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第11話「すれ違いのキスと、偽りの微笑み」
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春の宵、王都の空には花霞のような雲がかかっていた。
ほんのりと赤みを帯びた月が、静かに屋敷を照らしている。
——あの夜から、私はレオン様と何度か言葉を交わすようになった。
私たちは確かに、少しずつ“近づいて”いた。
けれど同時に、その距離感に戸惑っている自分もいた。
(レオン様は……あの誓いのあと、何を思っているんだろう)
一歩、踏み出したつもりだった。
だけど、それが本当に“恋”という道だったのか、確信はまだ持てなかった。
⸻
「クラリス、今日は少し散歩でもしよう」
そんなレオン様の誘いに、胸が跳ねたのは言うまでもない。
私たちは宰相府を抜け出し、夜の王都を歩いた。
街灯に照らされた石畳の道。
人気のない公園。夜風に揺れる花の香り。
隣を歩くレオン様の気配が、やけに近く感じた。
「……ずっと、誰かとこうして歩く未来なんて、想像もしていなかった」
「……私もです。モブですから」
「自分を卑下するな」
「……でも、最初は“関わらない”って決めてたんですよ」
「だが、今は?」
私はふと立ち止まり、彼を見上げた。
月明かりの中で見るその横顔は、どこか儚げで、触れたら消えてしまいそうで。
「今は……もう、レオン様のことばかり、考えてしまいます」
風が、そっと髪を揺らした。
その瞬間だった。
レオン様が、一歩近づいた。
距離が、ほんの数十センチまで縮まる。
「クラリス」
低く、優しい声。
彼の手が私の頬に触れようとした——そのとき。
「レオン様っ!」
空気を割るような高い声が響いた。
ふたり同時に振り返ると、そこに立っていたのは——ミリアだった。
ピンクのドレスの裾を乱しながら、彼女は息を切らせていた。
「……ミリア様?」
「ご、ごめんなさい! でも、どうしても、伝えなきゃいけないことがあって……!」
「こんな時間に?」
「レオン様の婚約話、また動きがあったの!」
「……!」
「このままだと、他国の姫と正式な政略結婚の話が通ってしまうかもしれないって……!」
私は、背筋に氷を這わされたような感覚に襲われた。
政略結婚——それは、あの人が“宰相”である限り、避けられない現実。
レオン様の表情が曇る。
その瞬間、私は悟ってしまった。
(私じゃ……だめなんだ)
自分の想いを伝えることすらできなかった。
“好き”のひとことを、ずっと胸に抱えたまま、私は立ち尽くす。
そんな私を見て、ミリアはゆっくりと微笑んだ。
「……ごめんね、クラリスちゃん。邪魔、しちゃったかしら?」
「……いえ」
私は、にこりと笑ってみせた。
「大丈夫です。だって、私とレオン様は“恋人”じゃないですから」
それは、偽りの笑み。
強がりで、言い訳で、逃げるための言葉だった。
(本当は、ただ……抱きしめてほしかった)
⸻
その夜、クラリスは部屋で一人、月を見上げていた。
ほんの一歩、届かなかった想いが、胸に残って痛かった。
一方——
宰相府の執務室では、レオンが静かに、クラリスの名をつぶやいていた。
「……なぜ、あの時、君は笑った?」
その問いの答えを、彼はまだ知らない。
けれど確かに、彼の中でも何かが変わりはじめていた。
ほんのりと赤みを帯びた月が、静かに屋敷を照らしている。
——あの夜から、私はレオン様と何度か言葉を交わすようになった。
私たちは確かに、少しずつ“近づいて”いた。
けれど同時に、その距離感に戸惑っている自分もいた。
(レオン様は……あの誓いのあと、何を思っているんだろう)
一歩、踏み出したつもりだった。
だけど、それが本当に“恋”という道だったのか、確信はまだ持てなかった。
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「クラリス、今日は少し散歩でもしよう」
そんなレオン様の誘いに、胸が跳ねたのは言うまでもない。
私たちは宰相府を抜け出し、夜の王都を歩いた。
街灯に照らされた石畳の道。
人気のない公園。夜風に揺れる花の香り。
隣を歩くレオン様の気配が、やけに近く感じた。
「……ずっと、誰かとこうして歩く未来なんて、想像もしていなかった」
「……私もです。モブですから」
「自分を卑下するな」
「……でも、最初は“関わらない”って決めてたんですよ」
「だが、今は?」
私はふと立ち止まり、彼を見上げた。
月明かりの中で見るその横顔は、どこか儚げで、触れたら消えてしまいそうで。
「今は……もう、レオン様のことばかり、考えてしまいます」
風が、そっと髪を揺らした。
その瞬間だった。
レオン様が、一歩近づいた。
距離が、ほんの数十センチまで縮まる。
「クラリス」
低く、優しい声。
彼の手が私の頬に触れようとした——そのとき。
「レオン様っ!」
空気を割るような高い声が響いた。
ふたり同時に振り返ると、そこに立っていたのは——ミリアだった。
ピンクのドレスの裾を乱しながら、彼女は息を切らせていた。
「……ミリア様?」
「ご、ごめんなさい! でも、どうしても、伝えなきゃいけないことがあって……!」
「こんな時間に?」
「レオン様の婚約話、また動きがあったの!」
「……!」
「このままだと、他国の姫と正式な政略結婚の話が通ってしまうかもしれないって……!」
私は、背筋に氷を這わされたような感覚に襲われた。
政略結婚——それは、あの人が“宰相”である限り、避けられない現実。
レオン様の表情が曇る。
その瞬間、私は悟ってしまった。
(私じゃ……だめなんだ)
自分の想いを伝えることすらできなかった。
“好き”のひとことを、ずっと胸に抱えたまま、私は立ち尽くす。
そんな私を見て、ミリアはゆっくりと微笑んだ。
「……ごめんね、クラリスちゃん。邪魔、しちゃったかしら?」
「……いえ」
私は、にこりと笑ってみせた。
「大丈夫です。だって、私とレオン様は“恋人”じゃないですから」
それは、偽りの笑み。
強がりで、言い訳で、逃げるための言葉だった。
(本当は、ただ……抱きしめてほしかった)
⸻
その夜、クラリスは部屋で一人、月を見上げていた。
ほんの一歩、届かなかった想いが、胸に残って痛かった。
一方——
宰相府の執務室では、レオンが静かに、クラリスの名をつぶやいていた。
「……なぜ、あの時、君は笑った?」
その問いの答えを、彼はまだ知らない。
けれど確かに、彼の中でも何かが変わりはじめていた。
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