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49、第3王女は王妃に殺されかける【ウィルヘルミナ視点】
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「あんまり?
何があんまりだというの?
アルヴィナの産みの母親である私が、国のため、アルヴィナのために決めたことよ」
「……い、いえ。その」
ついさっき政務を全部やらせろと言った同じ口で、ぬけぬけという言葉。
おかしいと思う。
今のこの事態の責任は、嘘をついていた王家と、それにかまけて法改正を怠けていたこの国にある。
なのに、すべての汚名をアルヴィナ姉様に着せようというのだ。
重婚を捏造し、もうすでに結婚した夫と引き剥がそうという……。
誰が考えても、おかしい。
それでも、王妃への恐怖が私の舌をもつれさせる。
「か、仮にも、その、王位継承権保持者として呼び戻される人の名誉が地に落ちていては、問題なのではないですか…??」
「あの子だって、勢いで受けた求婚なんて後悔しているはずよ。
宰相の孫とはいえ、爵位も継げない軍人の妻なんて、王女がなるものではない。
ドレスや宝石だってまともに買えはしないでしょうし、夜会にも誘われはしない。
王家の女がそんな日々に耐えられるかしら」
……ずっと同じドレスを着て、夜会がつらそうな顔して出席していた姉様のことは……ああ、この人はきっと見もしていなかったのだろうな。
「まぁ、もしたとえ、ベネディクトの宰相が気を配ってそれなりの暮らしをしていたとしても、そもそもアルヴィナは王女として生まれたのだから、その生涯を国のために使う義務があるわ。
今はまさに国難ですもの。個人の幸せなど求めるような、わがままは許されないわ」
(……あなたは、今まで国家予算で死ぬほど私利私欲満たしていたじゃないか)
アルヴィナ姉様が、ベネディクト王国でどんな暮らしをしているのか、私にはわからない。
夫となった男がどういう人物か。どういう関係を築いているのか。
幸せになっているのか、苦労しているのか。
だけど。
彼女にとってこの国にいる以上の地獄があるだろうか?
「…………本来なら。
本当ならアルヴィナ姉様こそ王太子になる人でしたよね。
いまさら王位継承権保持者として連れ戻すなら……どうして……姉様が産まれた時、闘わなかったんですか」
王妃が眉根を寄せた。
「産まれた時だけじゃないです。
それから19年ありました。
紛れもなく王妃陛下がお産みになった御子なのですから、姉様こそ未来の王位継承者だと、国王陛下や王城の貴族たちと闘うこともできました。
……いえ、王位継承者としてじゃなくて良かった。もっと普通に、自分の子どもとして大切にできたんじゃないかと……」
「……あなた、子どもを産んだこともないくせに」
「確かにありません。親が子に、どういう感情を抱くものなのかもわかりません。
でも、王妃陛下がアルヴィナ姉様を愛せなかったとしても、守ることは、できたと思うんです」
「守る? なぜわたくしがあの子を守らねばならないの?」
「…………親でしょう?」
「嫌よ」
王妃は首を横に振る。
「女しか産めなかったのは、わたくしの人生最大の汚点よ。
そのせいでわたくしがどれだけ苦しんだことか。あの子が男に産まれていたら良かっただけのことなのに、それだけのことが……」
「……あなたを責めて追いつめた側の考えに、自分から染まってどうするんですか!」
「なんですってっ」
国難とやらの元凶は、その凝り固まった考えのほうだったんじゃないのか?
「王妃陛下が、それを汚点としか思えないなら……」
王妃だけじゃない。
国王、城の貴族たち皆、私たち兄妹、それから国民。
この国すべてが、王妃の共犯だ。
感情のない人形でもなんでもなく、悩んで、苦しんであがいて19年生きてきた1人の女性。
────その人の存在を、この国が汚点だとしか思えないなら。
「……どうか、アルヴィナ姉様を解放してあげてください」
深く頭を下げ、そう言った瞬間。
────息ができなくなった。
(…………!!!???)
喉が締め付けられるようだ。
口を開いても空気が入ってこない。
倒れる瞬間、王妃と目が合った。その瞳が赤く光っていた。
(……くる、しい………!!)
そのまま、床をのたうちまわる。
口をはくはくと開けて、息切れした魚のように空気を求める。
王妃の魔法だ。何という魔法かもしらない。頭の中は混乱の走馬灯が駆け巡る。
このまま死ぬ。間違いなく。
確信したその時。
「王妃陛下。いまウィルヘルミナに死なれると、私が倒れます」
────ダンテス兄様が口を挟んだ瞬間、私の喉が解放され、咳き込むように私は空気をむさぼった。
「それもそうよね。処分はアルヴィナが帰ってきてから考えましょう」
床に転がったまま、ぜいはぁ肩で呼吸する私を、王妃は強く蹴飛ばした。胃の内容物がせりあがる。
「もう一点。
アルヴィナの件はくれぐれも慎重を期すべきと存じます。
何せベネディクト王国はヒム王国と昵懇ですから」
「……下手に怒らせるとベネディクトがヒムの側に立つということね。確かにあなたのいう通りだわ。
まぁ、まずは母であるわたくしが結婚披露パーティーであの子に会って出方を決めましょう。
出来ればそのまま夫と引き剥がし船に詰めて、トリニアスまで連れ帰ってこられるように」
それから何事か話しながら、王妃と兄様が部屋を出ていく。
苦しい私はまだ起き上がることも出来ず、彼らの背中を見送った。
◇ ◇ ◇
何があんまりだというの?
