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エンゼルデッド

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星が1つもない夜だった。透き通るような風が身体を包み、ほの暗い風景が私を満たす。空にはただ、丸く肥え太った月が輝いているのみだ。

「手遅れだな」

私はエモノを地面に立てて、誰に言うでもなく言葉を発した。木製ストックの古い対戦車銃で、私と身長を比べると頭3つ分くらいは長い。杖と言っても信じられるだろう。もっとも約16kgはあるので、人間が杖として使うにはあまりに重すぎるが。

多目的複合施設バカスマイル会館からは、外にまで死の匂いが漂っていた。他人の存在を認めず、醜く破裂した殺意で絶殺する、狂った愛の匂い。しかしそれは、どれだけイッても月になろうとするレプリカの匂いには違いなかった。

ロックスター(魂の先導者)には一生なれない、軸が狂れた気狂い共。

今、降ろす。

キルゾーンに入った懴骸に狙いを定めて、まずは挨拶。何事にも挨拶は大事だ。挨拶が出来る奴は大体何でも出来る。これはウインクの言葉だ。

「お前らを駆除しにきたB.G.Mだ、よろしく。今日は私たちの名前だけ覚えて死んでくれ」

銃声というにはあまりにデカすぎる爆音が、聴覚モジュールを真っ白に塗りつぶす。

瞬間、13×92mmの徹甲榴弾が懴骸の胴体を吹き飛ばし、大輪の血と爆炎の花を咲かせた。ゴアティカルデッドだ。

私は障壁を展開しながらボルトを引いてリロード、2人は後方から援護する形で巣の中心に向かう。

私は戦車だ。味方よりもはるか最前列を行進し、その強固なる鎧で敵の攻撃を弾き返し、必要以上の超暴力で確実に殺害する、止まらないデスパレードの主。

「弱い!そんなんで俺たちを殺ろうってのか?!」

ケロイドが叫んだ。銃声に惹かれて次々と殺人鬼が寄ってくる。多くは自動小銃で武装しているが、ケロイドが言うように、控えめに言っても雑魚だ。相手にならない。銃弾は障壁で弾けるし、流れ弾も2人は避けられる。万が一当たったとしても、ジャパニーズキアイで損傷を修復出来るぐらいには鍛えられている。

順調に殺し続けていると、炎と肉で赤く紅く染まりきった通路の向こうから、桁外れた殺意が私を刺す。

「愛を以て殺す」

絶望を感じ取らせる声音で名乗りをあげた後、日本刀を構えたマーダーが人間離れしたスピードで私との距離を詰めた。
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