通勤電車、秘密の5日間

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第一話:「視線」

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第一話:「視線」

朝8時12分発、急行・新宿行き。
その電車の後方3号車、ドア横の角。そこが、彼女の“定位置”だった。

中野から新宿までのわずか8分。けれどその短い時間が、彼女にとっては最近、妙に長く感じられるようになっていた。

理由は簡単だった。
数日前から、同じ車両に“彼”が乗ってくるようになったから。

スーツ姿に黒縁眼鏡。スマートフォンを見ているふりをしながら、ふとした瞬間に視線がぶつかる。
最初は偶然かと思った。だが、3日続けば、それはもう――偶然じゃない。

(また見てる……)

香澄(かすみ)は、うつむきながらも、頬がほんのり熱を持っていくのを感じた。
視線の熱、それに気づいている自分。
そして、その“気づかれている”ことに、彼も気づいている――そんな確信。

人差し指の爪をいじりながら、香澄はこっそりスカートの裾を引いた。
(今日は……来る?)

まさかと思っていたのは最初だけだった。
4日前、彼の手が、電車の揺れを利用するようにして、彼女の手首に触れた。
5日前には、荷物越しに、指先が一瞬だけ腰にかすった。
それが偶然じゃないと気づいたとき、香澄の中の何かが、明らかに“期待”に変わっていた。

(私……バカじゃないの)

けれど、逃げない。拒まない。
むしろ――。

「……っ」

今日は、彼の手が彼女の肩越しに伸びてきた。スマホを見ているようで、実際は違う。その指先が、香澄の髪の毛にそっと触れる。
すっと撫でるように、首筋へ。鳥肌が立つ。人に見られていないか、心臓が跳ねる。

だが、体は逃げなかった。むしろ、わずかに反応していた。
(やめて……そんな場所……)

けれど、声にはならない。
彼の指が、首筋から、耳の裏へ。次第に慣れていく感覚。誰にも気づかれずに交わされる、言葉なきやり取り。

電車は中野を過ぎ、高円寺へ。

あと2駅。香澄の息は、わずかに乱れていた。

そして――。

「……っ!」

彼の指が、香澄のジャケットの隙間から、腰の後ろへと滑り込んだ。
手のひらが、しっかりと、そのラインをなぞる。

(あ……)

無意識に脚がすくみ、喉の奥から小さな吐息が漏れた。だが、誰にも聞こえない。誰にも見られていない。

彼の手が止まる。香澄は、ほんのわずかに体重をかけた。

「……ッ!」

次の瞬間、彼の指が、彼女のシャツの裾の内側へと入り込む。
皮膚と皮膚が触れ合った、その瞬間――。

「新宿~、新宿です」

車内アナウンスが、魔法を解いた。

彼の手は、すっと離れた。香澄も、黙って体を引いた。
振り向かない。言葉も交わさない。

ただ、ホームに降りた瞬間、背中に感じたのは――“明日もまた”という合図だった。
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