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ここが安息地
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夜中、アリはとてつもない恐怖に襲われて飛び起きた。
シーツは汗に濡れ、全身が小刻みに震えている。窓の外は暗く、まるで飲み込まれてしまいそうだ。フルーリ伯爵が「お前は逃げられない」と語りかけてくる夢を見た。歯がカチカチと音を立てている。
ベッドの上に居ることが気持ち悪く感じられて、床へと転がり落ちた。膝を擦りむいたけれど、気に留めず立ち上がる。廊下へと続く扉へと手をかける。緊張しながら取手に力を込めると、扉はあっさりと開いてくれた。
(ここはフルーリ伯爵家じゃないんだよね……)
閉鎖された空間ではないことに安堵する。
音を立てないように廊下を進んでいく。ギルバートに会いたかった。夜中だから眠っているはずだ。それに、ギルバートの部屋もわからない。それでも彼に会えば、この震えも止まる気がする。
「アリ、こんな夜中にどうかしたのか?」
向かい側から歩いてきたギルバートが、アリを見つけて声をかけてくれた。低音の穏やかな声は、アリの心を包み込み安心させてくれる。
「眠れなかった?」
頷くと、目の前まで来てくれたギルバート。それから、アリの目元に指先で触れてきた。指が目元から頬へと流れる。冷えきった肌に感じる体温が心地いい。
「震えているな。なにかあったか?」
首を横に振る。怖い夢を見たなど、子供っぽくて伝えられない。けれど、それではギルバートが離れていくかもしれないとも思う。
アリはギルバートの腕にしがみつくと、頬を付けて目を伏せた。自身の行動が恥ずかしい。けれど、離したくはない。
「フッ、甘えたいのか。可愛いな」
ギルバートの大きな手が、アリの頭にそっと触れる。それから、反応を伺いつつ髪をクシャクシャと撫でてくれた。
鼓動が早くなる。胸が高鳴り、思わず口角が微かに上がる。
ギルバートにもっと触れてほしい。ギルバートから香ってくるフェロモンが、アリの心から恐怖心を取り去ってくれた。オメガであるアリにとって、アルファであるギルバートは一種の守護者だ。
アリは初めて、こんなにも誰かの傍に居たいと強く思った。
「ぁ……っ……」
ありがとう、と言葉にしたい。自身の気持ちをギルバートに話したい。雛鳥のように口を開閉させてみる。けれど、空気の漏れたような音だけが、虚しく空を舞う。
「無理しなくていい。ちゃんと伝わってる」
そう言って、ギルバートがアリを横向きに抱きかかえてくれる。出会った日も、こうやって抱き上げてくれた。
鼓動が早くなり、顔が熱くなる。
ギルバートに出会えたことは、アリにとってなによりも喜ぶべきことだ。
首元に腕を回して、胸に顔を埋める。トクトクと耳に届く心音に、眠気を誘われてしまう。
今のアリにとって、ギルバートの腕の中だけが安息地だ。そんなことを伝えたら、ギルバートは面倒だと思うのだろうか?
──きっと困らせてしまう。
もしもあの日、アリではない他の被害者をギルバートが見つけていたなら……。彼は迷わず同じように助けるのだろう。
それがアリの知っているギルバートだから。
けれど、もっと深くまで知りたいと思ってしまう。言葉で感じ合い、思いを共有したいと願ってしまう。それは我儘だろうか?
