ミゲルの物語、前世療法で見た数奇な人生~キリスト教の歴史の闇と光~

レイナ・ペトロニーラ

文字の大きさ
44 / 49
第2章、悪夢と狂気の中で

44、危険な子供

しおりを挟む
「ニコラス医師よ、ちょっと来てくれないか?」

 夜、私がウトウトしている時にカルロス先生の声が聞こえた。ニコラス先生は私の方を見て寝ているのを確認してから部屋の外に出た。

「どうしたんですか?」
「フアンは気を失っている。処置室まで連れて行って手当てをしてくれ・・・」
「これは・・・」
「わけは後で説明する。手当てをした後はミゲルとは別の部屋に入れて世話は他の者に任せてくれ。私は孤児院の院長アタガルトを呼んでくる。重大な話がある」
「こんな夜遅くですか?」
「他の者には聞かれたくない話だ。フアンの手当てが終わったら病院の応接室まで来て欲しい」
「わかりました」

 私はベッドの上に起き上がって話を聞いた。フアンは気を失っているとカルロス先生は言った。一体何があったのだろうか?ニコラス先生はフアンの状態を見て驚いていた。そして2人だけでなく孤児院の院長先生まで呼んで来て何を話すのだろうか?








「この応接室での話し声は他の部屋には聞こえないな」
「はい、ミゲルのいる特別室が近くにありますが、彼は薬を飲んで寝ています」
「ミゲルは相変わらずか・・・」
「大分落ち着いてきました。食欲も出てきて昼間は本など読んで過ごしていますが、夜は夢を見てうなされないように薬を飲ませてます」
「ミゲルはどうしたのですか?」
「街で異端者の裁判と処刑を目の前で見てしまった。ミゲルとあまり年の違わない子も一緒に殺されていた」
「それでしばらくフアンは孤児院で預かっていたのですね」

 孤児院の院長のアタガルト先生の声が聞こえた。

「ここだけの話だが、私は街のドン・ペドロ大司教に脅されている」
「大司教に脅されているとは穏やかでないですな」
「ドン・ペドロ大司教にミゲルの家族に会わせるという手紙をもらった。だが、街へ行った時ちょうど異端者の裁判と処刑が行われた。家族に会わせるというのは嘘で、私とミゲルは脅しのために呼び出されたらしい。処刑されたのはユダヤ人の家族で、ミゲルとあまり年の違わない子まで殺されるとは・・・」
「なぜドン・ペドロ大司教はカルロス院長だけでなくミゲルまで一緒に呼び出したのでしょうか?」

 アタガルト先生の声がよく聞こえ、ニコラス先生はほとんど話をしていない。

「ミゲルにも処刑の様子を見せた方がより効果があると考えたのだろう。この修道院の中には密告者がいて、ここでの出来事を詳しくドン・ペドロ大司教に送っているらしい」
「酷い話ですね。子供の目の前で異端者の処刑を行って脅すとは・・・」
「だが、私の立場では逆らうことはできない。ここの修道院も街から離れているとはいえ、街の大司教の支配下にある。何か問題があれば私などすぐに追い出されて別の者が修道院長になる」
「この修道院にカルロス院長を追い出そうとする者がいるなんて信じられません!」
「でも実際に修道院の中の様子を知らせる手紙がドン・ペドロ大司教のところに届いている。用心しなければならない」
「そうですね。密告者がいる以上、うかつなことはできませんね」

 しばらく沈黙が続いた。









「フアンは今までミゲルと一緒に修道士の宿舎で暮らしていたが、これからは孤児院で生活させる」
「よろしいのですか?フアンは確かカルロス院長の恩人の子であると・・・」
「ミゲルのように多額の寄付金がある子なら特別扱いをして大切に育てる。だがそうでない子まで特別扱いをしていたら私の隠し子だと疑われる」
「それは心無い者の嫌がらせですよ」
「そうしたことが修道院内にいる裏切り者にチャンスを与えてしまう。フアンももう5歳になった。これからは特別扱いはしない」
「は、はい」
「それにフアンは危険な子でもある。そなたたちも聞いているであろう。フアンが時々おかしなことを言うことを・・・」
「ええ、それはまあ小さな子供の言うことですから」
「小さな子供の言うことだからと見逃すわけにはいかないことをしゃべっている。今までフアンがしゃべっていたことをよく思い出してくれ。フアンの言葉はキリスト教を根底から覆すことを言っている」
「まさか、あの子が・・・確かにおかしなことを言っていますが・・・」
「これ以上フアンをしゃべらせるのは危険だ。異端審問は小さな子供でも容赦しない。見つかったら火あぶりにされる!」

 カルロス先生が大声で叫んだ。

「カルロス院長、どうしたのですか?いつものあなたらしくないですよ」
「あれからずっと眠れてないのですか?必要なら薬を出しますよ」

 ずっと黙っていたニコラス先生がやっとしゃべった。

「いや、寝ているわけにはいかない。私はここの修道院長として全ての者を守らなければならない。アルバロとフェリペはここを出て行ったが、ミゲル、フアン、そして他の孤児院の子供たち、ここで暮らす修道士や修道女、施設で働く者や村人、すべての者を守らなければいけない。卑劣な密告者や裏切り者に負けるわけにはいかないのだ」
「カルロス院長、確かにそうです。でもフアンに何があったのですか?5歳の子供が傷だらけになって・・・」
「私が鞭で打った。懺悔室に連れて行き、何度も鞭で打った。もう2度と余計なことは言わないように・・・」
「カルロス院長!」

アタガルト先生とニコラス先生の声が同時に聞こえた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

処理中です...