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使命は革命回避
クリスティーヌはまんじりともせず夜を過ごした。
(私は浅はかだったわ、勝てると思っていたなんて)
いまだ、ダンルートに分岐していないのならば、いまなお、すべてのルートがマリアンナの手のひらの上にあるということになる。
冷静に状況を見定めると、ダンルートに分岐してはいないと見たほうが良い。マリアンナはジャックともロベールとも恋人のように過ごしているのだから。
クリスティーヌは両手で自分の体を抱えた。
どのエンドでも、人間の尊厳を奪われて、虫けらのように殺された。今もなお、そうなる可能性のほうがはるかに高いのだ。クリスティーヌよりもはるかにマリアンナのほうが優位なのだ。
涙がシーツの上にぼとぼとと落ちる。
(どうして私がこんな目に遭うの? 悪役令嬢だから? 悔しい、悔しいわ……、そして、殺されるのが怖い……)
クリスティーヌは衝動的にベッドから降りた。
(逃げよう、もう逃げてしまおう。ノエルを連れて、どこかに逃げてしまおうっ)
しかし、脳裏に浮かぶ革命の光景がクリスティーヌを止まらせる。
血を流す市民に兵士ら。彼らには何の咎もない。なのに、理不尽にも命を失い、家族を奪われる。
(革命だけは駄目)
もう一度、ベッドに腰を下ろす。
(公女クリスティーヌ、気位を高く持ちなさい)
革命だけは何としても回避しなければならない。それは公女としての責務だ。
(逃げては駄目)
ガタガタと震える体をクリスティーヌは押さえ込んだ。
(革命だけは回避する)
朝陽の差し込み始めた室内、クリスティーヌは公女の美麗な微笑を浮かべていた。
***
「ぼく、姉上といっしょにかえるんじゃないの? 姉上はぼくをむかえにきたんでしょう?」
ノエルは青く光る目を大きく見開いた。
「私には王都でやらなければならないことがあるの。それが済むまで、お前はこちらで過ごしなさい」
王都で何が起きるかわからない以上、すべてのことが済むまでノエルをここで預かってもらうのが最善策だ。
ノエルは大きな目に涙を浮かばせ始めた。昨日の「姉離れ」発言は、もしかしたらクリスティーヌが迎えに来た安心から、強がれただけなのかもしれなかった。
「そのかわり今日は午後まで一緒に過ごしてあげる」
午前は、室内で過ごし、本を読んだり、文字を教えたりして過ごした。午後は散策に出て、草花を摘んで、その名前や効能を教える。
「ノエル、気位を高く持ちなさい。誰よりも正しく、誰よりも強く、誰よりも勤勉でいなければなりません。守るべき民のことをまず第一に考えるのです」
別れ際、ノエルは目に一杯涙を溜め始めた。ぐっとこらえているのがわかる。
「姉上、おからだにおきをつけて」
「ええ、ノエルも息災で」
姿が見えなかったダンは、男爵に領地内を案内されていたようで、二人は馬に乗って領主館に戻ってきた。
男爵の用意した馬車を断り、ダンの馬に乗ることにした。
男爵は良い馬を用意してくれたらしく、乗ってきた馬よりも毛並みが良いのがひと目でわかった。
夫人の乗馬ズボンを借りたお陰で、今度はまたがって座ることができた。
令嬢が親族でもない男性と二人で馬に乗ることははばかれる行為ではあるが、昨晩も、男爵たちは何も言わなかった。
クリスティーヌを心の底から信頼してくれているのだろう。
王都へ続く街道を進む道中、ダンが訊いてきた。
『どうして、馬車を断ったの? 俺にこうして抱きしめられたかったから?』
ダンは手綱を片手で持ち、片手をクリスティーヌの腹に回してきた。グッと引き寄せられて、背中がダンの腹と密着する。クリスティーヌはすっぽりとダンに包まれてしまう。
「そうよ、あなたの温もりを感じたかったから」
クリスティーヌはルロア語でそう言ったのち、帝国語で言った。
『違うわ。馬車はぬかるみに車輪を取られて時間を取られるからよ。私は早く王都に帰らなければならないの』
『じゃあ、俺は役得に乗じよう』
クリスティーヌの腹の上で、もぞもぞと動き始めたダンの手は上の方へ移動してくる。豊満な胸を目指しているようだ。
(まあ、いやらしい!)