「アリ、俺は君を助けることができて良かったと思ってる。俺が傍にいるから安心して眠るといい」
慈しむような声音が、アリの心に風を送ってくれる。だから、沈んでいた気持ちが、ふわふわの綿毛のように舞い上がる。巻きつけた腕に力を込めると、ギルバートが微かに笑みを零したのが聞こえてきた。
「安心するまで一緒に居る」
頷くと、またギルバートがクスリと笑みを零す。
歩みを進めるたびに、ふわりふわりとギルバートから香りが漂い、アリを包み込む。
穏やかな心地だった。今なら怖い夢は見ない。そう確信できる。
シーツは汗に濡れ、全身が小刻みに震えている。窓の外は暗く、まるで飲み込まれてしまいそうだ。フルーリ伯爵が「お前は逃げられない」と語りかけてくる夢を見た。歯がカチカチと音を立てている。
ベッドの上に居ることが気持ち悪く感じられて、床へと転がり落ちた。膝を擦りむいたけれど、気に留めず立ち上がる。廊下へと続く扉へと手をかける。緊張しながら取手に力を込めると、扉はあっさりと開いてくれた。
(ここはフルーリ伯爵家じゃないんだよね……)
閉鎖された空間ではないことに安堵する。
音を立てないように廊下を進んでいく。ギルバートに会いたかった。夜中だから眠っているはずだ。それに、ギルバートの部屋もわからない。それでも彼に会えば、この震えも止まる気がする。
「アリ、こんな夜中にどうかしたのか?」
向かい側から歩いてきたギルバートが、アリを見つけて声をかけてくれた。低音の穏やかな声は、アリの心を包み込み安心させてくれる。
「眠れなかった?」
頷くと、目の前まで来てくれたギルバート。それから、アリの目元に指先で触れてきた。指が目元から頬へと流れる。冷えきった肌に感じる体温が心地いい。
「震えているな。なにかあったか?」
首を横に振る。怖い夢を見たなど、子供っぽくて伝えられない。けれど、それではギルバートが離れていくかもしれないとも思う。
アリはギルバートの腕にしがみつくと、頬を付けて目を伏せた。自身の行動が恥ずかしい。けれど、離したくはない。
「フッ、甘えたいのか。可愛いな」
ギルバートの大きな手が、アリの頭にそっと触れる。それから、反応を伺いつつ髪をクシャクシャと撫でてくれた。
鼓動が早くなる。胸が高鳴り、思わず口角が微かに上がる。
ギルバートにもっと触れてほしい。ギルバートから香ってくるフェロモンが、アリの心から恐怖心を取り去ってくれた。オメガであるアリにとって、アルファであるギルバートは一種の守護者だ。
アリは初めて、こんなにも誰かの傍に居たいと強く思った。
「ぁ……っ……」
ありがとう、と言葉にしたい。自身の気持ちをギルバートに話したい。雛鳥のように口を開閉させてみる。けれど、空気の漏れたような音だけが、虚しく空を舞う。
「無理しなくていい。ちゃんと伝わってる」
そう言って、ギルバートがアリを横向きに抱きかかえてくれる。出会った日も、こうやって抱き上げてくれた。
鼓動が早くなり、顔が熱くなる。
ギルバートに出会えたことは、アリにとってなによりも喜ぶべきことだ。
首元に腕を回して、胸に顔を埋める。トクトクと耳に届く心音に、眠気を誘われてしまう。
今のアリにとって、ギルバートの腕の中だけが安息地だ。そんなことを伝えたら、ギルバートは面倒だと思うのだろうか?
──きっと困らせてしまう。
もしもあの日、アリではない他の被害者をギルバートが見つけていたなら……。彼は迷わず同じように助けるのだろう。
それがアリの知っているギルバートだから。
けれど、もっと深くまで知りたいと思ってしまう。言葉で感じ合い、思いを共有したいと願ってしまう。それは我儘だろうか?
「アリ、俺は君を助けることができて良かったと思ってる。俺が傍にいるから安心して眠るといい」
慈しむような声音が、アリの心に風を送ってくれる。だから、沈んでいた気持ちが、ふわふわの綿毛のように舞い上がる。巻きつけた腕に力を込めると、ギルバートが微かに笑みを零したのが聞こえてきた。
「安心するまで一緒に居る」
頷くと、またギルバートがクスリと笑みを零す。
歩みを進めるたびに、ふわりふわりとギルバートから香りが漂い、アリを包み込む。
穏やかな心地だった。今なら怖い夢は見ない。そう確信できる。
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