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第12話「仮面の舞踏会、再び 〜奪われたはずの手を、もう一度〜」
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春の夜風が、王都をゆるやかに撫でていた。
今宵、王城では再び“仮面舞踏会”が開催される。
それは外交の一環であり、社交界の華。
そして何より——「誰と踊るか」が、噂となり、未来を決める夜。
(なのに、なんで私が参加してるの……?)
私——クラリスは、王城の一角にある控室で、鏡の前に立っていた。
髪は夜会巻きにまとめられ、薄紫のドレスが肩を包む。
目元を隠すのは、繊細なレースの仮面。
(これは……乙女ゲーム的には完全に“フラグイベント”じゃないですか)
本来この舞踏会は、政略の裏で恋愛が急加速する“分岐ルート”イベント。
その中心にモブがいるなど、あり得ないはずだった。
「さあて、張り切って奪いにいくわよ。レオン様を」
背後から聞こえたのは、聞き慣れた甘い声。
「……ミリア様」
「ふふん。今日こそは、はっきりさせてもらうんだから。
レオン様の“隣”がふさわしいのは誰かって」
「……そうですね。決着、つけましょうか」
仮面越しに睨み合う私たちの間には、もう遠慮も、曖昧さもなかった。
⸻
舞踏会場は、まばゆい光に満ちていた。
高い天井からは水晶のシャンデリアが吊るされ、
壁を飾る黄金の装飾が、無数のろうそくの灯りに照らされて揺れていた。
楽団が奏でるのは、優雅なワルツ。
仮面をつけた貴族たちが、それぞれの“思惑”を胸に踊りの輪に加わっていく。
私は、壁際で一人その様子を眺めていた。
(踊る気は……ない。今夜は“静かに引く”って決めたんだから)
けれど、そんな私に、差し出された手があった。
「踊りませんか、クラリス嬢」
その声に、目を見開いた。
「……クロード様」
仮面の下でもわかる、あの腹黒参謀の微笑み。
「こんなに華やかな場所で、ひとりでいるのはもったいない」
「でも、私……レオン様と……」
「いいんですか? 彼、踊ってますよ。ほら、ミリア嬢と」
「……え?」
視線の先。
レオン様が、ミリアの手を取ってダンスを踊っていた。
優雅で、形の整ったステップ。
まるで最初から決まっていたペアのように、息もぴったりだった。
(……そうだよね。私は“恋人”じゃないんだから)
知らず、胸の奥がぎゅっと痛む。
「ならばせめて、こちらで一曲だけ。どうです?」
クロードの手が、今度は優しく重なる。
私は、抗う理由を失って、そのまま彼に導かれた。
⸻
「……レオン様、見てました?」
「……ああ」
「クラリス嬢、すごく楽しそうでしたね。クロード様と、随分お似合いで」
「……」
「ふふ、妬けます? ねぇ、“私の方が隣にふさわしい”って、言ってくれたら——」
「——そういう口ぶりは慎め、ミリア嬢」
「えっ……」
レオンは、初めてはっきりと声を荒げた。
その視線の先には、クロードと踊る私の姿があった。
仮面の下で、私がどんな顔をしていたか——レオンには、きっと見えていなかった。
けれど、クロードには見えていた。
「……あまり無理をなさらない方が良いですよ、クラリス嬢」
「え?」
「強がって笑っても、瞳が泣いてます。
あの人が誰かと踊る姿を見るの、つらかったでしょう?」
「……っ」
言い返せなかった。
クロードは仮面の奥で、少しだけ寂しそうに微笑んだ。
「“偽りの舞踏”には、そろそろ終わりを」
その言葉と共に、曲が終わる。
私はそっと彼の手を離し、会場の隅へと歩いた。
⸻
それから、何曲かの音楽が流れた。
私はひとり、壁際でぼんやりとそれを眺めていた。
そして、最後の曲が始まる——その直前。
「クラリス」
低く、聞き慣れた声。
振り返ると、そこには仮面を外したレオン様がいた。
「……踊ってください。最後の一曲を、私と」
「……でも」
「もう、“遠慮”はいらない」
差し出された手は、確かに震えていた。
「誰と踊るべきか、誰の手を取りたいのか……ようやく自分で理解できた」
それは、選ぶという“宣言”だった。
私は——その手を、そっと取った。
⸻
仮面の舞踏会の終わり。
それは、恋の“始まり”の合図だったのかもしれない。
けれどその夜。
ミリアはひとり、バルコニーで月を見上げていた。
そして、誰にも聞こえない声でつぶやいた。
「まだ、終わらせないわ。あの人の隣には、私がいるのよ——」
今宵、王城では再び“仮面舞踏会”が開催される。
それは外交の一環であり、社交界の華。
そして何より——「誰と踊るか」が、噂となり、未来を決める夜。
(なのに、なんで私が参加してるの……?)
