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第7話「クラリス、失踪!? 王都を駆ける追跡劇
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春の朝は、ひどく気まぐれだった。
快晴かと思えば、突如として濃霧が立ちこめ、
王都の通りは白くけぶり、遠くの建物さえ霞んで見えない。
その霧の中で、私は——ひとり、姿を消していた。
⸻
数時間前。
宰相府ではちょっとした騒ぎになっていた。
「クラリス嬢が……来ていない?」
レオンが淡々とそう口にしたとき、室内の空気が静かに緊張した。
「はい。今朝の始業時から、誰の目にも……屋敷にも戻っておられないようで……」
使用人の言葉に、周囲の者たちがざわつく中で、レオンだけは沈黙していた。
だがその沈黙は“冷静”というより、“張りつめた糸”のようだった。
(……何かが、違う)
彼は無言で書類を閉じると、すぐさま席を立った。
「私が探す」
「レオン様……?」
「この件は、私個人の責任だ。私以外に任せられない」
その声に、一切の隙がなかった。
⸻
街の霧は濃く、白いカーテンのように視界を遮っていた。
石畳の通りを、騎士を従えず、一人で歩くレオンの姿は異様だった。
だが彼は迷いなく、まるで確信を持ったように裏通りを曲がり、古びた小屋の扉を開ける。
「……ここにいるのか、クラリス」
中は薄暗く、埃の匂いがした。
だが、その奥の椅子に、確かにクラリスが座っていた。
「……どうして、わかったんですか」
「ここは、以前“逃げ場”として教えた場所だ。……覚えている」
彼女の膝には、開いたままの本。
それはレオンが貸した、政務に関する古文書だった。
「仕事、放棄してすみません。でも……今日はどうしても、宰相府に行けなかった」
「理由は?」
「……ミリア様のことで、少しだけ、気持ちが揺れたんです。
私がいても、レオン様の婚約が決まるなら、私はただの邪魔じゃないかって」
その言葉に、レオンは静かに息を吐いた。
「君は……自分の価値を、あまりに低く見積もりすぎている」
「そんなことは……!」
「いや、そうだ」
彼は、迷いのない声で言った。
「君がいなくなって、私は“宰相”としてではなく、“私”として、不安になった」
「……え?」
「君がどこにいるか分からない、それだけで、私は冷静さを保てなかった。
これが“特別”でなければ、何なのだ?」
(え……今、レオン様が、“私に特別な感情を抱いている”って……!?)
動けない私の前に、彼は膝をつき、静かに視線を合わせる。
「この先、誰かと婚約せねばならない時が来るだろう。
だが、少なくとも今、“私が隣にいてほしいと願うのは”……君だ」
時間が止まったようだった。
心臓の音が、やけに大きく響く。
「……そんなこと、急に言われたら……どうしたらいいか、わかりません……」
「なら、分かるまで隣にいろ。答えを出すのは、君の自由だ」
彼の手が、そっと私の手に重ねられる。
その温もりに、私ははじめて——自分の“気持ち”に触れたような気がした。
⸻
霧が晴れはじめ、街の風景がゆっくりと輪郭を取り戻していく。
私の中でも、少しずつ、答えが見えはじめていた。
でも——そんな静かな瞬間に、水を差す存在は当然やってくる。
「やーん、見つけたー! クラリスちゃん、誘拐でもされたのかと思ったぁ!」
霧の中から飛び出してきた、ピンク色のドレスと巻き髪。
そう。ミリア=フェルナンド。
恋のライバル(仮)、本日も絶好調である。
「レオン様に手を握られてるぅ? あらあらまあまあ、これはどういうことかしら?」
「ミ、ミリア様、これはその……!」
「ふふん。面白くなってきたわね? ねぇクラリスちゃん、
これからは“ちゃんと本気で”取り合いましょう?」
笑顔で宣戦布告をしてくる彼女に、私は思わず息を呑んだ。
(レオン様を巡る戦い……これからが、本番ってこと……!?)
快晴かと思えば、突如として濃霧が立ちこめ、
王都の通りは白くけぶり、遠くの建物さえ霞んで見えない。
その霧の中で、私は——ひとり、姿を消していた。
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数時間前。
宰相府ではちょっとした騒ぎになっていた。
「クラリス嬢が……来ていない?」
レオンが淡々とそう口にしたとき、室内の空気が静かに緊張した。
「はい。今朝の始業時から、誰の目にも……屋敷にも戻っておられないようで……」
使用人の言葉に、周囲の者たちがざわつく中で、レオンだけは沈黙していた。
だがその沈黙は“冷静”というより、“張りつめた糸”のようだった。
(……何かが、違う)
彼は無言で書類を閉じると、すぐさま席を立った。
「私が探す」
「レオン様……?」
「この件は、私個人の責任だ。私以外に任せられない」
その声に、一切の隙がなかった。
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街の霧は濃く、白いカーテンのように視界を遮っていた。
石畳の通りを、騎士を従えず、一人で歩くレオンの姿は異様だった。
だが彼は迷いなく、まるで確信を持ったように裏通りを曲がり、古びた小屋の扉を開ける。
「……ここにいるのか、クラリス」
中は薄暗く、埃の匂いがした。
だが、その奥の椅子に、確かにクラリスが座っていた。
「……どうして、わかったんですか」
「ここは、以前“逃げ場”として教えた場所だ。……覚えている」
彼女の膝には、開いたままの本。
それはレオンが貸した、政務に関する古文書だった。
「仕事、放棄してすみません。でも……今日はどうしても、宰相府に行けなかった」
「理由は?」
「……ミリア様のことで、少しだけ、気持ちが揺れたんです。
私がいても、レオン様の婚約が決まるなら、私はただの邪魔じゃないかって」
その言葉に、レオンは静かに息を吐いた。
「君は……自分の価値を、あまりに低く見積もりすぎている」
「そんなことは……!」
「いや、そうだ」
彼は、迷いのない声で言った。
「君がいなくなって、私は“宰相”としてではなく、“私”として、不安になった」
「……え?」
「君がどこにいるか分からない、それだけで、私は冷静さを保てなかった。
これが“特別”でなければ、何なのだ?」
(え……今、レオン様が、“私に特別な感情を抱いている”って……!?)
動けない私の前に、彼は膝をつき、静かに視線を合わせる。
「この先、誰かと婚約せねばならない時が来るだろう。
だが、少なくとも今、“私が隣にいてほしいと願うのは”……君だ」
時間が止まったようだった。
心臓の音が、やけに大きく響く。
「……そんなこと、急に言われたら……どうしたらいいか、わかりません……」
「なら、分かるまで隣にいろ。答えを出すのは、君の自由だ」
彼の手が、そっと私の手に重ねられる。
その温もりに、私ははじめて——自分の“気持ち”に触れたような気がした。
⸻
霧が晴れはじめ、街の風景がゆっくりと輪郭を取り戻していく。
私の中でも、少しずつ、答えが見えはじめていた。
でも——そんな静かな瞬間に、水を差す存在は当然やってくる。
「やーん、見つけたー! クラリスちゃん、誘拐でもされたのかと思ったぁ!」
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そう。ミリア=フェルナンド。
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「レオン様に手を握られてるぅ? あらあらまあまあ、これはどういうことかしら?」
「ミ、ミリア様、これはその……!」
「ふふん。面白くなってきたわね? ねぇクラリスちゃん、
これからは“ちゃんと本気で”取り合いましょう?」
笑顔で宣戦布告をしてくる彼女に、私は思わず息を呑んだ。
(レオン様を巡る戦い……これからが、本番ってこと……!?)
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