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番外・マルスケスの街
番外・マルスケスの街 1
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「私はお前を、自分の子だと思ったことも、愛したこともない」
あたたかな炎が揺れる暖炉を背に、その人がどんな顔でそう言っていたのか。
闇に塗りつぶされたその顔を、僕はまるで覚えていない。
何もかもを失ったばかりの僕は、どこまでも愚かだったのだ。
光も、炎も、その熱さえも。
すべてを遮られたその人の影の中で、冷たい床に這いつくばったまま、ただ救われるのを待っていた。
決して差しのべられることのない手を、愚かにも待っていたのだ。
一度も、差しのべられたことすらない、その手を。
いつしかその人がいなくなり、冷たい影から解放されても、僕はずっと待ち続けていた。
もしかしたら、戻ってきてくれるのではないか。
やはり、お前は私の子だ、と受け入れてくれるのではないか。
そんなありもしない希望を、その時の僕にはどうしても捨てることが出来なかった。
そして、影に囚われた記憶は消えることなく、僕の中に刻み込まれた。
いつまでも忘れられない、捨てられた記憶の象徴として。
夢を見ると、いつもその場面ばかりを繰り返した。
自分の夢だというのに、いつも結末は変わらない。
夢の中でくらい、救われてもいいと思うのに融通がきかない。
もう救われたいとすら、思わなくなったからなのだろうか。
あれから何年も経つが、いまだにその夢に見る。
けれど、もう僕はその人がどんな顔をしていたかなど、知りたいとは思わなくなっていた。
◆◆◆
「んっ……いいぜ、そのまま……そう、まっすぐ、だ」
ぬめる切っ先は、なかなか的を捉えられず、まっすぐと言われるままを信じて、ジョシュアは足を踏み入れる。
指示を出してくれる先生は、これが初めてのジョシュアとは比べ物にならないくらい経験を積んでいると言っていた。
今年、十六になったジョシュアより五つ歳上という話なので、二十一歳。
本業は冒険者だという先生は、酒場で初めて出会ったジョシュアにも、とても優しかった。
「そう、そこに、そのまま……ンッ、あっ」
しかし、狙いを定めて進めたはずの雄槍は、獲物を捉えることなくつるりと上へ逸れてしまった。
的を外れた雄槍は、憐れにもすぐ上にあった双珠を突き上げただけに終わる。
「なんで……っ」
もう、今すぐにでも爆発してしまいそうな雄槍を握り締め、悔しげに呟いたジョシュアの頬を下からのびてきた手が優しく撫でる。
ジョシュアは嬉しくなって、その手に頬をすり寄せた。
こんな風に甘やかしてくれる手を、ジョシュアは知らない。
「……んっ、今の……おしかったな? あと、ちょっとだったぞ」
頬を撫でた手は、そのままジョシュアの唇をなぞり、舌先に優しく触れた。
その手の持ち主は、変わらぬ笑みでジョシュアを見ている。
ジョシュアは、誘われるまま舌を差し出した。
先生の指先は、出てきたジョシュアの舌を優しく摘まむ。
「今、なんでダメだったのか、わかるか?」
「わひゃりまへん」
舌先を摘ままれたままのジョシュアは、少し目を伏せて答えた。
上手く出来ないジョシュアは、きっと先生にとってあまり良い生徒ではないだろう。
このまま叱られて、終わってしまうのだろうと、諦めの気持ちを抱く。
「ジョーシュ、俺が言ったこと、覚えてるか?」
答えられないジョシュアの舌にそって、先生の指が奥へと入ってきた。
揃えられた二本の指が、ジョシュアの舌を優しく撫でる。
ジョシュアは、ゆっくりと口を閉じ、優しい指を逃がさぬように舌を絡めた。
「ぅ、ふ……んっ、ずいぶん上手くなったじゃないか」
ねっとりと舐めしゃぶる舌を撫でながら褒められると、ジョシュアは嬉しくなった。
ちゅうっとやわらかく吸いつき、薄くひろげた舌で包み込んでじっくり味わう。
指の間や爪との境目など、ちろちろと舐めてみたりもした。
教わったことだけでなく、ジョシュアが気持ちいいと感じたことも試してみた。
「んっ、おいおい、まさか俺を指だけでイかせるつもりか? 初心者のクセに、生意気なやつだなぁ」
からかうように笑う先生の声は、どこまでもやわらかい。
くふっと甘える犬のように鳴き、ジョシュアは褒められた指しゃぶりに精を出す。
悦んでくれている、そう思ったら、止められなかった。
「夢中になって……そんなにうまいのか?」
「ンッ、おいひぃ、れす……あ、んむっ、ん……っ」
「……可愛いこと、言うじゃねーか。ジョシュ、もうちょっと、こっちに来いよ」
