笑いながら言った。

「からかうでない。ほら、仕事じゃろ」

赤姫の言葉に、

「おっと、そうだった。俺さ~今フェスに………」

そこまで言ってやばいという顔をすると、

口を押えて、

「またね~」

と向井をちらりと見たまま、慌てて走り去った。

その姿を見送りながら、

怪訝そうな顔をしたが、

「そういえば楽しそうでしたけど、

何の話をしていたんですか? 」

と向井が聞いた。

「ん? あやつの弁当の売り上げがいいらしくてな。

何か欲しいものはないかって言われての」

「いいじゃないですか。

親孝行してくれる息子なんて」

アートンが笑顔になった。

「まぁな。私の櫛が割れてしまったので、

その話をしたら、

プレゼントしてくれるそうじゃ」

「よかったですね」

向井も笑みを浮かべた。

「で、お前らは何用じゃ? 」

「そうそう。河伯じいさんから、

例の土地について、

赤姫に聞いてみなさいって言われたから」

アートンが説明した。

赤姫はその話に大きく息を吐いた。

「ふう~お前たちが張った結界の上に、

私とミヒカで結界を重ねておいた。

当分、あそこにも近づけないじゃろ」

「ミヒカ? 」

二人が聞くと、

「あの祠の神じゃ。

元々貴族の姫でな。

優しすぎるのが災いして、

人間どもに土地を汚され、

あの小さな場所を妖怪たちの住処として、

長い事守っておったのじゃ」

向井達は黙って話を聞いていた。

「私がここに結界をはって、

吉沢達を追い出したからの。

仕方なく候補の一つとして、

あの土地を選んだんじゃろ。

ミヒカにはすまぬことをした」

「そのミヒカさんは、

今どこにいるかわかりますか? 」

「ミヒカなら今この裏の土地におるが、

会うことはかなわんぞ」

と土地の方へ視線を送った。

「なぜですか」

「持ってる力を使い果たして、

あの祠を守ったんじゃ。

当分は動けん。

私が休ませておるゆえ、心配するな」

「そうですか。この前、光を見たので、

そのあたりの穢れは払って、

霊玉も小さいですが、

結界として埋めてあります」

「そうか。私も気をつけて見ておくから安心するがよい」

「有難うございます」

二人が頭を下げると、

「ときに虎獅狼達はそちらで面倒みているとか。

問題はないのか? 」

赤姫が聞いた。

「部屋に置く家具でもめてましたけど、

楽しそうですよ」

向井は笑みを浮かべて説明した。

「ならよかった」

赤姫も笑ったところで、

ふとアートンが帯を見て聞いた。
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