セクハラ貴族にビンタしたら社交界を追放されたので、田舎で人生やり直します。~一方、そのころ王都では~

真曽木トウル

文字の大きさ
33 / 66

◇33◇ 王都に帰ってきました!

しおりを挟む


   ◇ ◇ ◇


 ――――ついにその日はやってきた。

 ガイア様のおともで、王都へ向かう馬車に乗る。

 ヘリオスが乗っているような屋根なしのものじゃない、箱形の馬車。
 ウェーバー侯爵家の紋章のあるその馬車はとても大きくて立派で、私が今まで乗ったことがあるどんな馬車よりも乗り心地が良かった。

 馬車は、私以外のお付きの人の乗るものやガイア様のお荷物を運ぶものも入れて、全部で4台。これはなかなか目立ちそう。


「はぁぁぁ……緊張します……」


 ゆっくり流れる風景を見ながらため息をつくと、「だいじょうぶ?」とガイア様がお声をかけてくださった。


「やっぱりまだ、知り合いに会ったら恐いなって思うのと……ライオット伯爵に出くわしたらどうしようって思いもあるんです」

「ライオット伯爵は謹慎中らしいけれど、まだ油断はできないわね」

「もうすぐ王太子殿下が帰国なさって…20歳のお誕生日パーティーがあるんですね」


 王宮で盛大に行われる、社交シーズンの最後を彩るパーティー。
 侍女の私も、会場で、ガイア様のお世話の仕事があるはずだ。

 その場で知り合いに会ったり……もし来ていたら、ライオット伯爵やメイス侯爵夫人に会ってしまうかもしれない。
 一人にならないように気を付けなければ。


(あれ、待って。
 私、ガイア様の侍女ということはウェーバー侯爵邸にも入るのよね。
 つまり、ヘリオスが産まれ育った家、そしていま住んでいる家に……?)


 うわあ! 本当にいいんですか!?

 18年前に赤ちゃんのヘリオスが産まれて、よちよち歩きを始めて、言葉を話すようになって、お兄様と兄弟ゲンカとかしちゃったりして(妄想)……それを全部見守ってきたおやしきに私、入れてもらえるってこと? 良いのかしら、それ? なんという役得!

 ……いったん冷静になろうと大きく息を吸って、吐く。

 落ち着きなさい、フランカ。相手は雲の上の人よ。名家のウェーバー侯爵家よ。礼儀と敬意と、レディとしてのたしなみを忘れずに。

 そして再び、周りの風景を見た。


(…………あら?)


 ふと、気になることがあった。
 進行方向遠くにある小さな小屋から、馬が一頭、走っていったのだ。上に人がのっている。


(そもそも…ヘリオスにお城に連れてきてもらった時……あそこにあんな小屋、あったかしら?)


 それも小屋というには、なにか農具などをしまうにも中途半端な場所に立っている。
 人の家らしくないその小屋の前を馬車が通り過ぎていく。なんでこの小屋に馬を置いていて、なんでここから馬に乗って出て行ったのかしら。誰か馬で移動していて、たまたま休憩していたのかしら。


「どうかしたの? フランカ」

「え、あの、いいえ!
 なんでもありません」


(大丈夫、よね?)


 なぜか少しだけ浮かんだ不安は、馬車に揺られているうちにだんだんと消えていった。


   ◇ ◇ ◇


 久しぶりに王都に入ったときにはもう夕方になっていた。
 それにしても少し離れていただけなのに、王都の街並みが、もう懐かしい。と同時に、王都の知り合いたち、それからお父様の顔を思い出して、鼓動が速くなる。
 心臓がきゅっとして、息がしづらい。


(大丈夫……、仕事に集中すればいいのよ。私、いま何もやましいことしていないんだから)