ピシャリとダンの手を叩くと、ダンはあっさりと手を手綱に戻した。
『あなたを大商人と見込んで相談があるの』
『何でございましょう』
『私は昨日の一件を見過ごせないの』
『馬に飛び乗ったりしたときに、あなたを怖がらせた件でしょうか?』
ダンは殊勝な声を出している。
『あれは冗談よ。あなたは私を助けてくれた。そのことには深く感謝してるわ。本当にありがとう』
『それはどういたしまして』
『私は、革命が心配なの。ルロアで革命が起きれば、あなたもルロアでの商売が上がったりになるわ』
革命を避けたほうがダンにも利益があるはずだ。
ダンから意外にも真剣な声が聞こえてきた。
『革命は、阻止する』
振り向くとダンは真面目な顔をしていた。
『私たちは利害一致ね。でも、どうしてあなたがそんなに真剣になるの? 所詮、他国のことなのに』
振り返ったクリスティーヌの顔を見つめ返していたダンは、何かを言いかけて言葉を濁し、それから、ふと顔を柔らかいものにした。
『大丈夫、革命は起きない、クリスティーヌ。俺が手を尽くしているのだから』
『あなた自身の利益のためよね?』
『もちろんだ』
(ともかくダンは味方ね。商人は、損得で動くのだからわかりやすいわ。対面を気にする貴族のほうがよほどややこしいわね)
***
公爵邸に戻ると、ジゼルが飛び出てきた。
「ひ、姫さま……!」
「ジゼル、心配をかけたようね」
「護衛騎士から暴徒に襲われそのまま見失ったと聞かされたときには、心臓が止まりそうになりましたわ。父が早馬で知らせを送ってくれたから良かったですけど、知らせが届くまで、生きた心地もしませんでしたわ。エヴァンズさまがおそばにいるから安心して送り出したのが間違いでしたわ」
そこで、ジゼルはダンをジトッとにらむ。ジゼルのダンへの信頼は呆気なく崩れたようだった。
「エヴァンズさまには、がっかりしましたわ」
「ダンがいなければ、私は今頃、無事ではなかったわ」
「えぇ?!」
「ダンはどんな護衛騎士よりも頼りになるわ」
「えぇ?!」
「私を傷一つ付けずに守り切ったわ。素晴らしく格好良かったわ」
「んまあ!!」
ジゼルは、ダンを見る恨みがましい目つきを、感謝のこもるものに変えた。
「まあ、ダンさまは、やはり、姫さまの騎士さまですのね……!」
「ところで、叔父さまは、家にいるかしら」
昨日の出来事を早速ギョームに伝えるつもりだ。革命の芽を早く摘み取っておかなければならない。
マリアンナに攻略されるかもしれないギョームは信頼ならなかったが、革命を回避したいのはギョームとて同じだ。
(私は私で精いっぱい手を尽くすしかない)
「いいえ、まだ宰相府から帰ってませんわ」
クリスティーヌは王宮に出向くことにした。
『ダン、あなたも同行してくださる? 暴徒のことをギョーム叔父さまに伝えておきたいの。私には見逃したこともあるでしょうから』
『仰せのままに』
ダンは笑いかけてきた。
***
馬車の中、向かいの座席に座るダンに目をやると、凛々しくも端正な顔つきが頼もしく見えた。眉も口元もキリッとしているのに、眼差しは底抜けに優しい。クリスティーヌと目が合うと、甘く口元を緩ませる。
(ダン、あなたが頼もしいわ)
クリスティーヌはもう完全にダンに気を許しているのを自覚していた。クリスティーヌも甘くダンを見つめ返す。
じっと見つめ合う二人。
二人を煽るような素振りのあったジゼルは、二人の関係性の変化をすぐに見抜いたようで、そうなればそうなったで、一転してダンに対して警戒を見せ始めた。
クリスティーヌとダンの間に漂う甘い空気を邪魔するように、割って入る。
「姫さま、見てくださいませ! ベルジック大公閣下の馬車ですわ、珍しい」
