ミゲルの物語、前世療法で見た数奇な人生~キリスト教の歴史の闇と光~

レイナ・ペトロニーラ

文字の大きさ
43 / 49
第2章、悪夢と狂気の中で

43、聞いてはいけない話

しおりを挟む
「フアンは予言の力を持っていました。僕たちは小さな子供の言うことだからと聞き流していましたが、後から考えるとフアンの言うことは全部正しかった。フアンは僕の家族が殺されることも予言していました」
「なんだって!君の家族が・・・」

 ニコラス先生の声と表情が凍った。そしてゆっくりと私に近付き、ベッドの上で体を起こしていた私を抱きしめた。

「かわいそうに、ミゲル・・・君は酷い体験を・・・」
「・・・・・」
「10歳の君がそのような体験をしてしまえば、混乱してどうしたらいいかわからなくなるのも無理はない。どうしたら自分の身を守れるかもわからないような幼い子供がそのような体験をしてしまうとは・・・」

 ニコラス先生は私の体を離し、ベッドのそばにある椅子に座った。

「ミゲル。何があったか私に話してくれないか。一緒にどうしたらよいか考えよう。途中で辛くなったら中断してもかまわない」
「はい・・・・・」

 私は途切れ途切れに話を始めた。







「僕は聞いてはいけない話を聞いてしまって・・・カルロス先生とドン・ペドロ大司教・・・さま・・・が話をしていて・・・火あぶりになったのは僕の実の家族だと・・・」
「カルロス院長は直接聞いたのか・・・」
「僕の家族は・・・教会に火をつけた悪魔だって・・・それで・・・裁判の時、女の人が僕の名前を呼んでいた。ミゲル、ミゲルって・・・」
「・・・・・」
「名前を呼ばれて、僕はそばに行きそうになった。でもカルロス先生が僕の体を強く押さえていた・・・・・もし僕があの時出て行ったら、僕も一緒に火あぶりにするつもりだったと・・・」
「何も知らない幼い子供を家族と一緒に焼き殺すとは・・・悪魔になったのは君の家族じゃない。キリスト教徒は悪魔になっている!」
「カルロス先生はテーブルを激しく叩き、呻き声を上げていた。これは人間のすることではないと・・・」
「私もその場にいたら同じことを言ったであろう」

 しばらくの間何も言えなくなっていた。








「ミゲル、1つだけ確かなことがある。カルロス院長は必死で君を守り、君の家族の無残な死に激しい怒りを示した。大司教という絶対的な権力を持つ者の前で自分の感情を表す者は多くはいない。ほとんどのキリスト教徒は異端者の裁判や処刑を当たり前のことのように見て何も感じない。だが、カルロス院長は違う」
「・・・・・」
「カルロス院長がどれほど君を愛し、大切に思っているかわかるであろう。ミゲル、君だけではない。あの方はこの修道院に住むすべての者を愛し守ろうとしている。あの方は私がユダヤ人であることを知っていながらここの病院で働かせてくれている。あの方だけは何があっても君の味方だ」
「でも、ドン・ペドロ大司教・・・さま・・・は僕の家族が殺されたことは、僕は絶対に知ってはいけない秘密だと言っていた。僕が秘密を知ったならば僕を殺すって・・・」
「そういうことか。これで全て理解できた。カルロス院長は激しい怒りを見せながら、用心してすべてを話さないようにしていた。私や君がその秘密を知ったら君が殺されると脅されていたからだ」
「殺された僕の兄は・・・・・僕とよく似ていました・・・・・大司教・・・さま・・・・は、ごうもんをしなかったのは顔がよく似ているのが、家族という証拠になるからと。僕の父さんは顔を焼かれていて、怖ろしい顔になっていて、母さんはきれいな人で、僕の名前を呼び続け、兄さんは僕の方をじっと見て、犯人は他にいると言っていた。そしてみんな柱に縛り付けられ、怖ろしい叫び声が聞こえて、炎の中で・・・・・」

 話しながら私は泣きじゃくっていた。ニコラス先生が背中をさすってくれた。








「ミゲル、私は医者である。今までに数えきれないほどたくさんの患者を診てきた。疫病に罹って苦しむ者、戦争で大怪我をした者、酷い体験をして気が狂ってしまった者も診た。医者は患者の苦しみに寄り添い、その苦痛を取り除かなければならない。だが、同時にどんなに悲惨な状態の患者を診ても、自分は常に冷静さを保たなければならない。患者に苦痛を与えるような治療を施さなければならない時もあるからだ。ミゲル、君を私の患者として診るならば、君は過酷な体験で心を酷く傷つけられている。だが、同時に君は命も狙われている。戦場で大怪我をして動けない者がいるが、周りを敵に囲まれている。そのような場合、医者はまず怪我の手当てをするか?」
「いいえ、しません」
「その通り、まず考えなければいけないのは安全な場所に運び出すことだ。君は自分の命を守るために何をしなければいけないかわかるか?」
「聞いた話を聞かなかったことにする・・・」
「そう、カルロス院長や他の者の前では君の家族が殺されたことは知らなかったふりをするのだ。酷い裁判や処刑の様子を目の前で見てしまったのだ。関係のない人間でもショックを受けるのはよくあることだ。だから君はショックを受けたということにしてしばらく休み、元気を取り戻したら今まで通り勉強を続けるのだ」
「今まで通りですか?僕はもう2度と今まで通りには・・・」
「それもふりでよい。今の君はまだ10歳、1人では生きられない年齢だ。この修道院で勉強に励めば、カルロス院長がきっと君の将来について考えてくれる。きちんと学べばどこへ行っても生きていけるようになる。しばらくは君とカルロス院長はお互い会うのがつらいであろうから、私がしばらくは君の勉強を見ることにしよう」
「は、はい」
「君の家族が殺されたことは悪夢だったと考えるのだ。今の君の年齢ではそのことを現実の出来事として受け入れるのは難しい。だが、勉強を進めていくなかで、少しずつ今の世界で何が起きているか知ることができ、現実として受け入れられる時がくる。そこまで成長すれば、君はもう1人でも生きていけるだろう」
「は、はい・・・」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

処理中です...