 そのまま、ヘリオスのおやしきに向かうのかと思っていた。けれど馬車がついたのは……


「あ、ここ、私が王都を出る前日に泊まったホテルです」


 外観もとても装飾が美しいホテルの建物を眺めて、私はヘリオスとの出会いの日に懐かしく思いを馳せた。


「そうなのね。ここはよく私がお世話になったホテルなのよ。
 何かあったらここに逃げ込んだらしっかりかくまってもらえたわ」

「ほんとに、ガイア様も大変だったんですね……」


 お付きの人と、荷物などを載せた馬車は先にお邸に向かい、一方、ガイア様と私は今夜はホテルに泊まるのだという。


「……ちょっと最近、うちのやしきの周りが騒がしいらしいから。
 邸に来るのは様子を見てからみたい」

「まだ変な人たちが邸の周りをうろついているんでしょうか……」

「変な人たち」というとなぜか、ぷっ、とガイア様が吹き出した。

「いえ、笑ってはダメね。
 まぁ、ヘリオスにもうちにも迷惑ではあるんだけど……」

「???」


 それにしても、ウェーバー侯爵家の人がお世話になってきたホテルだと聞くと、このまえ何気なく泊まったことがもったいなかったなと思う。


「明日の昼にヘリオスが迎えにくるわ。そうしたら一緒に出ましょう」

「はい!」


   ◇ ◇ ◇


 翌日、私たちは、ホテルのロビーではなく、ホテルが用意してくださった特別室のようなところでヘリオスの到着を待っていた。


(厳重だわ……ライオット伯爵に、私が王都に戻ったことが伝わったりしないように、気をつかってくださったのかしら)


 出していただいた紅茶はとっても美味しいけど、少しそれが気になっていた。

 重厚な扉が、こんこん、とノックされる。


「どうぞ」ガイア様が声をかけると、ホテルの方が扉を開け、一礼した。

「ヘリオス様のお着きでございます」

「ありがとう」


 すう、はぁ、と私は深呼吸した。
 よし、大丈夫よ。久しぶりにヘリオスに会う心構えはできたわ。
 お腹に力を入れて、私は顔をあげた。


(――――――!?)


「遅くなりました。
 無事にお戻りになられて良かったです、母上」

「我が息子ながら、馬子にも衣装ね」

「何ですかそれは」


 2人が会話している間、私は衝撃で言葉もなかった。

 私の知っているヘリオスの服装といえば、平民の方みたいな?不思議なフードのついた外套を羽織って顔を隠した格好だった。

 いま目の前のヘリオスは、まさに『貴族令息』だった。
 艶やかな生地の最高ランクの礼装に身を包み、前髪をあげてセットしているので、形の良い額と眉も見えるので凛々しさ倍増だ。とても腕のいい名のある仕立て人の手によるものだろう礼装は、ヘリオスのスタイルの良さを強調し、手足の長さを際立たせた。

 そこに加わる、息が止まりそうなほど綺麗なアイスブルーの瞳、ヘリオスの美貌。もはや王子さま(抽象的な意味で)としか言いようがないじゃない!!


「どうした? フランカ」

「――――――いきなりこの仕様のヘリオスは、心臓に悪いです……」

「は?」


 …………しまった。魂が抜けかけて、本音がすごい勢いで口から漏れてしまったわ。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。

木山楽斗
恋愛
弱小貴族で、平民同然の暮らしをしていたルリアは、両親の死によって、遠縁の公爵家であるフォリシス家に引き取られることになった。位の高い貴族に引き取られることになり、怯えるルリアだったが、フォリシス家の人々はとても良くしてくれ、そんな家族をルリアは深く愛し、尊敬するようになっていた。その中でも、義兄であるリクルド・フォリシスには、特別である。気高く強い彼に、ルリアは強い憧れを抱いていくようになっていたのだ。 時は流れ、ルリアは十六歳になっていた。彼女の暮らす国では、その年で魔法学校に通うようになっている。そこで、ルリアは、兄の学園に通いたいと願っていた。しかし、リクルドはそれを認めてくれないのだ。なんとか理由を聞き、納得したルリアだったが、そこで義妹のレティが口を挟んできた。 「お兄様は、お姉様を共学の学園に通わせたくないだけです!」 「ほう?」 これは、ルリアと義理の家族の物語。 ※基本的に主人公の視点で進みますが、時々視点が変わります。視点が変わる話には、()で誰視点かを記しています。 ※同じ話を別視点でしている場合があります。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

処理中です...