あなたはずっと俺のもの

文野多咲

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恋人?!

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「ちょっと休んでて。今、朝ごはんを持ってきてあげる」

 例のごとく朝から致したあと、ベッドに息も絶え絶えの私を残し、社長は寝室を出た。しばらくのち、よろよろとベッドから起きて、社長のバスローブを拾い上げる私。
 それを羽織ると何だかいい女になった気分になる。

 キッチンに向かうと、社長がリンゴを剥いていた。
 大きな背中を丸めて、リンゴと格闘している。相変わらず、皮は分厚く削がれ、実は小さい。社長がリンゴを剥いているのを見ると、いつも心がくすぐったくなる。くふふ、ふははっ、ふはははっ。

「また笑ってる」
「あ、私、笑ってます?」
「うん、笑ってる」

 皿に乗ったウサギリンゴは気の毒なほどに細い。私が剥いたほうが早いに違いないけど、絶対に剥かない。だって、社長が剥いてくれたほうがおいしいんだもの。
 社長は私に目を向けると、改めて見つめてきた。

「いいね、その格好。すごくそそる。あなたもバスローブを買ったら?」
「いいです。社長のを借りるのが良いんです」

 社長はその答えが気に入ったのか、嬉しそうに薄く笑った。私の腕を引っ張ると、キスをしてきた。
 唇が離れると言ってきた。
 
「今日は馬に行ってみる?」
「馬とな?」

 まさか社長ってば、赤鉛筆おじさんなの?!

「社長って、競馬やるんですか?」

 どうしても社長が競馬をしている姿を想像できない。もしかして、イギリスの貴族が参加する競馬の方?
 社長は首を横に振った。

「違うよ。乗る方だよ」
「え、騎手?    競馬選手だったんですか」

 確かに社長は騎手に張り合うほど筋肉がすごいですけれども。

「いや、乗馬だよ。乗馬クラブ」

 なるほど!
 セーリングと同じくらい、とてもしっくりくる趣味だわ。さすが御曹司。
 ブレザーにヘルメット姿は似合うだろうな。
 白馬に乗った社長は王子さまみたいだろうな。勇ましい顔でお姫さまを迎えに行くんだろうな。
 お姫さまは社長にお似合いの、どこぞの令嬢で。
 ちりちりと胸の奥に不快なものが広がりそうになる。大きく広がりそうになる前にウサギリンゴを齧る。
 おいしい。社長の剥いてくれたウサギリンゴで心がくすぐったくなるわ。
 社長のウサギリンゴひとつで、私の気分は上々になるんだから。

「きっとあなたも馬が好きになる」
「そうでしょうか」

 そんな上流階級の遊びごとを、庶民の私が気に入るとは思えませんけど?
 気乗りのしない声を出す私に社長はそれでも勧めてきた。

「ギャロップはとても気持ちが良いんだ」
「ギャロップ?」
「疾走のことだ」
「競馬選手のやってるやつですか」
「競馬からいったん、離れようか。カウボーイみたいにゆったり乗るのが一番楽しいんだ」

 カウボーイ? 見たことないけど。
 訝しむ私に、社長は懐かしそうな顔で言う。

「アメリカにはそこら中にカウボーイがいてね、俺も小さい頃にはカウボーイになりたかったよ。アメリカの子どもはみんなそうだ」

 私の知ってるアメリカとはずいぶん違うのね。摩天楼はどこ行った?

「馬は優しくて賢くて、人を見るんだ。相手によって馬鹿にしたり、媚びたりもしてくる。山田さんならきっと馬にも気に入られるよ」
「へえ、犬みたいですね。うちのハッピーも私には媚びますけど、パパには偉そうですもん」
「そ、それはお父さまが気の毒だな」
「仕方ないです、所詮、パパですから。乗馬、行きます! 私も馬を好きになれそう」

 私の返事に社長は嬉しそうな顔をした。
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