王宮の門をくぐれば、木立の向こうに、黒いものが覗いていた。独特の黒みのある立派な馬車は、ベルジック大公ベルナールのものである。国王の次男であり、クリスティーヌにとっては母方の叔父となる。
今のクリスティーヌにとっては、クーデターエンドの人だ。ヒロインが魔獣討伐先で出会う攻略対象。
ベルジック大公は、陰のあるイケオジ、というキャラクターだった。愛する妃を亡くした過去を抱える。しかし、クリスティーヌがこの現実で得ている所感では、優秀な長男にコンプレックスをこじらせた次男坊、である。彼は、長年出来の悪い弟として扱われてきた。
それが討伐軍を率い、見事魔獣を打ち破った。そして、凱旋するなり、父と兄を殺し王位簒奪するが、これから先クーデターが起きないとも限らない。
ジゼルが『珍しい』と言ったように、凱旋帰京後、大公は人前に姿を現さなくなった。しかし、人知れずマリアンナとは会っており、今日も逢瀬を遂げるために来ているのかもしれなかった。
クリスティーヌは、ダンに視線を戻した。ダンは優しく見つめ返す。再び、二人の間に甘やかな空気が漂い始めれば、ジゼルが、また割って入ってきた。
「姫さま、向こうを見てください。なんか変ですわ!」
(ジゼルったら騒々しいわねえ)
窓の外に目を移すと、木立の向こうの奥まった場所に寝殿が覗いた。寝殿は王族らの私邸部分である。渡り廊下を女官らが慌てた様子で行き来しているのが、遠目にもわかった。
(何かあったのかしら?)
馬車を降りて、宰相府に足を踏み入れたとき、クリスティーヌはただならない気配を感じ取った。
何かが起きている。どこか不穏な空気が漂っている。
ギョームを訪ねると、副官がいぶかしみながら答えた。
「閣下はさきほど寝殿からの遣いに呼ばれて、何やら血相を変えて飛んで行かれました」
(血相を変えて飛んで行った? 寝殿に?)
クリスティーヌの顔色が変わっていた。
(私は浅はかだったわ、勝てると思っていたなんて)
いまだ、ダンルートに分岐していないのならば、いまなお、すべてのルートがマリアンナの手のひらの上にあるということになる。
冷静に状況を見定めると、ダンルートに分岐してはいないと見たほうが良い。マリアンナはジャックともロベールとも恋人のように過ごしているのだから。
クリスティーヌは両手で自分の体を抱えた。
どのエンドでも、人間の尊厳を奪われて、虫けらのように殺された。今もなお、そうなる可能性のほうがはるかに高いのだ。クリスティーヌよりもはるかにマリアンナのほうが優位なのだ。
涙がシーツの上にぼとぼとと落ちる。
(どうして私がこんな目に遭うの? 悪役令嬢だから? 悔しい、悔しいわ……、そして、殺されるのが怖い……)
クリスティーヌは衝動的にベッドから降りた。
(逃げよう、もう逃げてしまおう。ノエルを連れて、どこかに逃げてしまおうっ)
しかし、脳裏に浮かぶ革命の光景がクリスティーヌを止まらせる。
血を流す市民に兵士ら。彼らには何の咎もない。なのに、理不尽にも命を失い、家族を奪われる。
(革命だけは駄目)
もう一度、ベッドに腰を下ろす。
(公女クリスティーヌ、気位を高く持ちなさい)
革命だけは何としても回避しなければならない。それは公女としての責務だ。
(逃げては駄目)
ガタガタと震える体をクリスティーヌは押さえ込んだ。
(革命だけは回避する)
朝陽の差し込み始めた室内、クリスティーヌは公女の美麗な微笑を浮かべていた。
***
「ぼく、姉上といっしょにかえるんじゃないの? 姉上はぼくをむかえにきたんでしょう?」
ノエルは青く光る目を大きく見開いた。
「私には王都でやらなければならないことがあるの。それが済むまで、お前はこちらで過ごしなさい」
王都で何が起きるかわからない以上、すべてのことが済むまでノエルをここで預かってもらうのが最善策だ。