アルヴィナの産みの母親である私が、国のため、アルヴィナのために決めたことよ」
「……い、いえ。その」
ついさっき政務を全部やらせろと言った同じ口で、ぬけぬけという言葉。
おかしいと思う。
今のこの事態の責任は、嘘をついていた王家と、それにかまけて法改正を怠けていたこの国にある。
なのに、すべての汚名をアルヴィナ姉様に着せようというのだ。
重婚を捏造し、もうすでに結婚した夫と引き剥がそうという……。
誰が考えても、おかしい。
それでも、王妃への恐怖が私の舌をもつれさせる。
「か、仮にも、その、王位継承権保持者として呼び戻される人の名誉が地に落ちていては、問題なのではないですか…??」
「あの子だって、勢いで受けた求婚なんて後悔しているはずよ。
宰相の孫とはいえ、爵位も継げない軍人の妻なんて、王女がなるものではない。
ドレスや宝石だってまともに買えはしないでしょうし、夜会にも誘われはしない。
王家の女がそんな日々に耐えられるかしら」
……ずっと同じドレスを着て、夜会がつらそうな顔して出席していた姉様のことは……ああ、この人はきっと見もしていなかったのだろうな。
「まぁ、もしたとえ、ベネディクトの宰相が気を配ってそれなりの暮らしをしていたとしても、そもそもアルヴィナは王女として生まれたのだから、その生涯を国のために使う義務があるわ。
今はまさに国難ですもの。個人の幸せなど求めるような、わがままは許されないわ」
(……あなたは、今まで国家予算で死ぬほど私利私欲満たしていたじゃないか)
アルヴィナ姉様が、ベネディクト王国でどんな暮らしをしているのか、私にはわからない。
夫となった男がどういう人物か。どういう関係を築いているのか。
幸せになっているのか、苦労しているのか。
だけど。
彼女にとってこの国にいる以上の地獄があるだろうか?
「…………本来なら。
本当ならアルヴィナ姉様こそ王太子になる人でしたよね。
いまさら王位継承権保持者として連れ戻すなら……どうして……姉様が産まれた時、闘わなかったんですか」
王妃が眉根を寄せた。
「産まれた時だけじゃないです。
それから19年ありました。
紛れもなく王妃陛下がお産みになった御子なのですから、姉様こそ未来の王位継承者だと、国王陛下や王城の貴族たちと闘うこともできました。
……いえ、王位継承者としてじゃなくて良かった。もっと普通に、自分の子どもとして大切にできたんじゃないかと……」
「……あなた、子どもを産んだこともないくせに」
「確かにありません。親が子に、どういう感情を抱くものなのかもわかりません。
でも、王妃陛下がアルヴィナ姉様を愛せなかったとしても、守ることは、できたと思うんです」
「守る? なぜわたくしがあの子を守らねばならないの?」
「…………親でしょう?」
「嫌よ」
王妃は首を横に振る。
「女しか産めなかったのは、わたくしの人生最大の汚点よ。
そのせいでわたくしがどれだけ苦しんだことか。あの子が男に産まれていたら良かっただけのことなのに、それだけのことが……」
「……あなたを責めて追いつめた側の考えに、自分から染まってどうするんですか!」
「なんですってっ」
国難とやらの元凶は、その凝り固まった考えのほうだったんじゃないのか?
「王妃陛下が、それを汚点としか思えないなら……」
王妃だけじゃない。
国王、城の貴族たち皆、私たち兄妹、それから国民。
この国すべてが、王妃の共犯だ。
感情のない人形でもなんでもなく、悩んで、苦しんであがいて19年生きてきた1人の女性。
────その人の存在を、この国が汚点だとしか思えないなら。
「……どうか、アルヴィナ姉様を解放してあげてください」
深く頭を下げ、そう言った瞬間。
────息ができなくなった。
(…………!!!???)
喉が締め付けられるようだ。
口を開いても空気が入ってこない。
倒れる瞬間、王妃と目が合った。その瞳が赤く光っていた。
(……くる、しい………!!)
そのまま、床をのたうちまわる。
口をはくはくと開けて、息切れした魚のように空気を求める。
王妃の魔法だ。何という魔法かもしらない。頭の中は混乱の走馬灯が駆け巡る。
このまま死ぬ。間違いなく。
確信したその時。
「王妃陛下。いまウィルヘルミナに死なれると、私が倒れます」
────ダンテス兄様が口を挟んだ瞬間、私の喉が解放され、咳き込むように私は空気をむさぼった。
「それもそうよね。処分はアルヴィナが帰ってきてから考えましょう」
床に転がったまま、ぜいはぁ肩で呼吸する私を、王妃は強く蹴飛ばした。胃の内容物がせりあがる。
「もう一点。
アルヴィナの件はくれぐれも慎重を期すべきと存じます。
何せベネディクト王国はヒム王国と昵懇ですから」
「……下手に怒らせるとベネディクトがヒムの側に立つということね。確かにあなたのいう通りだわ。
まぁ、まずは母であるわたくしが結婚披露パーティーであの子に会って出方を決めましょう。
出来ればそのまま夫と引き剥がし船に詰めて、トリニアスまで連れ帰ってこられるように」
それから何事か話しながら、王妃と兄様が部屋を出ていく。
苦しい私はまだ起き上がることも出来ず、彼らの背中を見送った。
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