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第13話「揺れる心と、はじまりの約束 〜そして、風が運んできた初恋〜」
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舞踏会の夜が明けると、王都にはまた静かな朝が訪れた。
けれど、私の心は静けさとは裏腹に、微かなざわめきを残していた。
(あの時……確かに、レオン様は“選んで”くれた)
(でもそれは、本当に“恋”としての選択だったの?)
仮面の下で交わされた想いは確かに温かかった。
けれど、どこか脆くて、まだ壊れてしまいそうだった。
そんな思いを胸に、私は久しぶりに“実家”に足を運んだ。
⸻
緑が生い茂る郊外の屋敷は、春の陽に包まれて、穏やかに息づいていた。
門を抜け、石畳の小道を歩いていると——
「おーい! クラリス!」
風の向こうから、懐かしい声が聞こえた。
振り返ると、そこには見覚えのある少年……いや、もう立派な青年の姿があった。
栗色の髪は風に揺れ、やや乱れたシャツと笑顔が、どこか昔のままを感じさせる。
「……シアン?」
「やっぱりだ! クラリス、久しぶり!」
——シアン=フェルリッジ。
子供の頃からよく一緒に遊び、泣いたり笑ったりしていた“幼なじみ”。
平民出身だったけれど、剣術の腕が買われて現在は近衛騎士団に所属しているらしい。
「本当に……大きくなったね。見違えた」
「クラリスこそ。なんだよそのドレス姿、見違えるってレベルじゃない」
「それ……褒めてるの?」
「もちろん。俺、クラリスのことずっと見てきたんだから」
(……あれ?)
どこか冗談めかしているようで、その目はまっすぐだった。
「最近、宰相の側で働いてるって聞いてさ。偉くなったなぁって思ってたけど……」
彼はふっと笑いながら、少しだけ顔を近づけた。
「でも、やっぱり俺にとっては、昔みたいに木に登ってたクラリスの方がしっくりくる」
「そ、それはもう忘れてよ……!」
顔が熱くなる。懐かしさと気恥ずかしさと、何かよく分からないもので胸がいっぱいだった。
⸻
その日の夕刻。
屋敷の中庭で、私はシアンと並んでベンチに座っていた。
「……変わったね、クラリス」
「そうかな」
「前より、少し遠くにいる気がした」
「……私、今ちょっと、難しい場所にいるのかもしれない」
シアンは静かにうなずいた。
「クラリス。俺、実は最近、王都の近衛隊に昇格して、宰相府付きになるかもしれないんだ」
「えっ、それって……!」
「だから、またそばに行ける。いや、行くつもり」
彼は、まっすぐに私の瞳を見た。
「俺さ、ずっと好きだったんだよ。クラリスのこと。……あの時から、ずっと」
時が止まったようだった。
春風が花を揺らし、柔らかな光が彼の横顔を照らす。
「……でも」
「でも?」
「今のクラリスには……別の人がいるのかもしれないって思ってる」
「……」
「それでも、今さら引くつもりはないよ。
だって俺、誰よりもクラリスのことを知ってるつもりだから」
⸻
その夜。宰相府では、珍しくレオン様が庭を一人で歩いていた。
「……なぜ、今日は戻りが遅かった?」
「少し、実家に」
「そうか」
ほんの短いやりとり。けれど、レオン様の声には、わずかに硬さがあった。
そして次の日——
「クラリス嬢、今日からこの者が宰相府護衛の補佐として配属されます」
執務室に通されたその騎士を見て、私は言葉を失った。
「……シアン……」
「よう、また会ったな。クラリス」
(なんで今、ここに……!?)
レオン様は沈黙を保ったまま、ただじっとシアンを見つめていた。
その眼差しは、静かで、けれど底に感情を潜ませている。
——そう、これが始まりだった。
レオンにとって、初めて“奪われるかもしれない恐れ”が芽生えた瞬間。
そして、私が“想われる”ことに戸惑いはじめた、春のはじまりだった。
けれど、私の心は静けさとは裏腹に、微かなざわめきを残していた。
(あの時……確かに、レオン様は“選んで”くれた)
(でもそれは、本当に“恋”としての選択だったの?)
仮面の下で交わされた想いは確かに温かかった。
けれど、どこか脆くて、まだ壊れてしまいそうだった。
そんな思いを胸に、私は久しぶりに“実家”に足を運んだ。
⸻
緑が生い茂る郊外の屋敷は、春の陽に包まれて、穏やかに息づいていた。
門を抜け、石畳の小道を歩いていると——
「おーい! クラリス!」
風の向こうから、懐かしい声が聞こえた。
振り返ると、そこには見覚えのある少年……いや、もう立派な青年の姿があった。
栗色の髪は風に揺れ、やや乱れたシャツと笑顔が、どこか昔のままを感じさせる。
「……シアン?」
「やっぱりだ! クラリス、久しぶり!」
——シアン=フェルリッジ。
子供の頃からよく一緒に遊び、泣いたり笑ったりしていた“幼なじみ”。
平民出身だったけれど、剣術の腕が買われて現在は近衛騎士団に所属しているらしい。
「本当に……大きくなったね。見違えた」
「クラリスこそ。なんだよそのドレス姿、見違えるってレベルじゃない」
「それ……褒めてるの?」
「もちろん。俺、クラリスのことずっと見てきたんだから」
(……あれ?)
どこか冗談めかしているようで、その目はまっすぐだった。
「最近、宰相の側で働いてるって聞いてさ。偉くなったなぁって思ってたけど……」
彼はふっと笑いながら、少しだけ顔を近づけた。
「でも、やっぱり俺にとっては、昔みたいに木に登ってたクラリスの方がしっくりくる」
「そ、それはもう忘れてよ……!」
顔が熱くなる。懐かしさと気恥ずかしさと、何かよく分からないもので胸がいっぱいだった。
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その日の夕刻。
屋敷の中庭で、私はシアンと並んでベンチに座っていた。
「……変わったね、クラリス」
「そうかな」
「前より、少し遠くにいる気がした」
「……私、今ちょっと、難しい場所にいるのかもしれない」
シアンは静かにうなずいた。
「クラリス。俺、実は最近、王都の近衛隊に昇格して、宰相府付きになるかもしれないんだ」
「えっ、それって……!」
「だから、またそばに行ける。いや、行くつもり」
彼は、まっすぐに私の瞳を見た。
「俺さ、ずっと好きだったんだよ。クラリスのこと。……あの時から、ずっと」
時が止まったようだった。
春風が花を揺らし、柔らかな光が彼の横顔を照らす。
「……でも」
「でも?」
「今のクラリスには……別の人がいるのかもしれないって思ってる」
「……」
「それでも、今さら引くつもりはないよ。
だって俺、誰よりもクラリスのことを知ってるつもりだから」
⸻
その夜。宰相府では、珍しくレオン様が庭を一人で歩いていた。
「……なぜ、今日は戻りが遅かった?」
「少し、実家に」
「そうか」
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そして次の日——
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執務室に通されたその騎士を見て、私は言葉を失った。
「……シアン……」
「よう、また会ったな。クラリス」
(なんで今、ここに……!?)
レオン様は沈黙を保ったまま、ただじっとシアンを見つめていた。
その眼差しは、静かで、けれど底に感情を潜ませている。
——そう、これが始まりだった。
レオンにとって、初めて“奪われるかもしれない恐れ”が芽生えた瞬間。
そして、私が“想われる”ことに戸惑いはじめた、春のはじまりだった。
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