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第1章 修道院での子供時代
7、修道院で笑ってはいけない
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私が話し始めるとすぐに家畜小屋の後ろの方から声が聞こえた。
「ねえ、アルバロ。まだ出てはだめなの?」
「ミゲルは何を話すの?」
「おい、押すなよ!」
「だってここだとミゲルがよく見えない」
家畜小屋の後ろが騒がしくなり、アルバロが声をかけた。
「よーし、お前ら出てきていいぞ」
3歳から10歳位だろうか、8人の子供がゾロゾロと出てきて私の周りを取り囲んだ。
「わー、ミゲルって色が白いんだね」
「柔らかそう、触ってもいい?」
「だめだだめだ!ミゲルにベタベタ触るなんてそんな失礼なことこの俺が許さない。いいか、今いるところから動かないで静かに話を聞くのだ」
「はーい」
子供たち、そしてアルバロとフェリペの期待のこもった目に見つめられながら私は話を続けた。
「僕は1歳くらいの頃たくさんの寄付金と一緒にこの修道院に預けられた」
「きふきんてなに?」
「子供を修道院に預けるときに親が払うお金のことさ。僕の父さんは寄付金を少ししか出さなかったから僕はあんまりいい扱いを受けなかった」
「そうか、きふきんてだいじなんだね」
「寄付金があるかどうかより、俺なんてそもそも親が生きているかどうかもわからない」
「ミゲルはやっぱり偉い人のワケアリの子供だったの?」
フェリペは街で暮らした経験があるためか、難しい言葉をよく知っていた。
「よくわからない。ただ僕が5歳の時大きな街に行って、どうやらその近くに僕の両親が住んでいるみたいだった。大司教のドン・ペドロ様がカルロス先生に僕の両親のことを話していた。でもカルロス先生は僕を家族の元に返すのを反対していた。どのような理由であれ両親は僕を手放す決心をしたのだから、今更家族のところに返しても僕は幸せにはなれないと言うんだ」
「そうか、君も複雑な事情があってここに来たんだね」
フェリペは大きくうなずいた。
「ところで君は毎日どんな生活をしているの?」
「何を食べているの?」
「触ってもいい?」
小さな子供たちは私に触りたくてしょうがないようだった。
「触ってもいいよ」
私は小さな声で答えた。
「いいか、お前たち。ミゲルに触る許可は得られたが、くれぐれも失礼のないように触るのだぞ。ミゲルは俺やフェリペとは違う、院長のお気に入りだ。今日触れたかといってこの次に院長と一緒に見回りに来た時に同じように馴れ馴れしく話しかけたり触ってはいけない。今日が特別だ」
「わーい」
子供たちは次々に私に触るために近づいて来た。
「わーい、ミゲルの手は柔らかい」
「作業着もきれいで泥なんてついていないよ」
「いつもどんな物食べているの?」
「仕事は何しているの?」
「僕は毎日修道士の宿舎で生活している。院長先生の隣の部屋で寝て、お祈りをしたり食事を食べたり、それから学習室で勉強もしている」
「毎日肉を食べているの?」
「うん、昼食のスープにはいろいろな野菜や肉の塊が入っている」
「いいなあ。僕たちが肉やお菓子を食べられるのは特別な日だけだよ」
「勉強は何をしているの?」
「学習室でカルロス先生やニコラス先生、他にも何人かの先生についてスペイン語とラテン語、聖書や他の難しい本を読んだり、植物や動物についても勉強している」
「いいなあ、僕も街に住んでいた時は家庭教師の先生について勉強していた。街に戻るのは無理でも、君と一緒に勉強出来たらきっと毎日が楽しくなると思う」
私達の話を黙って聞いていたニコラス先生がこうまとめた。
「さあ、君たち。ミゲルへの質問はこれぐらいでいいだろう。私はこれから別の家畜小屋に行って馬や羊の健康状態を調べてくる。ミゲルは今日の学習として・・・そうだな、ここにいるロバの絵を描きなさい」
「ロバの絵ですか?」
「そう、薬草を見分けるために絵の描き方を教えたはずだ。動物は植物を描くより難しいが、その特徴を知るためには絵を描くことが役立つ。下手でいいから描いてみなさい」
