6 / 49
第1章 修道院での子供時代
6、孤児院の子供たち
しおりを挟む
私が7歳位の頃、カルロス先生や他の偉い修道士の人が街へ行くことがあった。私はいつものように朝の日課を終わらせて学習室に行き、勉強の準備をして待っていた。その日は病院で働く医者のニコラス先生が学習室に来た。ニコラス先生は私にスペイン語とラテン語、そして人間や動物などの体の仕組みについて教えてくれていた。その日、先生は学習室に他の先生がいないことを確かめてから私のそばに来た。
「ミゲル、実は数日前に君への手紙を預かった」
「手紙・・・ですか?」
「このことはカルロス院長や他の先生には内緒にして欲しい」
「は、はい」
「これがその手紙だ」
ニコラス先生は私に小さな紙きれを渡した。そこにはたどたどしい字で次のようなことが書かれていた。
「ヤア、ミゲル!ボクハ、キミガダイスキ、トイウ、ツヨイシンネンガアル。キミニオアイシテ、ハナシヲスルヒガクルノヲ、ナガイアイダ、マチノゾンデイタ。インチョウセンセイガ、イナイトキ、フルイロバノミギガワニ、キテホシイ」
私は声を上げて読み上げたが、何が書いてあるのかよくわからない。
「フルイロバって何?」
「おそらく家畜小屋にいる年老いたロバのことだろう。これを書いたのは孤児院の子だ。君がカルロス院長と見回りにくるのを見て君に興味を持ったのだろう。私は時々孤児院や家畜小屋にも行って彼らの健康状態を調べている。もし君がよければ今から案内してもよい」
「でも、カルロス先生がいない時に・・・」
私はカルロス先生の顔を思い浮かべた。今まで先生に内緒でどこかへ行ったことは1度もない。
「もしカルロス院長に知られれば、彼らは酷い罰を受けることになる。どうする、ミゲル?君が気が進まないなら私が彼らに伝えておく」
「いえ、行きます。フルイロバのところに・・・」
「ミゲル、その言い方は間違っている。年取ったロバのいる家畜小屋が正しい」
ニコラス先生は声を出して笑った。先生の笑い顔を見たのはこの時が初めてだった。
「それならば今から出かけよう。他の者に聞かれたら家畜の体について調べる実習だと答えておく。それでよいな」
「はい!」
私は元気よく答えていた。
ニコラス先生と私は動きやすい作業着に着替えて外に出た。農場ではたくさんの人が働いていたが、見回りがないと知っていたためか、みんなおしゃべりしながらのんびりと働いていた。そして家畜小屋に近付くと姿が見えなくても子供たちの話し声が聞こえた。
「あれがミゲルか?」
「いつもと服が違っている」
「間違いない、そばにいるのはニコラス先生だ」
「待て、落ち着け。まずは俺とフェリペで偵察に行く。万が一ミゲルに話しかけたことがバレても鞭で打たれるのは俺たち2人だけでいい。お前たちは合図するまで隠れていろ」
「わかった」
家畜小屋の後ろから2人の子が出て来た。2人ともかなり大きく、7歳の私よりかなり年上らしい。
「俺の名前はアルバロ、14歳。孤児院では最年長だ。よろしく」
アルバロと名乗った少年はニコラス先生より背が高くがっしりとした体つきで、顔も腕もよく日に焼けていた。
「俺は物心つく前に修道院に預けられた。農家での引き取り手がないまま大きくなってしまい、今はこのフェリペと一緒に傭兵になる訓練を受けている」
「ヨウヘイって何?」
「金で雇われた兵士のことだ。俺は体も大きいから農家で働くより傭兵になった方がいいだろうと言われ、退役した元傭兵の人から剣術を習っている」
差し出されたアルバロの大きな手を恐る恐る握ってみた。錆びた鉄の臭いがする。
「僕の名前はフェリペ。12歳。手紙を書いたのは僕だよ」
「ダイスキトイウツヨイシンネン・・・」
「カルロス院長と一緒に見回りをしている君をいつも見ていた。僕たちとは全然違う君の生活を知りたくて話してみたくなった・・・」
