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13、元聖女、星見デートする
しおりを挟む────夕食の後、私たちは少数の護衛とともに夜の湖を見に行った。
山中に広がる大きくて神秘的な湖は、静かに私たちを待っていた。
「良いわね、素敵…………」
護衛を少し離れたところに待機させて、2人きりで見たその光景。
言葉が出てこなくなるほど美しかった。
空と、大きな湖面。
それぞれに、無数の宝石をちりばめたようにキラキラと輝き広がる一面の星。
どこを見ても心奪われるような、ロマンチックな光景……。
息を呑み、その輝きを楽しむ。
「ありがとう。この場所、最高よ」
「今でも星は好きなんだな」
「ええ、大好き。国が違うと見られる星座も少し違うのね」
「よく寮監の目を盗んで、2人で屋根裏部屋に上がって星を見たな」
「うん、見た!
大学の高い塔の間から見る星も素敵だったけど……。
ねぇ、湖の周りを歩いても良い?
いろいろな角度から見たいわ」
「わかった」
「え、ちょっ!?」
いきなり足元を掬われたかと思うと、私はウィルフレッドの腕に抱き上げられた。
待ってこれ。
完全に、まごうことなきお姫様抱っこの体勢ですが。
「え、なに、これは……」
「人前でなければいいんだろう?」
「いや、屁理屈?」
「足元が暗いからな。スカートで歩けば足を取られかねん」
しれっ、とウィルフレッドは言う。
こじつけられてる感半端ない。
「35歳でさすがにこれはなくない?」
「俺は歳など関係ないと思うがな」
かまわず、ウィルフレッドは私を運び始めた。
「……絶対に王城ではしないからね」と続けた私の言葉は、事後承諾になってしまっただろうか?
腕を彼の首にかける。
体温。匂い。安定感のある腕の感触。
生まれて初めてお姫様抱っこ体勢から見る星は、綺麗だけど、すごく非日常。
(……やっぱり、最近ウィルフレッドの様子おかしいわよね?)
さっきふわっと思ったことを思い返す。
不本意ながら『お盛ん』とは言われているし、文字通り何でも与えられてはいるけど、それでも結婚直後は、夜以外はわりと適切な距離だった……と思う。
なのに今日なんて突然昼間から求めてくるし、抱っこして運びだすし。星を見に連れ出したりするし……。
あと、キスの頻度だって上がってきている。
(……まさか、無自覚にエスカレートしてる?)
だとしたらこの15年、女性とどういう付き合いしてきたの?
というか私、毎夜彼との夫婦の行為があるわけだけど、それだけの体力と……あれだけの欲求をお持ちなら、私と結婚する前どんな女性とあんなことやこんなことを? 複数の女性とだったり、取っ替え引っ替えだったり?
────でも、私の知ってるウィルフレッドだったら、女性をモノみたいには扱わない。
多少不器用でも、ちゃんと誠実に、長く、一対一で付き合うんじゃないかと、思う。
「……あ、すごい、ここ」
「降りるか?」
山の角度が変わり、隠れていた月が見えて星も一段とよく見えるところで、ウィルフレッドが私を地面に下ろしてくれた。
煌々と明るい月が合わさって、それはどんな絵よりも美しく、深呼吸して私は星を堪能した。
「月が映えるわ……ほんと奇跡みたい、この光景。記憶の中に焼きつけていくわ」
「気に入ったならまた何度でも連れてくるさ」
「本当!? ありがとう」
暗くて表情は見づらいけど、ウィルフレッドの声は、やっぱり優しい。
複数とか取っ替え引っ替えとか、この人はそういうことはしない気がするなぁ。
宰相閣下には何度も、
『どうぞ末長く、陛下のことをよろしくお願い申し上げます』
と頼まれた。
宰相ミリオラ女公爵は先々代の国王の庶子で、公式には王女として扱われなかったけれど、政務に携わりながらウィルフレッドのことを子どもの頃から見守っていたそうだ。
彼女に比べれば、私はウィルフレッドのことを全然知らない。
この15年のウィルフレッドは、どんな時間を重ねてきたのか。
忙しくて結婚する暇はなかったと言っていたけど、どんな女性とのお付き合いがあったのか。
「出発は明後日だからな。明日は今日行けなかった場所に行こう。滝が美しい場所、季節の花が楽しめる場所がある。それから良い市が立つところも」
「いや、事前調査行き届きすぎでしょ」
再びお姫様抱っこで運ばれながら、私はそう突っ込んだ。
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