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第2章、悪夢と狂気の中で
41、出生の秘密と密告者
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「それに私はドン・ペドロ大司教に脅されてもいる」
カルロス先生の声が急に低くなった。ドン・ペドロ大司教の名前を聞いて、私の体は痙攣を起こしてガクガク震えた。ベッドの中で叫び出したい気持ちを懸命にこらえた。
「大司教に脅されたとは穏やかではありませんな」
「この修道院には私をよく思わない者もいる。そうした者が大司教に手紙を書いているらしい」
「手紙など書けばはっきりとした証拠が残ってしまう。そのような危険を犯してまで修道院長という地位が欲しいのですか」
「そのようだ。私を貶める噂などいくらでもあるからな。そなたも聞けば気分を害する」
「かまいません。はっきりとおっしゃってください」
しばらくの間沈黙があった。カルロス先生は病室のドアを1度開けて廊下に誰かいないか確認した後で再びドアを閉め鍵をかけた。
「噂の1つは私とそなたが愛人関係にあるということだ」
「なんだ、その噂ですか。私のような者がカルロス院長の愛人と認められているとは光栄です」
「笑い事ではない!同性愛で告発されれば最悪火あぶりになる」
「まさか、この修道院に本気でその噂を信じて告発しようとしている者がいるとは・・・」
「だが、大司教にもしっかり伝わっていた。私を追い出そうとする者はあらゆる手段を使うであろう」
「もし、私の存在がカルロス院長の立場を悪くするのなら、私はここを出ていきます」
「いや、そなたにはずっとここにいて欲しい。ただ、これからは少し用心して人前ではあまりしゃべらないようにした方がよいだろう」
「そうですね。気をつけるようにしましょう」
「もし私がここの修道院長でなくなれば、もうそなたやここの者を守ることはできなくなる」
「あなた以外の人間にここの修道院長は務まりません」
「だが、私は今キリスト教の信仰すら疑問を抱いている」
長い沈黙が続いた。私は自分の胸の鼓動が聞こえてしまうのではないかと心配になってきた。
「異端審問は・・・あれは人間のすることではない。あのような残酷な行為を得意になって話す大司教に深い失望を覚えた」
「おそらく大司教だけでなくキリスト教徒の聖職者、そして街の人間の多くは同じように考えているのでしょう。異端とした者を徹底的に残酷な方法で殺すことで正しい信仰が守れると信じているのです」
「だが、私はそうは思えぬ。この体は殺される者の苦痛を自分の苦痛として教えてくれる」
「キリストもきっとあなたのように・・・いえ、あなたのような人がいるからこそ、この修道院の平和や秩序が守られているのです」
「だが、ドン・ペドロ大司教はそうは思っていない。密告をするような卑劣な者を修道院長にした方が都合がいいと考えているかもしれない」
「大司教のお考えは私にはわかりません。ただ1つ言えることは、あなたがここの修道院長でなくなった時、ここは滅びます」
「なぜそう思うのだ?」
「この修道院は自然と人間、生きている者と死んだ者のバランスが取れています。あなたはご自分では気づいていませんが、この修道院を守る大きな力を与えられているのです。他の者にここの修道院長は務まりません」
また長い沈黙が続いた。
「もう1つ問題になっているのは、フアンのことだ。フアンが私の隠し子であるという噂も大司教に届いていた」
「カルロス院長を追い出すにはちょうど良い噂ですから」
「噂ではない、本当の話だ」
「え・・・・それは・・・・」
「6年前、同じように街へ行った時に異端者の処刑を見てしまった。私は苦痛に耐えきれずに大量に薬を飲んだ後で酒場に行った。意識が朦朧としていてはっきりとは覚えていないが、そこでまた何杯もワインを飲んだ。気が付いた時、宿屋の部屋で1人の女と一緒に寝ていた。彼女は娼婦であった。私は驚いて彼女にたくさんの金を渡してその場を離れた」
