フェリペとアラゴン王家の亡霊たち

レイナ・ペトロニーラ

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11、ハインリヒ7世との思い出

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僕の名前はフェリペ、14歳、1518年にスペインで生まれた。僕はアラゴンの歴史を聞いたことがきっかけで、ラミロ2世という名前の亡霊と知り合うことになった。

ラミロ2世は子孫の亡霊を次々と僕の部屋に連れて来た。ハインリヒ7世、ペドロ2世がやってきた。中でもハインリヒ7世の生涯はショックであった。彼は皇帝フリードリヒ2世とアラゴン王女コンスタンサの長男として生まれたが、反乱を起こして捕らえられ、目を潰されて幽閉された。不治の病にかかり、6年後に幽閉場所を移される時、彼は馬と一緒に谷底へ身を投げた。仮面をつけていた彼はひどく傷つき、最初に僕の部屋に来た時は、ほとんど何も話せないほどであった。

そしてあの日、僕とラミロ2世、ハインリヒ7世、ペドロ2世はモンソンの城がある丘の麓に来ていた。僕は亡霊3人を引率する先生のような役割だと聞いた。僕たちは目立たないように茶色の修道服を身に付けていた。そしてラミロ2世、ペドロ2世の2人は本当に遠足に来た子供のようにはしゃいでどんどん先に行ってしまい、僕と目が見えないハインリヒ7世が取り残されてしまった。僕は仮面をつけたハインリヒ7世の手を引いてゆっくり歩いた。途中でずっと先の方を歩いているラミロ2世とペドロ2世のお世辞にもうまいとは言えない歌声が聞こえ、思わず笑ってしまった。

「随分楽しそうだな」
「はい、ラミロ2世とペドロ2世の2人は歌まで歌っています」
「いや、明るい光の中、そなたが笑っている姿が一瞬だけ見えた。余の目は潰され、ずっと暗闇の中で生きていたはずなのに・・・」
「ごめんなさい。2人の歌がその、あんまりうまくなくて・・・」
「ハハハ、そなたの言う通りだ。アラゴン王家に歌の名手はいないようだな」
「僕もそう思います」

仮面を付けているハインリヒ7世の表情はよく見えないが、静かに微笑んでいるようだった。

「今日はよい日だ。母上の故郷アラゴンにあるテンプル騎士団の城に来て、祖先の(あまりうまくない)歌まで聞いた。そしてそなたの輝く笑顔を見た」
「あの、ラミロ2世にも言いましたが、僕はみんなが思っているような清らかで純粋な子ではありません。修道院に来たばかりの頃、死ぬことばかり考えていました」
「何か事情があるようだな」

ハインリヒ7世は立ち止まった。僕は手を離して彼の目の前に立ち、今までのことを話した。お金持ちのユダヤ人の家に生まれたが、5歳の時母が亡くなり、父はすぐ再婚して継母に苛められたこと、7歳の時に弟が生まれ、孤児院に入れられたことなどを話した。

「最初はそれでも父さんが迎えに来てくれると信じて待っていた。でも迎えは来ないまま3年が過ぎた。10歳になった頃、僕は死ぬことを考えた」
「だが、キリスト教だけでなく、ユダヤ教もまた自ら命を絶つことは禁じているはずだ」
「だから僕は一生懸命考えて、鞭で打たれて死ぬことにした。今ならまだ母さんの顔を覚えている、今しかない!そう考えてわざと規則を破ったり仕事を怠けたりした」
「・・・・・」
「そして望み通り懺悔室に連れて行かれ鞭打たれた。必死に痛みに耐え、意識を失いかけた時はうれしかったよ。これで母さんに会えると思って・・・」
「でも死ぬことはできなかった」
「そう、僕は目を開けて意識を取り戻してしまった。痛くて苦しくて悲しくて、もう泣くこともできなかった。自分のベッドでのたうち回り、苦しみ続けても死ねなかった・・・」
「10歳でそんな経験をしてしまったのか・・・」

ハインリヒ7世はしばらくうつむいていた。仮面を付けた顔が震え、手を強く握りしめていた。

「余が目を潰されて幽閉されたのは反乱を起こした罰だから仕方がない。だが、なんの罪もない子供がなぜここまで苦しまなければならない!」

仮面の下、彼の目からは涙があふれていた。

「泣かないで・・・死にたいと考えたのは昔の僕だから。今はニコラス先生に勉強を教えてもらえるから死にたいとは思わない。それにこうしてアラゴン王家のみんなにも会えた」
「もしまた死にたくなるほど辛いことがあったら、今度は余を呼んでくれ。目が見えない亡霊に大したことはできないが、それでも話し相手くらいにはなれる」
「ありがとう」
「目を潰され幽閉されていた6年間、余は絶望のどん底にいた。やがて病にもかかり、自分の体が少しずつ変化していくのがわかった。仮面を付けられ周りの者に忌み嫌われ、暗闇の中で死ぬことばかり考えていた。余を陥れた者を恨み、自分の運命を呪っていた。それは亡霊になってからも同じだった。なぜこのような惨めな姿でずっとさ迷わなければならないのか、神を呪いさえした。だがこうしてそなたに会うことができた。そなたの役に立てるのなら、今はこの姿や己の運命ですら愛おしいと思える」

そして僕はまたハインリヒ7世の手を引いて、モンソン城の方へ歩いた。




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