「わかりました」
ニコラス先生は私に板とペン、そして小さな紙を渡して向こうへ歩いて行った。
「困ったな。ロバの絵なんて描いたことない」
「大丈夫だよ。君は薬草を描いたことあるのだろう。植物も動物も対象となるものをしっかり観察してその特徴をとらえて描けばいい」
私はロバの顔をじっと見た。子供たちの声が聞こえるが、私はそれが気にならないほどロバの顔を見ることに神経を集中させていた。
「ねえ、ミゲルが絵を描くところ見ていてもいい?」
「いいけどお前たち邪魔はするなよ」
「ミゲルって画家の子供なの?」
「それはどうかわからない。でもミゲルはニコラス先生から絵の描き方も習っている。俺たちとはくらべものにならないくらい素晴らしい絵を描くに決まっている」
どのくらいの時間が流れたのだろうか。私は必死に小さな紙にロバの顔を描いた、だいたい出来上がった頃、小さな子供が私の絵をのぞき込んで叫んだ。
「わー、ミゲルの絵ってすごく下手だ。これロバに見えない」
「本当だ!どっちかというと院長先生に似ている」
「すごーい、この顔は院長先生にそっくりだ」
子供たちが騒ぎ出し、アルバロが大声を出した。
「こら!お前たち、さっきから何を言っている。ミゲルの描いたロバの絵がカルロス院長にそっくりなんてそんなことあるわけないだろう」
「そんなに言うならアルバロも見るといいよ」
アルバロも私の絵をのぞき込んだ。
「ミゲル、この絵は?」
「ごめん、僕は動物を描くのは初めてだからあまりうまく描けない」
「いや、お前ある意味うまいよ。このロバの顔はカルロス院長にそっくりだ。ハハハハ・・・ああおかしい。今まで気づかなかった。カルロス院長はロバに・・・フェリペ、お前も見てみろ」
フェリペはなんと答えていいかわからない複雑な顔をした。周りの子供たちはもう大はしゃぎである、そこにニコラス先生が戻ってきた。
「君たちは何をそんなに騒いでいる。カルロス院長がいないからといって、これはちょっとハメを外し過ぎだ」
「ごめんなさい、僕が絵が下手でみんなに笑われて・・・」
「人の描いた絵を笑うなんて失礼なことだ。見せてみなさい」
「はい」
私の描いた絵を見てニコラス先生はなんて答えたらいいかわからない奇妙な顔をした。そして少したってからこう切り出した。
「ミゲルに動物の絵を描かせるのはまだ早過ぎた。いいか、君たちはこの絵のことは今すぐ忘れるのだ。今後カルロス院長が見回りに来た時に、間違ってもこの絵を思い出して噴き出したり、院長の顔がロバに似ているなどと、あ、いや、私は何を言っている、院長に対して失礼なことを考えてはいけない。この絵は私が処分しておこう」
「ミゲルの絵を笑ったりしてごめんなさい。でも僕たちはみんなミゲルと話ができてすごくうれしかったです。ニコラス先生お願いです。僕たちもミゲルと一緒に勉強させてください。ミゲルのように毎日とは言いません。1週間に1日でかまいません。他の日は仕事や剣術の稽古をがんばります。どうか僕たちに勉強させてください。お願いします、ニコラス先生」
フェリペの目は涙が浮かんでいた。ニコラス先生はしばらく考えてこう答えた。
「いいだろう。私からカルロス院長に伝えておく。正直私もミゲルのこんな表情は初めて見た。子供の成長には同じ年頃の子との触れ合いが必要不可欠だ。今までのミゲルの生活にはそれがなかった」
「ありがとうございます」
フェリペは深く頭を下げた。
「すみません、ニコラス先生。ミゲルの描いたその絵はどうするおつもりですか?」
「この絵は誰にも知られないように私が処分する」
「その絵を僕にください」
「フェリペ、何を言う。この絵を持っていたら君が描いたと思われ君が罰を受けることになる」
「誰にもわからないところに隠します。僕は今日のこと一生忘れません。その記念にとっておきたいのです」
「いいだろう。だがくれぐれも他の者に見つからない場所に隠してくれ」
「約束します。そして僕たちはこれから先、見回りに来たカルロス院長を見て、この絵を思い出して笑ったりしないと誓います」