フェリペと名乗った少年はアルバロに比べれば小柄でほっそりしていた。
「フェリペって・・・あの・・・懺悔室で・・・」
「そう、2年前君の前で鞭打たれて泣いていたのは僕だよ。あの時の痛さは今でも忘れられない。それでも僕は君がどんな生活をしているか知りたかった。どんな罰を受けてもいい、君と直接会ってどんな勉強をしているか聞きたかった。ここに来てくれて本当にうれしい。絶対に君に迷惑はかけない。全部僕のせいにしていい」
フェリペは私の手を握り、跪いて泣き出した。私はどうしたらいいかわからずに茫然と立っていた。
「フェリペは7歳の時にここに連れて来られた・・・」
ニコラス先生が代わりに話し始めた。
「彼の父親は裕福な商人だった。跡継ぎとして大切に育てられていたが、5歳の時に母親が亡くなった。父親はすぐに再婚し、弟が産まれてからは彼は邪魔者扱いされ、捨てられるように修道院に連れてこられた」
「・・・」
フェリペは跪いたまま顔を上げ、まっすぐに私の目を見た。
「僕はここに来た頃は修道院の生活になじめず、泣いてばかりいた。少し大きくなり、アルバロと一緒に剣術を習うようになった。でも僕は力が弱く剣術で負けてばかりいた。僕が大人になり、傭兵となって戦場に行ってもきっとすぐに負けてしまうだろう。その場で殺されるならまだいい。もし捕虜となり拷問されたら、きっと僕は耐え切れずになんでもしゃべってしまうに違いない。僕は自分の未来が怖くてたまらなかった」
「・・・」
「そんな時僕はカルロス院長と歩いている君を見た。もし僕の母が死ななければ僕は家庭教師に囲まれてたくさん勉強をし、父と一緒にいろいろな国に行ったに違いない。堂々と歩く君の姿が僕の叶えられない夢と重なった。君がどんな生活をして、どんな勉強をしているのかどうか教えて欲しい」
私はなんと答えていいかわからずにニコラス先生の方を見た。ニコラス先生は大きくうなずいた。
「僕は1歳になる前に多額の寄付金と一緒に修道院に預けられた・・・」
私はフェリペの前で自分のことを話し始めた。
「ミゲル、実は数日前に君への手紙を預かった」
「手紙・・・ですか?」
「このことはカルロス院長や他の先生には内緒にして欲しい」
「は、はい」
「これがその手紙だ」
ニコラス先生は私に小さな紙きれを渡した。そこにはたどたどしい字で次のようなことが書かれていた。
「ヤア、ミゲル!ボクハ、キミガダイスキ、トイウ、ツヨイシンネンガアル。キミニオアイシテ、ハナシヲスルヒガクルノヲ、ナガイアイダ、マチノゾンデイタ。インチョウセンセイガ、イナイトキ、フルイロバノミギガワニ、キテホシイ」
私は声を上げて読み上げたが、何が書いてあるのかよくわからない。
「フルイロバって何?」
「おそらく家畜小屋にいる年老いたロバのことだろう。これを書いたのは孤児院の子だ。君がカルロス院長と見回りにくるのを見て君に興味を持ったのだろう。私は時々孤児院や家畜小屋にも行って彼らの健康状態を調べている。もし君がよければ今から案内してもよい」
「でも、カルロス先生がいない時に・・・」
私はカルロス先生の顔を思い浮かべた。今まで先生に内緒でどこかへ行ったことは1度もない。
「もしカルロス院長に知られれば、彼らは酷い罰を受けることになる。どうする、ミゲル?君が気が進まないなら私が彼らに伝えておく」
「いえ、行きます。フルイロバのところに・・・」
「ミゲル、その言い方は間違っている。年取ったロバのいる家畜小屋が正しい」
ニコラス先生は声を出して笑った。先生の笑い顔を見たのはこの時が初めてだった。
「それならば今から出かけよう。他の者に聞かれたら家畜の体について調べる実習だと答えておく。それでよいな」
「はい!」
私は元気よく答えていた。