「・・・・・」
「数か月後、再び用事で街に行った時、私は胸騒ぎがして同じ酒場に行き彼女に会った。彼女は身ごもっていて、あの夜からずっと体の調子が悪くて仕事ができなかったと言った。私は憐れに思い、修道院に連れ帰ってしばらくは女子修道院で働いてもらうことにした」
「・・・・・」
「それから後のことはそなたもよく知っているはずだ。生まれたばかりのフアンを見て私は確信した。フアンは間違いなく私の血を引いている・・・・・私は修道の誓いを破って女と交わり、子をなしていた」
「カルロス院長、今の話は誰にも言わないでください。私も死ぬまで秘密は守ります」
「神は罪を犯した私をどのように罰するのだろうか?」
「私には神の罰よりも密告者の行動の方が気になります。カルロス院長、フアンのことは他の者には絶対に知られてはなりません。特別扱いをするのはやめて、ミゲルと引き離し孤児院に入れましょう。ミゲルは多額の寄付金をもらっているから特別扱いをしても誰も文句を言いません。でもフアンは違います」
「そなたの言う通りかもしれない・・・・」
「あなたは慈悲深い方です。慈悲深い方だからこそ1晩関係を持っただけのフアンの母親を世話して、今も命日には花を手向けています。でもこのままではあなたの慈悲深さがあなたを破滅させてしまいます」
「・・・・・」
「どうかあなたはもう修道院長の仕事にだけ専念して、フアンのことは孤児院の院長に任せてください。密告者はどこにいるかわかりません。どうか用心してください」
「そうか・・・」
「そしてカルロス院長、今夜はもう寝てください。あなたの体が心配です。ミゲルにもしばらくは会わない方がいいでしょう。会えばまたお互いにあの惨劇を思い出してしまうのですから」
「そなたの忠告に従おう・・・いつもの薬を頼む・・・・」
「かしこまりました」
カルロス先生は部屋を出て行き、ニコラス先生だけが部屋に残った。私はずっと寝ているふりをした。フアンの話に驚いたが、その時の私はそのことを深く考えることはできなかった。夢うつつの中、また深い眠りへと引きずり込まれた。
カルロス先生の声が急に低くなった。ドン・ペドロ大司教の名前を聞いて、私の体は痙攣を起こしてガクガク震えた。ベッドの中で叫び出したい気持ちを懸命にこらえた。
「大司教に脅されたとは穏やかではありませんな」
「この修道院には私をよく思わない者もいる。そうした者が大司教に手紙を書いているらしい」
「手紙など書けばはっきりとした証拠が残ってしまう。そのような危険を犯してまで修道院長という地位が欲しいのですか」
「そのようだ。私を貶める噂などいくらでもあるからな。そなたも聞けば気分を害する」
「かまいません。はっきりとおっしゃってください」
しばらくの間沈黙があった。カルロス先生は病室のドアを1度開けて廊下に誰かいないか確認した後で再びドアを閉め鍵をかけた。
「噂の1つは私とそなたが愛人関係にあるということだ」
「なんだ、その噂ですか。私のような者がカルロス院長の愛人と認められているとは光栄です」
「笑い事ではない!同性愛で告発されれば最悪火あぶりになる」
「まさか、この修道院に本気でその噂を信じて告発しようとしている者がいるとは・・・」
「だが、大司教にもしっかり伝わっていた。私を追い出そうとする者はあらゆる手段を使うであろう」
「もし、私の存在がカルロス院長の立場を悪くするのなら、私はここを出ていきます」
「いや、そなたにはずっとここにいて欲しい。ただ、これからは少し用心して人前ではあまりしゃべらないようにした方がよいだろう」
「そうですね。気をつけるようにしましょう」
「もし私がここの修道院長でなくなれば、もうそなたやここの者を守ることはできなくなる」
「あなた以外の人間にここの修道院長は務まりません」
「だが、私は今キリスト教の信仰すら疑問を抱いている」
長い沈黙が続いた。私は自分の胸の鼓動が聞こえてしまうのではないかと心配になってきた。