ノエルは大きな目に涙を浮かばせ始めた。昨日の「姉離れ」発言は、もしかしたらクリスティーヌが迎えに来た安心から、強がれただけなのかもしれなかった。
「そのかわり今日は午後まで一緒に過ごしてあげる」
午前は、室内で過ごし、本を読んだり、文字を教えたりして過ごした。午後は散策に出て、草花を摘んで、その名前や効能を教える。
「ノエル、気位を高く持ちなさい。誰よりも正しく、誰よりも強く、誰よりも勤勉でいなければなりません。守るべき民のことをまず第一に考えるのです」
別れ際、ノエルは目に一杯涙を溜め始めた。ぐっとこらえているのがわかる。
「姉上、おからだにおきをつけて」
「ええ、ノエルも息災で」
姿が見えなかったダンは、男爵に領地内を案内されていたようで、二人は馬に乗って領主館に戻ってきた。
男爵の用意した馬車を断り、ダンの馬に乗ることにした。
男爵は良い馬を用意してくれたらしく、乗ってきた馬よりも毛並みが良いのがひと目でわかった。
夫人の乗馬ズボンを借りたお陰で、今度はまたがって座ることができた。
令嬢が親族でもない男性と二人で馬に乗ることははばかれる行為ではあるが、昨晩も、男爵たちは何も言わなかった。
クリスティーヌを心の底から信頼してくれているのだろう。
王都へ続く街道を進む道中、ダンが訊いてきた。
『どうして、馬車を断ったの? 俺にこうして抱きしめられたかったから?』
ダンは手綱を片手で持ち、片手をクリスティーヌの腹に回してきた。グッと引き寄せられて、背中がダンの腹と密着する。クリスティーヌはすっぽりとダンに包まれてしまう。
「そうよ、あなたの温もりを感じたかったから」
クリスティーヌはルロア語でそう言ったのち、帝国語で言った。
『違うわ。馬車はぬかるみに車輪を取られて時間を取られるからよ。私は早く王都に帰らなければならないの』
『じゃあ、俺は役得に乗じよう』
クリスティーヌの腹の上で、もぞもぞと動き始めたダンの手は上の方へ移動してくる。豊満な胸を目指しているようだ。
(まあ、いやらしい!)
ピシャリとダンの手を叩くと、ダンはあっさりと手を手綱に戻した。
『あなたを大商人と見込んで相談があるの』
『何でございましょう』
『私は昨日の一件を見過ごせないの』
『馬に飛び乗ったりしたときに、あなたを怖がらせた件でしょうか?』
ダンは殊勝な声を出している。
『あれは冗談よ。あなたは私を助けてくれた。そのことには深く感謝してるわ。本当にありがとう』
『それはどういたしまして』
『私は、革命が心配なの。ルロアで革命が起きれば、あなたもルロアでの商売が上がったりになるわ』
革命を避けたほうがダンにも利益があるはずだ。
ダンから意外にも真剣な声が聞こえてきた。
『革命は、阻止する』
振り向くとダンは真面目な顔をしていた。
『私たちは利害一致ね。でも、どうしてあなたがそんなに真剣になるの? 所詮、他国のことなのに』
振り返ったクリスティーヌの顔を見つめ返していたダンは、何かを言いかけて言葉を濁し、それから、ふと顔を柔らかいものにした。
『大丈夫、革命は起きない、クリスティーヌ。俺が手を尽くしているのだから』
『あなた自身の利益のためよね?』
『もちろんだ』
(ともかくダンは味方ね。商人は、損得で動くのだからわかりやすいわ。対面を気にする貴族のほうがよほどややこしいわね)
***
公爵邸に戻ると、ジゼルが飛び出てきた。
「ひ、姫さま……!」
「ジゼル、心配をかけたようね」
「護衛騎士から暴徒に襲われそのまま見失ったと聞かされたときには、心臓が止まりそうになりましたわ。父が早馬で知らせを送ってくれたから良かったですけど、知らせが届くまで、生きた心地もしませんでしたわ。エヴァンズさまがおそばにいるから安心して送り出したのが間違いでしたわ」