ニコラス先生と私は動きやすい作業着に着替えて外に出た。農場ではたくさんの人が働いていたが、見回りがないと知っていたためか、みんなおしゃべりしながらのんびりと働いていた。そして家畜小屋に近付くと姿が見えなくても子供たちの話し声が聞こえた。
「あれがミゲルか?」
「いつもと服が違っている」
「間違いない、そばにいるのはニコラス先生だ」
「待て、落ち着け。まずは俺とフェリペで偵察に行く。万が一ミゲルに話しかけたことがバレても鞭で打たれるのは俺たち2人だけでいい。お前たちは合図するまで隠れていろ」
「わかった」
家畜小屋の後ろから2人の子が出て来た。2人ともかなり大きく、7歳の私よりかなり年上らしい。
「俺の名前はアルバロ、14歳。孤児院では最年長だ。よろしく」
アルバロと名乗った少年はニコラス先生より背が高くがっしりとした体つきで、顔も腕もよく日に焼けていた。
「俺は物心つく前に修道院に預けられた。農家での引き取り手がないまま大きくなってしまい、今はこのフェリペと一緒に傭兵になる訓練を受けている」
「ヨウヘイって何?」
「金で雇われた兵士のことだ。俺は体も大きいから農家で働くより傭兵になった方がいいだろうと言われ、退役した元傭兵の人から剣術を習っている」
差し出されたアルバロの大きな手を恐る恐る握ってみた。錆びた鉄の臭いがする。
「僕の名前はフェリペ。12歳。手紙を書いたのは僕だよ」
「ダイスキトイウツヨイシンネン・・・」
「カルロス院長と一緒に見回りをしている君をいつも見ていた。僕たちとは全然違う君の生活を知りたくて話してみたくなった・・・」
フェリペと名乗った少年はアルバロに比べれば小柄でほっそりしていた。
「フェリペって・・・あの・・・懺悔室で・・・」
「そう、2年前君の前で鞭打たれて泣いていたのは僕だよ。あの時の痛さは今でも忘れられない。それでも僕は君がどんな生活をしているか知りたかった。どんな罰を受けてもいい、君と直接会ってどんな勉強をしているか聞きたかった。ここに来てくれて本当にうれしい。絶対に君に迷惑はかけない。全部僕のせいにしていい」
フェリペは私の手を握り、跪いて泣き出した。私はどうしたらいいかわからずに茫然と立っていた。
「フェリペは7歳の時にここに連れて来られた・・・」
ニコラス先生が代わりに話し始めた。
「彼の父親は裕福な商人だった。跡継ぎとして大切に育てられていたが、5歳の時に母親が亡くなった。父親はすぐに再婚し、弟が産まれてからは彼は邪魔者扱いされ、捨てられるように修道院に連れてこられた」
「・・・」
フェリペは跪いたまま顔を上げ、まっすぐに私の目を見た。
「僕はここに来た頃は修道院の生活になじめず、泣いてばかりいた。少し大きくなり、アルバロと一緒に剣術を習うようになった。でも僕は力が弱く剣術で負けてばかりいた。僕が大人になり、傭兵となって戦場に行ってもきっとすぐに負けてしまうだろう。その場で殺されるならまだいい。もし捕虜となり拷問されたら、きっと僕は耐え切れずになんでもしゃべってしまうに違いない。僕は自分の未来が怖くてたまらなかった」
「・・・」
「そんな時僕はカルロス院長と歩いている君を見た。もし僕の母が死ななければ僕は家庭教師に囲まれてたくさん勉強をし、父と一緒にいろいろな国に行ったに違いない。堂々と歩く君の姿が僕の叶えられない夢と重なった。君がどんな生活をして、どんな勉強をしているのかどうか教えて欲しい」
私はなんと答えていいかわからずにニコラス先生の方を見た。ニコラス先生は大きくうなずいた。
「僕は1歳になる前に多額の寄付金と一緒に修道院に預けられた・・・」
私はフェリペの前で自分のことを話し始めた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~
bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる