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◇51◇ 海上からの逃亡計画
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「まぁ、ありがたく思えよ。おまえに高値をつけた買い手は大層な大金持ちでな……孤島に豪奢な邸を造らせて、そこでおまえを囲うんだとよ。股さえ開いてりゃ何不自由なく暮らせる生活だぜ。うらやましいぐらいだな、ハハッ」
────饒舌に、まるで手柄話をするように父は語る。
歪める表情に、面影は掻き消える。さすがに勘違いだ。こんな男が名門貴族に関わりがあるわけがない。
「親だからって、人をさらっといて何事もなかったように金だけもらって逃げられると思ってんの?
秘密を握ってる私が突然いなくなったら、ファゴット侯爵家やレイエス大公家が私のことを探すでしょ?」
「はぁ?? 何言ってんだ、おまえ。
探すわけねぇだろ。おまえを利用して替え玉に使ったなんて、連中が大公家に言えるわけがない。
知らねぇだろ。貴族ってのは名誉第一、名誉に傷がつきゃ社交界からも締め出しくらっちまう。だから不祥事は徹底して隠すのさ」
マクスウェル様やマレーナ様と同じこと言ってる。私と同じ平民のくせに。
「例のお嬢様だって、都合の悪いおまえにゃさっさと消えてもらいたいだろうよ。おまえなんざ、存在だけで大公子殿下とやらとの結婚の邪魔だしな」
ズキン、と痛んだ胸をこらえ、私は首を伸ばして父親を見る。
「………………私を売り飛ばすお金だけでいいんだ? 私をつかって、ファゴット侯爵家からお金をゆすりとろうとは思わないんだ?」
「おっと。その手にゃ乗らねぇぜ」
ケケケケ、と父親は下品に笑う。
「おまえが俺の思いどおりになる娘じゃねぇってことは心底承知の上よ。自由にさせてりゃ、逆に役人に俺を売るぐらいのことはやりかねねぇ」
…………さすが、10年以上も娘に寄生し続けてきた父親の言うことは違う。
「それに結婚まではしてもらわねぇと困るんだよ。あのお嬢様と、大公子様がな。あの男の娘じゃなく、俺の本当の…………おっと、これ以上はいけねぇな」
思わせ振りなことを言って、わざとらしく口をふさぐ仕草をするところが腹立たしい。
「わかっただろ? 傷物のおまえなんか誰にとっても邪魔なんだよ。唯一おまえに許されてる道が、育ててくれたお父様の役に立つことなのさ。……じゃあな。港に着くまで大人しく眠ってろ」
父が船室の扉を閉め、再び私は暗闇に包まれた。
そのなかで私は、強い怒りを燃やしていた。
(……私はおまえの財産じゃない)
私は、私だ。誰が売られたりするもんか。
芝居で鍛えた柔軟性を生かして、私は身体を曲げ、マレーナ様の服に潜ませたナイフを少しずつ手元の方に送る。手に届いたナイフを指先の感覚だけで持ち替える。
そのまま縄を切ろうとして……やめた。ナイフを身体の下に隠す。
どこに向かっているかはわからないけれど、喉の渇きや空腹の具合から、まだレイエスを出発して数時間ほどだろう。
ベネディクト側の港からレイエスまでまる1日かかった。父親の行動範囲は外国には及ばないから、その大金持ちとやらもベネディクト人のはずだ。
向かっているのがベネディクト王国のどこかの港だとして、たぶん数時間程度じゃまだ遠すぎる。
1度か2度ぐらいは誰かが食事を持ってくるだろう。
あの父親は、娘の私が飢えていようとかまいはしないけど、いまの私はあいつにとって、高値の商品だから。
そのときに縄が切れていては怪しまれる。
いまじゃ逃げ場がない。海に飛び込んでも陸まで泳ぎきることができるぐらい、船が目的地の近くまで来ていないと。
(……マレーナ様は、私がいなくなったことに気づくだろうか。気づいても黙ってるだろうか。ファゴット侯爵家の人たちは……ギアン様は)
それとも、父親の言うように、隠してしまうだろうか?
…………いや。
『必ず迎えに来るので、待っていなさい』と繰り返したマレーナ様。
『……だから、黙って出ていかないでくれ!! 頼む!!』と私を止めたファゴット侯爵。
母が亡くなったことを知った時、ずっと私についていてくれた奥様、マクスウェル様、シンシアさん。
あの人たちは、父とは違う。時間はかかっても、きっと私を探してくれる。だから私もせいいっぱいあがいて逃げ出すんだ。見つけてもらえるように。
(…………ギアン様は……わからないけれど)
本音を言えば、ギアン様に会いたい。だけど私がしたことを考えれば、ギアン様に探してもらうのは申し訳なさすぎる。
ため息をついたそのとき。
─────ドオォォォォンン!!!!
