バックドロップ・ガーターベルト・マーダーマーダー

ゆらゆら保逝園児

文字の大きさ
1 / 2

B.G.M

しおりを挟む
何の変哲もないホテルのドアが開かれ、何かが飛んできた。

元人間の生首だ。切断された首の根本には赤い肉が覗き、その顔は苦悶に満ちたデスマスクだった。

サッカーボールになった殺人鬼はそのまま転がっていき、壁に当たってようやく止まった。

「今、俺が舞い戻った。お前ら準備できてるか?」

天使の羽を思わせる純白の白髪に、死神に仕立ててもらったかのようなスーツを着崩したその男は、荒んだ声音で私たちに言った。集合時間はとっくに過ぎている。3時間の遅刻だ。

「ケロイドを待ってたんだ。人を待たせた癖に、ずいぶん偉そうだな」

私は白髪の男、ケロイドが人を待たせることに何の罪悪感も持たない人間であることはわかっていたので、たいして語気を強めずに返した。私はこいつよりも大人だからな。

「ハイド、ケロイドは帰ってくるのが遅いなんていつものことなんだし、怒らないであげようよ」

こっちの紫の覆面で口元以外を覆ったガタイのいいスーツの男はカラス。見かけはいいが、体格に中身が伴っていないタイプのマッチョで、こうして私とケロイドの乳繰り合いにも反応するかわいいやつだ。

「カラスが言うなら仕方ないな、この辺りでやめておいてやろう。お前、カラスに感謝しろ。あと少しで撃つところだったんだからな」

顔を見て、言った。ケロイドの眼からは、私たち共同体ユニット「B.G.M」の人間であっても、内面から滲み出る殺意が向けられる。よく見ないでも、明らかにヤバいやつだ。しかし、ケロイドが私たちを殺すことはない。私たちは微妙な均衡の上に成り立っている、ライフワーキングの同僚だからだ。ケロイドにも、カラスにも、私にも、共同体の他の2人が居なければ、趣味、あるいは仕事、あるいは存在、私たちのメンタルモデルの奥深くに染み付いている愛すべき目標は、達成し得ない。

「ハ、ちびっ子が。遊んで欲しいなら最初からそう言え。素直じゃねえお姫さまだな」

ケロイドはソファでだらけていた私の両脇に手を入れ、持ち上げた。ゴスの黒ドレスと腰まで伸びた黒髪が、その拍子に揺れる。

「へ?」

「相変わらず重いなぁ?ダイエットとかしねえのか?」

「身長のことをバカにした上に体重まで笑うのか!ふざけるな!私は中身はお前の汚い内臓と違って精緻で繊細で完璧な精密機械が詰まってるんだ!お前ら人間と一緒にするな!」

私は人間ではない。人間の脳と筋肉と骨に当たる部位は、VK-1006系の旧式思考モジュールと人工筋肉と鉄骨で構成されているロボットだ。

誰が何のために私を作ったのかはわからない。だが、わからないことだらけだが、1つだけわかることがある。私を作ったやつはペドフィリアだってことだ。

「2人とも、やめておきなよ。みんな揃ったんだし、そろそろ行こう」

カラスがおもむろに立ち上がった。優しい男だが、仲間が争っているのを見るのは、それがじゃれ合いだとしても、許せない人間だった。私たちのじゃれ合いが限度を超えると、プロレスラーとして闘っている時と同じ雰囲気が出る。要するに、怒らせるとめんどくさい。

カラスが怒気を放ち始めたので、じたばた暴れる私は地面に降ろされた。

「怒るなよ、こんなのはスキンシップの一環に過ぎない。マジでやってる訳がないだろ、なぁ?」

ケロイドもめんどうなのは嫌いなようで、カラスがこうなる度に都度、遊びでやっていると弁明している。

「ふん」

私はそっぽを向いた。でも、ケロイドのことは嫌いではなかった。

「ウインクが、下で僕たちをずっと待ってる。早く行かないと、またキレられるよ。主に僕が」

ウインクというのは、情報屋兼私たちの運転手。艶のある漆黒のカルマンギアという極上の車でお出迎えしてくれ、その上、暇な時にはドライブに連れていってくれる。私はウインクが運転してくれるドライブが好きだ。ケロイドの運転は乱暴すぎるし、カラスはとろとろ走りすぎる。私はそもそも身体の大きさで運転が出来ない。よって、まともなアシとして使えるのは、共同体の中でウインクしかいない。

「今日はどこだっけ?忘れちまった」

「カミイケドイ地区のバカスマイル会館だ」

ケロイドはあくびをした。

「あー。そうだった」

「急ごう。ケロイドが遅れたせいで、やつら増えてるかもしれない」

私たちはそれぞれのエモノを携えて、部屋を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

シリアス
恋愛
冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...