冷血王と死神の騎士

うしお

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「ロサリオール!」

入室すると同時に、ロサリオールに気がついたティリア姫が笑顔で駆け寄ってくる。
純粋な幼子特有の眩さに満ちた可愛らしい笑顔だ。
ロサリオールは、部屋の中に数歩足を踏み入れてから、姫を迎えるために片膝をつく。
同じ長椅子に座り、一緒に絵本を見ていたのだろうカリネイアから向けられる視線は、どこか気遣わしげなものに見え、誰にも言えぬ秘密を抱えてしまったロサリオールの心を波立たせた。

「おかえりなさい、ロサリオール。おべんきょうは、もうおわったの?」

片膝をついて待っていたロサリオールの体を、優しく包むように抱きしめてきた姫の体は、すでに成人しているとは思えないほど華奢なものだ。
母国であるはずのセイハーヌにおいて、最も貴い王族の一員として生まれたはずのティリアが、父親である国王にその存在を黙殺されていたがために、平民であるロサリオールやカリネイアと変わらぬ暮らしをしていたせいだ。
ロサリオールが初めてティリアに出会った頃、ティリアはまだ正式な王族として扱われていなかった。
ティリアを産んだ女性の身分が低く、側妃として扱われていなかったために、あくまでも『使用人の子』としてしか扱われていなかったせいだ。
姫であるならば居て当然の専属侍女はおらず、使用人の中から手の空いているものが様子を見にくる程度で、ほとんど放置されていた。
王城で働く使用人にすら支給されている清潔な衣服はもちろん、健やかに成長するために必要な食事すら満足に与えられていなかったのだ。
せめて、母親が一緒に暮らしていたのなら、もう少しマシな扱いを受けられたのかもしれないが、母親はティリアを産んだあと、王城から追放されていて行方知れずだ。
古参の使用人から聞いた話では、数年間は子育てのために一緒に暮らしていたようだが、ティリアが乳離れをすると同時に追い出されてしまったらしい。
もう十年以上前の出来事であることもあり、多くの使用人が入れ替わったり、死んでしまったりしているせいで、彼女の行方を知るものはいなかった。

「ただいま戻りました。お勉強はまだまだ続くのですが、ティリア様が陛下にお願いしてくださったので、こちらで休憩をいただけることになったのです。陛下は、ティリア様が寂しい思いをされないように、とお考えですよ」

「グランドールおうさまは、おうさまなのにとてもやさしいかたなのね。わたくし、この国にこられてほんとうによかったわ。だって、おとうさまも、おかあさまも、いつもいっしょにいられるのだもの。ね、おかあさま、みんなでおちゃをのみましょう。だって、おべんきょうをがんばるためには、おいしいおやつを食べるのが一ばんだもの」

笑顔で言うティリアに手を引かれ、ロサリオールはゆっくりと立ち上がる。

「ええ、そうですわね。ロサリオールも訓練でお疲れなのでしょう? すぐに用意しますから、ティリア様と一緒に席について待っていてください」

「……ああ、そうさせてもらうよ」

「それから、髪はもう少ししっかり拭いた方がいいわ。まだ湿っているようだから、これを使って」

「あ、ああ、ありがとう。早く戻りたいと焦るあまり、拭くのがおろそかになってしまったようだ」

カリネイアが差し出した小さな浴布を、ロサリオールは素直に受け取る。
髪はしっとりと濡れていた。

「風邪などひかぬように気を付けて。ティリア様に感染ってしまったら大変よ」

「そうだな。これからは、気を付けるよ」
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