私——クラリスは、王城の一角にある控室で、鏡の前に立っていた。
髪は夜会巻きにまとめられ、薄紫のドレスが肩を包む。
目元を隠すのは、繊細なレースの仮面。
(これは……乙女ゲーム的には完全に“フラグイベント”じゃないですか)
本来この舞踏会は、政略の裏で恋愛が急加速する“分岐ルート”イベント。
その中心にモブがいるなど、あり得ないはずだった。
「さあて、張り切って奪いにいくわよ。レオン様を」
背後から聞こえたのは、聞き慣れた甘い声。
「……ミリア様」
「ふふん。今日こそは、はっきりさせてもらうんだから。
レオン様の“隣”がふさわしいのは誰かって」
「……そうですね。決着、つけましょうか」
仮面越しに睨み合う私たちの間には、もう遠慮も、曖昧さもなかった。
⸻
舞踏会場は、まばゆい光に満ちていた。
高い天井からは水晶のシャンデリアが吊るされ、
壁を飾る黄金の装飾が、無数のろうそくの灯りに照らされて揺れていた。
楽団が奏でるのは、優雅なワルツ。
仮面をつけた貴族たちが、それぞれの“思惑”を胸に踊りの輪に加わっていく。
私は、壁際で一人その様子を眺めていた。
(踊る気は……ない。今夜は“静かに引く”って決めたんだから)
けれど、そんな私に、差し出された手があった。
「踊りませんか、クラリス嬢」
その声に、目を見開いた。
「……クロード様」
仮面の下でもわかる、あの腹黒参謀の微笑み。
「こんなに華やかな場所で、ひとりでいるのはもったいない」
「でも、私……レオン様と……」
「いいんですか? 彼、踊ってますよ。ほら、ミリア嬢と」
「……え?」
視線の先。
レオン様が、ミリアの手を取ってダンスを踊っていた。
優雅で、形の整ったステップ。
まるで最初から決まっていたペアのように、息もぴったりだった。
(……そうだよね。私は“恋人”じゃないんだから)
知らず、胸の奥がぎゅっと痛む。
「ならばせめて、こちらで一曲だけ。どうです?」
クロードの手が、今度は優しく重なる。
私は、抗う理由を失って、そのまま彼に導かれた。
⸻
「……レオン様、見てました?」
「……ああ」
「クラリス嬢、すごく楽しそうでしたね。クロード様と、随分お似合いで」
「……」
「ふふ、妬けます? ねぇ、“私の方が隣にふさわしい”って、言ってくれたら——」
「——そういう口ぶりは慎め、ミリア嬢」
「えっ……」
レオンは、初めてはっきりと声を荒げた。
その視線の先には、クロードと踊る私の姿があった。
仮面の下で、私がどんな顔をしていたか——レオンには、きっと見えていなかった。
けれど、クロードには見えていた。
「……あまり無理をなさらない方が良いですよ、クラリス嬢」
「え?」
「強がって笑っても、瞳が泣いてます。
あの人が誰かと踊る姿を見るの、つらかったでしょう?」
「……っ」
言い返せなかった。
クロードは仮面の奥で、少しだけ寂しそうに微笑んだ。
「“偽りの舞踏”には、そろそろ終わりを」
その言葉と共に、曲が終わる。
私はそっと彼の手を離し、会場の隅へと歩いた。
⸻
それから、何曲かの音楽が流れた。
私はひとり、壁際でぼんやりとそれを眺めていた。
そして、最後の曲が始まる——その直前。
「クラリス」
低く、聞き慣れた声。
振り返ると、そこには仮面を外したレオン様がいた。
「……踊ってください。最後の一曲を、私と」
「……でも」
「もう、“遠慮”はいらない」
差し出された手は、確かに震えていた。
「誰と踊るべきか、誰の手を取りたいのか……ようやく自分で理解できた」
それは、選ぶという“宣言”だった。
私は——その手を、そっと取った。
⸻
仮面の舞踏会の終わり。
それは、恋の“始まり”の合図だったのかもしれない。
けれどその夜。
ミリアはひとり、バルコニーで月を見上げていた。
そして、誰にも聞こえない声でつぶやいた。
「まだ、終わらせないわ。あの人の隣には、私がいるのよ——」
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