冒険者令嬢は王子の寵愛より討伐に夢中

真曽木トウル

文字の大きさ
4 / 16

4、冒険者令嬢とモンスター料理

しおりを挟む
     ***

「……やはり、プエルタ殿下とディノ殿下が不仲というのは本当なのですね」

「ディノ殿下は、ご自身の王位継承を脅かすお相手ですものねぇ。まして王太子殿下は女性でいらっしゃいますもの……」


 晩餐会中、そんなヒソヒソ話が離れた席で交わされているのを鋭敏な耳で聞き取って、ディノ王子はため息をついた。


「まったく……姉上め……」
「お料理本当に美味しいですね」


 一方、王子の隣の婚約者は、何事もなかったかのようにニコニコして目の前の料理に夢中である。

 陰口を叩く婦人たちがいる一方で、レクシィの美貌は、食べているだけで周囲の男たちの目を集めている。
 その様はさながら、甘い香りの綺麗な花に引き寄せられる蜜蜂たち。


「レクシィ。
 おまえは腹が立たないのか?」

「プエルタ殿下にですか?
 まぁ冒険者たるもの国中どこでも自分の足で行くつもりでしたし」

「それで良いのか?
 王命による討伐だったというのに!?」

「問題ありません」


 涼しい顔でレクシィは返した。


「騎士団が冒険者を良く思っていないことは知っていますもの。
 身分は私の方が上とはいえ若輩者ですし、彼らとしても面白くなかったと思いますよ?
 聞いてください殿下。
 この四牙猪よつきばいのししのステーキ最高に美味しいです。
 ぎゅっと旨味の詰まった赤身肉に脂の甘味、そこにソースのワインの風味がなんともたまりません」

「まったくおまえは、もう……食べ物なんかで懐柔されるな」


 ディノはため息をついて分厚いステーキにフォークを突き刺す。
 腹立たしさを肉にぶつけて咀嚼する。確かに旨い。

 隣のレクシィを盗み見る。


(くっ………………)


 令嬢らしくマナーは遵守しつつも、大層美味しそうに肉にかぶりついている。
 その顔が、可愛い。ものすごく。とんでもなく。語彙力が吹っ飛ぶほどに。

 彼女が全方位国宝級の顔面を持っていること、その気になれば微笑みひとつで国さえ傾けかねないほど魅力的だということを、ディノはいやというほどわかっていたつもりだった。
 だが今、その認識を改めざるを得ない。


(何なんだこの幸せそうに肉を食べている顔! 可愛すぎるんだよ!
 女神のごとき美貌と、旨いものを食べる無垢で無邪気な喜びの表情。その奇跡のハーモニー!
 頭をぶん殴られたような衝撃と心臓を撃ち抜かれる感覚が同時にきたぞ!
 毎度毎度、俺を殺す気か!?)


 頭のなかは騒がしかったが落ち着けと繰り返し口の中で呟き、ゆっくりと息を吐く。
 ずっと彼女を見ていたかったけれど、それをさとらせたくなくて、ディノはさりげなく視線を前に戻した。


「……レクシィ。
 もう少し王都にいたらどうだ」

「はい?」

「冒険者としての道中なんて、ろくなものを食べられないだろう。
 王都にいたほうが食生活は充実するだろうに」

「うーん……それは確かにそうなのですが」


 大きなステーキをぺろりとたいらげて、レクシィは花びらのような唇をナプキンで拭く。
 ディノはまだ触れたこともない、きっとぷるりと柔らかいのだろう形のいい唇。


「その土地にしかない食べ物をその土地でいただくのも、予想外に美味しかったりするのですよ?」

「その土地にしかない、なんて希少な食べ物がどれほどある?」

「殿下。ご自分の国の広さをなめてはいけません。
 そうですね、たとえば……北方のカンパニアン地方ではバイソンがご馳走なんですけど」

「バイ……ソン?」

「牛の仲間の猛獣です。
 私は突然変異した火山熊ボルケイノ・グリズリーの討伐のために行ったのですけど、近隣で獲れたバイソンのお肉を柔らかく煮込んだシチューが絶品で……。
 討伐の当日は、土地の人がお弁当として、その煮込んだバイソン肉とバターの効いたマッシュポテトが入ったサンドを持たせてくださって、それも本当に美味しかったですよ!
 あと、南方のワニ肉料理も良かったですね」

「ワ……ワニ肉?」

「鶏肉に似ていて、臭みがなくてとっても美味しいんですよ。
 シンプルに焼くだけでも良いですし、濃いめに味付けたフライなんかにすると、いくらでも食べられてしまいますね。
 殿下は絶対にお好きだと思います!」

「そ……そうか……(絶対、遠慮する)」

「夜営だと、捕った獲物を調理したりも楽しいですし……。
 そうそう、私が倒した魔獣も、地元の方が料理してくださるんです。
 火山熊の肉団子煮込みやカツレツもとっても美味しかったですし、このまえの大飛竜は、ハーブをたっぷり効かせた串焼きや、サクサクの衣のフライに甘辛いソースをかけたものにしていただきました」

「……………………」


 嬉々として食べ物のことばかり話す婚約者を、ディノ王子は呆れた目で見る。
 だが。


「ああ、もちろんそういう美味しい食べ物との出会いは本当に僥倖ですから、出会おうとして出会えるものじゃないです。
 だから美味しいものに出会うと、ディノ殿下がここにいたら食べさせてあげたかったなぁ、なんて思うのですよね」

「そ、そうか」


 ディノはとたんにわかりやすく機嫌を直して
「……そうか……旅の間も俺のことを考えているのか」
と口もとを隠した手の下でにやけるのだった。


   ***
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

悪役令息の継母に転生したからには、息子を悪役になんてさせません!

水都(みなと)
ファンタジー
伯爵夫人であるロゼッタ・シルヴァリーは夫の死後、ここが前世で読んでいたラノベの世界だと気づく。 ロゼッタはラノベで悪役令息だったリゼルの継母だ。金と地位が目当てで結婚したロゼッタは、夫の連れ子であるリゼルに無関心だった。 しかし、前世ではリゼルは推しキャラ。リゼルが断罪されると思い出したロゼッタは、リゼルが悪役令息にならないよう母として奮闘していく。 ★ファンタジー小説大賞エントリー中です。 ※完結しました!

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し

有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。 30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。 1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。 だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。 そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。 史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。 世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。 全くのフィクションですので、歴史考察はありません。 *あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。

処理中です...