「本当に気をつけてくれ」
ニコラス先生はフェリペに私が絵を描いた小さな紙を渡した。そして私と先生は修道士の生活する宿舎へと戻った。
「ねえ、アルバロ。まだ出てはだめなの?」
「ミゲルは何を話すの?」
「おい、押すなよ!」
「だってここだとミゲルがよく見えない」
家畜小屋の後ろが騒がしくなり、アルバロが声をかけた。
「よーし、お前ら出てきていいぞ」
3歳から10歳位だろうか、8人の子供がゾロゾロと出てきて私の周りを取り囲んだ。
「わー、ミゲルって色が白いんだね」
「柔らかそう、触ってもいい?」
「だめだだめだ!ミゲルにベタベタ触るなんてそんな失礼なことこの俺が許さない。いいか、今いるところから動かないで静かに話を聞くのだ」
「はーい」
子供たち、そしてアルバロとフェリペの期待のこもった目に見つめられながら私は話を続けた。
「僕は1歳くらいの頃たくさんの寄付金と一緒にこの修道院に預けられた」
「きふきんてなに?」
「子供を修道院に預けるときに親が払うお金のことさ。僕の父さんは寄付金を少ししか出さなかったから僕はあんまりいい扱いを受けなかった」
「そうか、きふきんてだいじなんだね」
「寄付金があるかどうかより、俺なんてそもそも親が生きているかどうかもわからない」
「ミゲルはやっぱり偉い人のワケアリの子供だったの?」
フェリペは街で暮らした経験があるためか、難しい言葉をよく知っていた。
「よくわからない。ただ僕が5歳の時大きな街に行って、どうやらその近くに僕の両親が住んでいるみたいだった。大司教のドン・ペドロ様がカルロス先生に僕の両親のことを話していた。でもカルロス先生は僕を家族の元に返すのを反対していた。どのような理由であれ両親は僕を手放す決心をしたのだから、今更家族のところに返しても僕は幸せにはなれないと言うんだ」
「そうか、君も複雑な事情があってここに来たんだね」
フェリペは大きくうなずいた。
「ところで君は毎日どんな生活をしているの?」
「何を食べているの?」
「触ってもいい?」
小さな子供たちは私に触りたくてしょうがないようだった。
「触ってもいいよ」
私は小さな声で答えた。
「いいか、お前たち。ミゲルに触る許可は得られたが、くれぐれも失礼のないように触るのだぞ。ミゲルは俺やフェリペとは違う、院長のお気に入りだ。今日触れたかといってこの次に院長と一緒に見回りに来た時に同じように馴れ馴れしく話しかけたり触ってはいけない。今日が特別だ」
「わーい」
子供たちは次々に私に触るために近づいて来た。
「わーい、ミゲルの手は柔らかい」
「作業着もきれいで泥なんてついていないよ」
「いつもどんな物食べているの?」
「仕事は何しているの?」
「僕は毎日修道士の宿舎で生活している。院長先生の隣の部屋で寝て、お祈りをしたり食事を食べたり、それから学習室で勉強もしている」
「毎日肉を食べているの?」
「うん、昼食のスープにはいろいろな野菜や肉の塊が入っている」
「いいなあ。僕たちが肉やお菓子を食べられるのは特別な日だけだよ」
「勉強は何をしているの?」
「学習室でカルロス先生やニコラス先生、他にも何人かの先生についてスペイン語とラテン語、聖書や他の難しい本を読んだり、植物や動物についても勉強している」
「いいなあ、僕も街に住んでいた時は家庭教師の先生について勉強していた。街に戻るのは無理でも、君と一緒に勉強出来たらきっと毎日が楽しくなると思う」
私達の話を黙って聞いていたニコラス先生がこうまとめた。
「さあ、君たち。ミゲルへの質問はこれぐらいでいいだろう。私はこれから別の家畜小屋に行って馬や羊の健康状態を調べてくる。ミゲルは今日の学習として・・・そうだな、ここにいるロバの絵を描きなさい」
「ロバの絵ですか?」
「そう、薬草を見分けるために絵の描き方を教えたはずだ。動物は植物を描くより難しいが、その特徴を知るためには絵を描くことが役立つ。下手でいいから描いてみなさい」
「わかりました」
ニコラス先生は私に板とペン、そして小さな紙を渡して向こうへ歩いて行った。