「異端審問は・・・あれは人間のすることではない。あのような残酷な行為を得意になって話す大司教に深い失望を覚えた」
「おそらく大司教だけでなくキリスト教徒の聖職者、そして街の人間の多くは同じように考えているのでしょう。異端とした者を徹底的に残酷な方法で殺すことで正しい信仰が守れると信じているのです」
「だが、私はそうは思えぬ。この体は殺される者の苦痛を自分の苦痛として教えてくれる」
「キリストもきっとあなたのように・・・いえ、あなたのような人がいるからこそ、この修道院の平和や秩序が守られているのです」
「だが、ドン・ペドロ大司教はそうは思っていない。密告をするような卑劣な者を修道院長にした方が都合がいいと考えているかもしれない」
「大司教のお考えは私にはわかりません。ただ1つ言えることは、あなたがここの修道院長でなくなった時、ここは滅びます」
「なぜそう思うのだ?」
「この修道院は自然と人間、生きている者と死んだ者のバランスが取れています。あなたはご自分では気づいていませんが、この修道院を守る大きな力を与えられているのです。他の者にここの修道院長は務まりません」
また長い沈黙が続いた。
「もう1つ問題になっているのは、フアンのことだ。フアンが私の隠し子であるという噂も大司教に届いていた」
「カルロス院長を追い出すにはちょうど良い噂ですから」
「噂ではない、本当の話だ」
「え・・・・それは・・・・」
「6年前、同じように街へ行った時に異端者の処刑を見てしまった。私は苦痛に耐えきれずに大量に薬を飲んだ後で酒場に行った。意識が朦朧としていてはっきりとは覚えていないが、そこでまた何杯もワインを飲んだ。気が付いた時、宿屋の部屋で1人の女と一緒に寝ていた。彼女は娼婦であった。私は驚いて彼女にたくさんの金を渡してその場を離れた」
「・・・・・」
「数か月後、再び用事で街に行った時、私は胸騒ぎがして同じ酒場に行き彼女に会った。彼女は身ごもっていて、あの夜からずっと体の調子が悪くて仕事ができなかったと言った。私は憐れに思い、修道院に連れ帰ってしばらくは女子修道院で働いてもらうことにした」
「・・・・・」
「それから後のことはそなたもよく知っているはずだ。生まれたばかりのフアンを見て私は確信した。フアンは間違いなく私の血を引いている・・・・・私は修道の誓いを破って女と交わり、子をなしていた」
「カルロス院長、今の話は誰にも言わないでください。私も死ぬまで秘密は守ります」
「神は罪を犯した私をどのように罰するのだろうか?」
「私には神の罰よりも密告者の行動の方が気になります。カルロス院長、フアンのことは他の者には絶対に知られてはなりません。特別扱いをするのはやめて、ミゲルと引き離し孤児院に入れましょう。ミゲルは多額の寄付金をもらっているから特別扱いをしても誰も文句を言いません。でもフアンは違います」
「そなたの言う通りかもしれない・・・・」
「あなたは慈悲深い方です。慈悲深い方だからこそ1晩関係を持っただけのフアンの母親を世話して、今も命日には花を手向けています。でもこのままではあなたの慈悲深さがあなたを破滅させてしまいます」
「・・・・・」
「どうかあなたはもう修道院長の仕事にだけ専念して、フアンのことは孤児院の院長に任せてください。密告者はどこにいるかわかりません。どうか用心してください」
「そうか・・・」
「そしてカルロス院長、今夜はもう寝てください。あなたの体が心配です。ミゲルにもしばらくは会わない方がいいでしょう。会えばまたお互いにあの惨劇を思い出してしまうのですから」
「そなたの忠告に従おう・・・いつもの薬を頼む・・・・」
「かしこまりました」
カルロス先生は部屋を出て行き、ニコラス先生だけが部屋に残った。私はずっと寝ているふりをした。フアンの話に驚いたが、その時の私はそのことを深く考えることはできなかった。夢うつつの中、また深い眠りへと引きずり込まれた。
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