セクハラ貴族にビンタしたら社交界を追放されたので、田舎で人生やり直します。~一方、そのころ王都では~

真曽木トウル

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◇51◇ 身体強化魔法 VS ??魔法

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 ヘリオスは、ベルトにしていたナイフで、私の手を縛っていた縄らしきものを切ってくれた。

 
「あ、ありがとうございます、ヘリオス!
 どうやってここが!?」

「話は後。俺から離れんなよ」


 こんな時だけど、そっとささやいてくる声がい。


「……どういうことですの!?
 ヘリオス卿は、このやしきの高い塀を、どうやって越えたというの!?」

「何だッ……何なのだ、この蹴りのは……。
 身体強化魔法の使い手の私が蹴りとばされるなど、ありえんっ」


 あわてるメイス侯爵夫人と、へろへろと起き上がったライオット伯爵。
 確かに、塀は高くて門は閉まっている。
 ヘリオスはこれを越えて入ったの?

 疑問に思った私の耳に、再びライオット伯爵の大声が飛び込んでくる。


「そっ……そうか!! 私の、強化の度合いが弱かったのだ!!
 ――――“血潮に宿りし精霊よ、我が肉と骨を巡れ”
 〈身体フィジカ・強化コンフィルマンダスフォルティス〉!!」


 ライオット伯爵の身体が全体的にボウッとした光に包まれた。
 目の錯覚なのか、そのまま身体が大きくなったようにさえ見えた。


「ふ、フハハハハハハハッ!
 これで、貴様の攻撃な………グフッ!!!」


 しゃべってる途中にヘリオスの蹴りがお腹に入り、伯爵は身体を折り曲げ、倒れ、うめく。

 目を見開き、かはっ……と乾いた息を吐く。

 馬鹿な、馬鹿な、と、口が動いている。
 衝撃をみぞおちに食らって、息もできないようだ。


「――――身体からだの強化であって、衝撃の無効化じゃねぇんだろ。
 だったら強化を上回る衝撃を生めば良いだけの話だ」


 答えられないライオット伯爵。
 一方、手下らしい男性が、


「ふっざけんなよぉ、こんな優男やさおとこ一人でッ」


叫んで飛びかかってきた瞬間、その側頭部を、ヘリオスは鮮やかな飛び後ろ回し蹴りで刈る。

 かかと落とし。
 横蹴り。
 連続蹴り。
 ……そこにたくさんいた男の人たちは、ヘリオスの動きに翻弄されながら、びっくりするほどの速さで次々と倒されていく。

 踊るように美しく、それでいて無駄もないそれは、まるで雑草を容易たやすく刈る鋭利な大鎌のようにさえ見える。


 ――――何といったら良いのか、それはとても現実の光景と思えなかった。


「お、落ち着きなさい、相手はたった2人ですわ!!
 女の子を狙って、複数同時に、前後から挟むようにかかりなさい!!
 門は絶対に開かれないよう死守!!」


 メイス侯爵夫人が指揮を飛ばす。
 その間にも、ヘリオスは1人、また1人と敵を減らしていく。

 そんな中で、ふとライオット伯爵に目をやると、ずるずると上半身を引き起こし……懸命に上のほうに手をかざした。


「――――“大地に宿りし精霊よ、眷属の肉と骨を巡れ”〈範囲強化ラテ・コンフォルタトゥス〉」


 その場にいた男の人たちの身体がやはりボウッとした光に包まれる。

 いままさにヘリオスが蹴り倒そうとしていた男の人もまた光にくるまれて、ヘリオスの蹴りを顔面に受けながらびくともしない。


「ハ、ハハハッ!!
 ざまぁ、みろ!!
 身体強化魔法の対象は、ゲフッ……私、のみではッ、ないのだっ」


 勝ち誇りながら咳き込むライオット伯爵。
 蹴りを受けた男の人は、ここぞとばかりにヘリオスにつかみかかろうとした。

 ヘリオスは焦った様子もない。
 相手の手をするりとかわすと、後ろに飛び下がりざま、回転後ろ蹴りを相手のお腹に撃ち込んだ。
 白眼を剥いて、相手の男性は巨体を地面に沈めた。


「…………っ!!
 どういう……ことだ!?
 貴様も、身体強化を使うというのかっ……?」

「それぞれの家の継承魔法ぐらい覚えとけよ」


 うめいたライオット伯爵と、バッサリ切り捨てるヘリオス。


 …………と。一瞬、地面を振動が伝わってくるのを感じた。
 地響きのような音――――そして城壁のように高いこの邸の塀の一角から、この世のものとも思えない音が響いたかと思うと、塀にひびが入って、大きく砕け落ち、ポッカリと大穴が空いた。


「ヘリオス先輩!!
 遅くなりました!!」

「遅ぇよ!!」


 塀の向こうから響いたのは、ヴィクターさんの声?

 そして穴から飛び込んできた人影が、あっという間に残っていた(そして強化魔法をかけられたままの)男の人たちを疾風のようになぎ倒した。


 ――――こちらはアイギス様だ。


「速すぎますよヘリオス卿。
 先にいかないでください……!」


 不満そうな声をあげるアイギス様。


 あとに残ったのは、メイス侯爵夫人と、はいつくばるライオット伯爵だった。
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