「困ったな。ロバの絵なんて描いたことない」
「大丈夫だよ。君は薬草を描いたことあるのだろう。植物も動物も対象となるものをしっかり観察してその特徴をとらえて描けばいい」
私はロバの顔をじっと見た。子供たちの声が聞こえるが、私はそれが気にならないほどロバの顔を見ることに神経を集中させていた。
「ねえ、ミゲルが絵を描くところ見ていてもいい?」
「いいけどお前たち邪魔はするなよ」
「ミゲルって画家の子供なの?」
「それはどうかわからない。でもミゲルはニコラス先生から絵の描き方も習っている。俺たちとはくらべものにならないくらい素晴らしい絵を描くに決まっている」
どのくらいの時間が流れたのだろうか。私は必死に小さな紙にロバの顔を描いた、だいたい出来上がった頃、小さな子供が私の絵をのぞき込んで叫んだ。
「わー、ミゲルの絵ってすごく下手だ。これロバに見えない」
「本当だ!どっちかというと院長先生に似ている」
「すごーい、この顔は院長先生にそっくりだ」
子供たちが騒ぎ出し、アルバロが大声を出した。
「こら!お前たち、さっきから何を言っている。ミゲルの描いたロバの絵がカルロス院長にそっくりなんてそんなことあるわけないだろう」
「そんなに言うならアルバロも見るといいよ」
アルバロも私の絵をのぞき込んだ。
「ミゲル、この絵は?」
「ごめん、僕は動物を描くのは初めてだからあまりうまく描けない」
「いや、お前ある意味うまいよ。このロバの顔はカルロス院長にそっくりだ。ハハハハ・・・ああおかしい。今まで気づかなかった。カルロス院長はロバに・・・フェリペ、お前も見てみろ」
フェリペはなんと答えていいかわからない複雑な顔をした。周りの子供たちはもう大はしゃぎである、そこにニコラス先生が戻ってきた。
「君たちは何をそんなに騒いでいる。カルロス院長がいないからといって、これはちょっとハメを外し過ぎだ」
「ごめんなさい、僕が絵が下手でみんなに笑われて・・・」
「人の描いた絵を笑うなんて失礼なことだ。見せてみなさい」
「はい」
私の描いた絵を見てニコラス先生はなんて答えたらいいかわからない奇妙な顔をした。そして少したってからこう切り出した。
「ミゲルに動物の絵を描かせるのはまだ早過ぎた。いいか、君たちはこの絵のことは今すぐ忘れるのだ。今後カルロス院長が見回りに来た時に、間違ってもこの絵を思い出して噴き出したり、院長の顔がロバに似ているなどと、あ、いや、私は何を言っている、院長に対して失礼なことを考えてはいけない。この絵は私が処分しておこう」
「ミゲルの絵を笑ったりしてごめんなさい。でも僕たちはみんなミゲルと話ができてすごくうれしかったです。ニコラス先生お願いです。僕たちもミゲルと一緒に勉強させてください。ミゲルのように毎日とは言いません。1週間に1日でかまいません。他の日は仕事や剣術の稽古をがんばります。どうか僕たちに勉強させてください。お願いします、ニコラス先生」
フェリペの目は涙が浮かんでいた。ニコラス先生はしばらく考えてこう答えた。
「いいだろう。私からカルロス院長に伝えておく。正直私もミゲルのこんな表情は初めて見た。子供の成長には同じ年頃の子との触れ合いが必要不可欠だ。今までのミゲルの生活にはそれがなかった」
「ありがとうございます」
フェリペは深く頭を下げた。
「すみません、ニコラス先生。ミゲルの描いたその絵はどうするおつもりですか?」
「この絵は誰にも知られないように私が処分する」
「その絵を僕にください」
「フェリペ、何を言う。この絵を持っていたら君が描いたと思われ君が罰を受けることになる」
「誰にもわからないところに隠します。僕は今日のこと一生忘れません。その記念にとっておきたいのです」
「いいだろう。だがくれぐれも他の者に見つからない場所に隠してくれ」
「約束します。そして僕たちはこれから先、見回りに来たカルロス院長を見て、この絵を思い出して笑ったりしないと誓います」
「本当に気をつけてくれ」
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