ミゲルの物語、前世療法で見た数奇な人生~キリスト教の歴史の闇と光~

レイナ・ペトロニーラ

文字の大きさ
40 / 49
第2章、悪夢と狂気の中で

40、間違った世界

しおりを挟む
 街から修道院へどのように帰ったのか全く記憶がない。悪夢を見てはうなされ、薬を飲まされたような気がする。そして意識を取り戻した時、私はまだ目を開けることも体を動かすこともできずにいた。

「すまない。空いた病室にミゲルを寝かせて欲しい」
「カルロス院長、どうしたのですか?」
「話は病室に入ってからにする。手を貸してくれ」
「わかりました」

 どうやら私はカルロス先生に抱きかかえられているようだった。体を動かすことはまだできない。病室のベッドに寝かされたので目を閉じたままでいた。

「ミゲルはひどくうなされていたから、私の持っていた薬を与えて眠らせ、護衛の者と交代で抱きかかえながら馬車で帰ってきた。暴れては危険だから、ほとんど眠らせていた」
「街で何かあったのですか?」
「異端者の裁判と処刑が行われた。あんな酷い光景は子供に見せてはいけなかった」

 誰かが私に近付いて手を握った。ニコラス先生のようだ。

「ミゲルはまだ薬が効いているようですね。何があったか詳しく聞かせてください。ミゲルだけでなくカルロス院長、あなたも薬が必要かと思われます。ほとんど寝てないのでは・・・」
「今から話すことは他の者には聞かれたくない」
「大丈夫です。この病室は特別室なので、中から鍵をかければ誰も入れませんし、話し声が他の部屋に聞こえることもありません」
「そうか・・・私は地獄を見てしまった。この先修道院長としてどう生きたらいいかわからなくなっている」

 足音とガラスのぶつかる音が聞こえた。

「このワインを飲んでください。薬を入れてあります。感覚を麻痺させるような強い種類のものではなく、ただ気持ちを落ち着かせる効果のある薬です」
「ありがとう」

 しばらくの間は何も聞こえなかった。私は固く目を閉じていた。手足は少し動くようになっていたが、ベッドに寝たままじっとしていた。









「処刑されたのはユダヤ人の家族だった。父親と母親と子供の3人、子供はまだ12,3歳位だった」
「それは酷い・・・」
「彼らは教会に火をつけたという理由で裁かれていた。父親はもう完全に気が狂っていた。顔が酷く傷つけられ、目をくり抜かれ焼け爛れていた」
「・・・・・」
「母親の方は顔はきれいなままだった。だがおそらく暴行されたのだろう。半分は気が狂っていた。彼らの子供だけが拷問を免れ正気を保っていた」
「・・・・・」
「かわいそうに・・・正気を保っていた子供が1番恐怖と苦痛を感じたであろう。3人とも生きたまま火あぶりにされた」
「カルロス院長、あなたは・・・」
「見ている時に同じ苦痛を感じた。それでも私は以前のように気を失うということはなかった。私はミゲルを守ろうと必死で抱きかかえていた。そしてミゲルが叫び声を上げ、先に意識を失った」
「・・・・・」
「私はあの裁判が悪意によるものだとわかってしまった・・・」
「カルロス院長、そこから先は話してはいけません」
「いや、話すのはそなたにだけだ。黙ってはいられない」

 カルロス先生の声はあの夜、ドン・ペドロ大司教と話していた時と同じ声であった。私は目を固く閉じたままなので姿は見えないが、先生が激しい怒りで震えているのがわかった。まさか先生は私の家族であることをニコラス先生に話してしまうのか・・・








「あの子供は叫んでいた。自分たち家族は無実であると。私もそれが真実だと思う。改宗してキリスト教徒になった者が教会に火を付けるなどありえない。あの家族はおそらく重大な秘密を知ってしまったか、それとも財産の没収が目的で罪をなすりつけられたに違いない」
「カルロス院長、それ以上言ってはなりません!」
「父親だけ顔を酷く傷つけられていたのも気になる。あの男は別人だったのかもしれない。本当の父親は拷問で死んでしまって、全く別の男が身代わりにされ、気が狂うほどの拷問を受けて顔を焼かれ、悲惨な姿で晒し者にされていたとしたら・・・異端審問はキリスト教徒を狂わせ、世界を間違った方向に導いている。キリストが、そして神が望んだのはこんな世界ではない・・・」
「お願いです、カルロス院長、それ以上は言わないでください。あなたのおっしゃる通り、今キリスト教徒は間違った方向に進んでいます。十字軍の時代と同じです。間違った考えや制度のために酷い方法で殺される者がいても、人々はそれが正しい裁きだと熱狂してしまうのです。あなたのようにキリスト教徒でありながら真実が見える者は極わずかしかいません。そして少数の真実が見える者は大多数の狂った者によって抹殺されてしまうのです。今のこの世界は間違っています。でも、そのことを暴いてはいけません。私たちに歴史の流れを変える力はないのです」
「わかっている。私とて命は惜しいから余計なことは言わないつもりだ。それにドン・ペドロ大司教から脅されてもいる」
「大司教が一体何を・・・」

 ドン・ペドロ大司教の名前が出て私の体は激しい痙攣を起こした。カルロス先生はあの話をニコラス先生にも言ってしまうのだろうか。震えが止まらない・・・

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

処理中です...