(!!!???)
海の深部から聞こえるような衝撃音とともに船が揺れ、私の身体は船室のなかを転がった。
────饒舌に、まるで手柄話をするように父は語る。
歪める表情に、面影は掻き消える。さすがに勘違いだ。こんな男が名門貴族に関わりがあるわけがない。
「親だからって、人をさらっといて何事もなかったように金だけもらって逃げられると思ってんの?
秘密を握ってる私が突然いなくなったら、ファゴット侯爵家やレイエス大公家が私のことを探すでしょ?」
「はぁ?? 何言ってんだ、おまえ。
探すわけねぇだろ。おまえを利用して替え玉に使ったなんて、連中が大公家に言えるわけがない。
知らねぇだろ。貴族ってのは名誉第一、名誉に傷がつきゃ社交界からも締め出しくらっちまう。だから不祥事は徹底して隠すのさ」
マクスウェル様やマレーナ様と同じこと言ってる。私と同じ平民のくせに。
「例のお嬢様だって、都合の悪いおまえにゃさっさと消えてもらいたいだろうよ。おまえなんざ、存在だけで大公子殿下とやらとの結婚の邪魔だしな」
ズキン、と痛んだ胸をこらえ、私は首を伸ばして父親を見る。
「………………私を売り飛ばすお金だけでいいんだ? 私をつかって、ファゴット侯爵家からお金をゆすりとろうとは思わないんだ?」
「おっと。その手にゃ乗らねぇぜ」
ケケケケ、と父親は下品に笑う。
「おまえが俺の思いどおりになる娘じゃねぇってことは心底承知の上よ。自由にさせてりゃ、逆に役人に俺を売るぐらいのことはやりかねねぇ」
…………さすが、10年以上も娘に寄生し続けてきた父親の言うことは違う。
「それに結婚まではしてもらわねぇと困るんだよ。あのお嬢様と、大公子様がな。あの男の娘じゃなく、俺の本当の…………おっと、これ以上はいけねぇな」
思わせ振りなことを言って、わざとらしく口をふさぐ仕草をするところが腹立たしい。
「わかっただろ? 傷物のおまえなんか誰にとっても邪魔なんだよ。唯一おまえに許されてる道が、育ててくれたお父様の役に立つことなのさ。……じゃあな。港に着くまで大人しく眠ってろ」
父が船室の扉を閉め、再び私は暗闇に包まれた。
そのなかで私は、強い怒りを燃やしていた。
(……私はおまえの財産じゃない)
私は、私だ。誰が売られたりするもんか。
芝居で鍛えた柔軟性を生かして、私は身体を曲げ、マレーナ様の服に潜ませたナイフを少しずつ手元の方に送る。手に届いたナイフを指先の感覚だけで持ち替える。
そのまま縄を切ろうとして……やめた。ナイフを身体の下に隠す。
どこに向かっているかはわからないけれど、喉の渇きや空腹の具合から、まだレイエスを出発して数時間ほどだろう。
ベネディクト側の港からレイエスまでまる1日かかった。父親の行動範囲は外国には及ばないから、その大金持ちとやらもベネディクト人のはずだ。
向かっているのがベネディクト王国のどこかの港だとして、たぶん数時間程度じゃまだ遠すぎる。
1度か2度ぐらいは誰かが食事を持ってくるだろう。
あの父親は、娘の私が飢えていようとかまいはしないけど、いまの私はあいつにとって、高値の商品だから。
そのときに縄が切れていては怪しまれる。
いまじゃ逃げ場がない。海に飛び込んでも陸まで泳ぎきることができるぐらい、船が目的地の近くまで来ていないと。
(……マレーナ様は、私がいなくなったことに気づくだろうか。気づいても黙ってるだろうか。ファゴット侯爵家の人たちは……ギアン様は)
それとも、父親の言うように、隠してしまうだろうか?
…………いや。
『必ず迎えに来るので、待っていなさい』と繰り返したマレーナ様。
『……だから、黙って出ていかないでくれ!! 頼む!!』と私を止めたファゴット侯爵。
母が亡くなったことを知った時、ずっと私についていてくれた奥様、マクスウェル様、シンシアさん。
あの人たちは、父とは違う。時間はかかっても、きっと私を探してくれる。だから私もせいいっぱいあがいて逃げ出すんだ。見つけてもらえるように。
(…………ギアン様は……わからないけれど)
本音を言えば、ギアン様に会いたい。だけど私がしたことを考えれば、ギアン様に探してもらうのは申し訳なさすぎる。
ため息をついたそのとき。
─────ドオォォォォンン!!!!
(!!!???)
海の深部から聞こえるような衝撃音とともに船が揺れ、私の身体は船室のなかを転がった。
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