そこで、ジゼルはダンをジトッとにらむ。ジゼルのダンへの信頼は呆気なく崩れたようだった。
「エヴァンズさまには、がっかりしましたわ」
「ダンがいなければ、私は今頃、無事ではなかったわ」
「えぇ?!」
「ダンはどんな護衛騎士よりも頼りになるわ」
「えぇ?!」
「私を傷一つ付けずに守り切ったわ。素晴らしく格好良かったわ」
「んまあ!!」
ジゼルは、ダンを見る恨みがましい目つきを、感謝のこもるものに変えた。
「まあ、ダンさまは、やはり、姫さまの騎士さまですのね……!」
「ところで、叔父さまは、家にいるかしら」
昨日の出来事を早速ギョームに伝えるつもりだ。革命の芽を早く摘み取っておかなければならない。
マリアンナに攻略されるかもしれないギョームは信頼ならなかったが、革命を回避したいのはギョームとて同じだ。
(私は私で精いっぱい手を尽くすしかない)
「いいえ、まだ宰相府から帰ってませんわ」
クリスティーヌは王宮に出向くことにした。
『ダン、あなたも同行してくださる? 暴徒のことをギョーム叔父さまに伝えておきたいの。私には見逃したこともあるでしょうから』
『仰せのままに』
ダンは笑いかけてきた。
***
馬車の中、向かいの座席に座るダンに目をやると、凛々しくも端正な顔つきが頼もしく見えた。眉も口元もキリッとしているのに、眼差しは底抜けに優しい。クリスティーヌと目が合うと、甘く口元を緩ませる。
(ダン、あなたが頼もしいわ)
クリスティーヌはもう完全にダンに気を許しているのを自覚していた。クリスティーヌも甘くダンを見つめ返す。
じっと見つめ合う二人。
二人を煽るような素振りのあったジゼルは、二人の関係性の変化をすぐに見抜いたようで、そうなればそうなったで、一転してダンに対して警戒を見せ始めた。
クリスティーヌとダンの間に漂う甘い空気を邪魔するように、割って入る。
「姫さま、見てくださいませ! ベルジック大公閣下の馬車ですわ、珍しい」
王宮の門をくぐれば、木立の向こうに、黒いものが覗いていた。独特の黒みのある立派な馬車は、ベルジック大公ベルナールのものである。国王の次男であり、クリスティーヌにとっては母方の叔父となる。
今のクリスティーヌにとっては、クーデターエンドの人だ。ヒロインが魔獣討伐先で出会う攻略対象。
ベルジック大公は、陰のあるイケオジ、というキャラクターだった。愛する妃を亡くした過去を抱える。しかし、クリスティーヌがこの現実で得ている所感では、優秀な長男にコンプレックスをこじらせた次男坊、である。彼は、長年出来の悪い弟として扱われてきた。
それが討伐軍を率い、見事魔獣を打ち破った。そして、凱旋するなり、父と兄を殺し王位簒奪するが、これから先クーデターが起きないとも限らない。
ジゼルが『珍しい』と言ったように、凱旋帰京後、大公は人前に姿を現さなくなった。しかし、人知れずマリアンナとは会っており、今日も逢瀬を遂げるために来ているのかもしれなかった。
クリスティーヌは、ダンに視線を戻した。ダンは優しく見つめ返す。再び、二人の間に甘やかな空気が漂い始めれば、ジゼルが、また割って入ってきた。
「姫さま、向こうを見てください。なんか変ですわ!」
(ジゼルったら騒々しいわねえ)
窓の外に目を移すと、木立の向こうの奥まった場所に寝殿が覗いた。寝殿は王族らの私邸部分である。渡り廊下を女官らが慌てた様子で行き来しているのが、遠目にもわかった。
(何かあったのかしら?)
馬車を降りて、宰相府に足を踏み入れたとき、クリスティーヌはただならない気配を感じ取った。
何かが起きている。どこか不穏な空気が漂っている。
ギョームを訪ねると、副官がいぶかしみながら答えた。
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