ジョシュアは、また言われるままに足を踏み出した。
素直でいいぞと先生がまた笑った。
あたたかな炎が揺れる暖炉を背に、その人がどんな顔でそう言っていたのか。
闇に塗りつぶされたその顔を、僕はまるで覚えていない。
何もかもを失ったばかりの僕は、どこまでも愚かだったのだ。
光も、炎も、その熱さえも。
すべてを遮られたその人の影の中で、冷たい床に這いつくばったまま、ただ救われるのを待っていた。
決して差しのべられることのない手を、愚かにも待っていたのだ。
一度も、差しのべられたことすらない、その手を。
いつしかその人がいなくなり、冷たい影から解放されても、僕はずっと待ち続けていた。
もしかしたら、戻ってきてくれるのではないか。
やはり、お前は私の子だ、と受け入れてくれるのではないか。
そんなありもしない希望を、その時の僕にはどうしても捨てることが出来なかった。
そして、影に囚われた記憶は消えることなく、僕の中に刻み込まれた。
いつまでも忘れられない、捨てられた記憶の象徴として。
夢を見ると、いつもその場面ばかりを繰り返した。
自分の夢だというのに、いつも結末は変わらない。
夢の中でくらい、救われてもいいと思うのに融通がきかない。
もう救われたいとすら、思わなくなったからなのだろうか。
あれから何年も経つが、いまだにその夢に見る。
けれど、もう僕はその人がどんな顔をしていたかなど、知りたいとは思わなくなっていた。
◆◆◆
「んっ……いいぜ、そのまま……そう、まっすぐ、だ」
ぬめる切っ先は、なかなか的を捉えられず、まっすぐと言われるままを信じて、ジョシュアは足を踏み入れる。
指示を出してくれる先生は、これが初めてのジョシュアとは比べ物にならないくらい経験を積んでいると言っていた。
今年、十六になったジョシュアより五つ歳上という話なので、二十一歳。
本業は冒険者だという先生は、酒場で初めて出会ったジョシュアにも、とても優しかった。
「そう、そこに、そのまま……ンッ、あっ」
しかし、狙いを定めて進めたはずの雄槍は、獲物を捉えることなくつるりと上へ逸れてしまった。
的を外れた雄槍は、憐れにもすぐ上にあった双珠を突き上げただけに終わる。
「なんで……っ」
もう、今すぐにでも爆発してしまいそうな雄槍を握り締め、悔しげに呟いたジョシュアの頬を下からのびてきた手が優しく撫でる。
ジョシュアは嬉しくなって、その手に頬をすり寄せた。
こんな風に甘やかしてくれる手を、ジョシュアは知らない。
「……んっ、今の……おしかったな? あと、ちょっとだったぞ」
頬を撫でた手は、そのままジョシュアの唇をなぞり、舌先に優しく触れた。
その手の持ち主は、変わらぬ笑みでジョシュアを見ている。
ジョシュアは、誘われるまま舌を差し出した。
先生の指先は、出てきたジョシュアの舌を優しく摘まむ。
「今、なんでダメだったのか、わかるか?」
「わひゃりまへん」
舌先を摘ままれたままのジョシュアは、少し目を伏せて答えた。
上手く出来ないジョシュアは、きっと先生にとってあまり良い生徒ではないだろう。
このまま叱られて、終わってしまうのだろうと、諦めの気持ちを抱く。
「ジョーシュ、俺が言ったこと、覚えてるか?」
答えられないジョシュアの舌にそって、先生の指が奥へと入ってきた。
揃えられた二本の指が、ジョシュアの舌を優しく撫でる。
ジョシュアは、ゆっくりと口を閉じ、優しい指を逃がさぬように舌を絡めた。
「ぅ、ふ……んっ、ずいぶん上手くなったじゃないか」
ねっとりと舐めしゃぶる舌を撫でながら褒められると、ジョシュアは嬉しくなった。
ちゅうっとやわらかく吸いつき、薄くひろげた舌で包み込んでじっくり味わう。
指の間や爪との境目など、ちろちろと舐めてみたりもした。
教わったことだけでなく、ジョシュアが気持ちいいと感じたことも試してみた。
「んっ、おいおい、まさか俺を指だけでイかせるつもりか? 初心者のクセに、生意気なやつだなぁ」
からかうように笑う先生の声は、どこまでもやわらかい。
くふっと甘える犬のように鳴き、ジョシュアは褒められた指しゃぶりに精を出す。
悦んでくれている、そう思ったら、止められなかった。
「夢中になって……そんなにうまいのか?」
「ンッ、おいひぃ、れす……あ、んむっ、ん……っ」
「……可愛いこと、言うじゃねーか。ジョシュ、もうちょっと、こっちに来いよ」
ジョシュアは、また言われるままに足を踏み出した。
素直でいいぞと先生がまた笑った。
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