1 / 7
その首輪は誰のもの?
01、消える旅人の噂
しおりを挟む
「静かだな」
近頃、子どもたちの笑い声を聞かなくなった、と市場が開かれる通りを巡回しながらスヴェンは思う。
朝市が開かれる時間ともなれば、仕事で忙しい親の代わりに、子どもたちがこの通りを目指して街のあちらこちらからやってくる時間帯だ。
いつもならば、あちらこちらで市場の活気に負けないくらい元気な声をあげながらおつかいや手伝いに奔走している時間だというのに、いまはその姿すらあまり見られなくなっている。
わずかにいる子どもたちも、親の隣で息を潜めるようにおとなしくしている姿が見えるだけだ。
元気盛りの少年ですら、いまはどこか怯えているような雰囲気をまとっており、違和感としか言いようがない。
市場自体はいつものように活気に満ちあふれているが、あの少しやかましいくらいの甲高い声がないだけで、どこかうら寂しく聞こえてしまう。
「一応、にぎやかではあるけど、それだけって感じだよね。最近は、何かとぶっそーだし、連れてこれないんじゃないかなー?」
思わず眉間にしわを寄せたスヴェンに、隣を歩くハビエルが軽い調子で声をかける。
「ああ、旅人が消えるって例のあれか」
元気な子どもたちの声が聞けなくなったのと同時期くらいに、ルペースの街ではおかしな噂が流れはじめた。
いつの間にか旅人が消える、というやつだ。
商業都市ルペースは、港湾都市スピキスから王都に向かう大きな街道と鉱山都市アルコルから技工都市マパチェに向かう鉱技街道とが交わるところにある。
その名の通り商業活動が盛んで、毎日多くの商人や旅人が訪れる街だ。
王国の中でも五本の指に入る繁栄ぶりを見せる街は、大きな街壁に囲まれているだけでなく、街壁の外側にすぐ近くの川から引き込んだ水で満たされている深い堀も備えており、魔獣と呼ばれる世界の敵から盗賊などの犯罪者まで、大小様々な脅威から王国民の暮らしを守るための構造をしている。
街壁には、四方の街道に向かうための街門があり、そこには騎士団の詰所がおかれていた。
街から出るには、街壁にある四つの街門のいずれかを通らなくてはならない。
だが、消えたと言われている旅人が、街門から出たという記録は残っていなかった。
つまり、旅人は何処の門も通らずに消えたのだという。
何とも不気味な話ではあるが、所詮は噂でしかない。
それがどこの誰なのか、どうやって消えたのかなど、詳しい話を知るものはなく、そもそも消えたといわれる旅人のことをどうやって知り得たのかすら怪しい、眉唾ものの話なのだ。
スヴェンは、王国騎士団に所属する騎士のひとりだ。
十五歳の時に、厳しい選抜試験をくぐり抜けて従士となり、いくつかの昇格を経て正騎士となった。
スヴェンは、正騎士になると同時にルペースへと配属され、そこから護街騎士としての人生を順調に歩んでいる。
役職などという大層な身分はないものの、人々の暮らしに寄り添う護街騎士として、ルペースの街に溶け込んでいた。
一般的に騎士となるものたちの多くが目指す先は、王国で最も貴い存在である王族を護衛する近衛騎士となることだが、スヴェンは街を護る護街騎士という役目に就けてよかったと思っている。
スヴェンの性質が、王族の護衛などという堅苦しい任務に不向きなこともあるが、何よりこうして街を見回すだけで、人の営みを護っているという実感が湧くのがいい。
街行く人々が、笑顔を浮かべているだけでそう思えるのだから、スヴェンはとても幸せだ。
近頃、子どもたちの笑い声を聞かなくなった、と市場が開かれる通りを巡回しながらスヴェンは思う。
朝市が開かれる時間ともなれば、仕事で忙しい親の代わりに、子どもたちがこの通りを目指して街のあちらこちらからやってくる時間帯だ。
いつもならば、あちらこちらで市場の活気に負けないくらい元気な声をあげながらおつかいや手伝いに奔走している時間だというのに、いまはその姿すらあまり見られなくなっている。
わずかにいる子どもたちも、親の隣で息を潜めるようにおとなしくしている姿が見えるだけだ。
元気盛りの少年ですら、いまはどこか怯えているような雰囲気をまとっており、違和感としか言いようがない。
市場自体はいつものように活気に満ちあふれているが、あの少しやかましいくらいの甲高い声がないだけで、どこかうら寂しく聞こえてしまう。
「一応、にぎやかではあるけど、それだけって感じだよね。最近は、何かとぶっそーだし、連れてこれないんじゃないかなー?」
思わず眉間にしわを寄せたスヴェンに、隣を歩くハビエルが軽い調子で声をかける。
「ああ、旅人が消えるって例のあれか」
元気な子どもたちの声が聞けなくなったのと同時期くらいに、ルペースの街ではおかしな噂が流れはじめた。
いつの間にか旅人が消える、というやつだ。
商業都市ルペースは、港湾都市スピキスから王都に向かう大きな街道と鉱山都市アルコルから技工都市マパチェに向かう鉱技街道とが交わるところにある。
その名の通り商業活動が盛んで、毎日多くの商人や旅人が訪れる街だ。
王国の中でも五本の指に入る繁栄ぶりを見せる街は、大きな街壁に囲まれているだけでなく、街壁の外側にすぐ近くの川から引き込んだ水で満たされている深い堀も備えており、魔獣と呼ばれる世界の敵から盗賊などの犯罪者まで、大小様々な脅威から王国民の暮らしを守るための構造をしている。
街壁には、四方の街道に向かうための街門があり、そこには騎士団の詰所がおかれていた。
街から出るには、街壁にある四つの街門のいずれかを通らなくてはならない。
だが、消えたと言われている旅人が、街門から出たという記録は残っていなかった。
つまり、旅人は何処の門も通らずに消えたのだという。
何とも不気味な話ではあるが、所詮は噂でしかない。
それがどこの誰なのか、どうやって消えたのかなど、詳しい話を知るものはなく、そもそも消えたといわれる旅人のことをどうやって知り得たのかすら怪しい、眉唾ものの話なのだ。
スヴェンは、王国騎士団に所属する騎士のひとりだ。
十五歳の時に、厳しい選抜試験をくぐり抜けて従士となり、いくつかの昇格を経て正騎士となった。
スヴェンは、正騎士になると同時にルペースへと配属され、そこから護街騎士としての人生を順調に歩んでいる。
役職などという大層な身分はないものの、人々の暮らしに寄り添う護街騎士として、ルペースの街に溶け込んでいた。
一般的に騎士となるものたちの多くが目指す先は、王国で最も貴い存在である王族を護衛する近衛騎士となることだが、スヴェンは街を護る護街騎士という役目に就けてよかったと思っている。
スヴェンの性質が、王族の護衛などという堅苦しい任務に不向きなこともあるが、何よりこうして街を見回すだけで、人の営みを護っているという実感が湧くのがいい。
街行く人々が、笑顔を浮かべているだけでそう思えるのだから、スヴェンはとても幸せだ。
21
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる