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悪役令息は護衛騎士を手に入れたようです①

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初めに目に入ったのは、ぼさぼさの長い黒髪。続いて、やけに楽しそうに口角の上がった口元。顔はこの世界の基準でいうのなら、とびきりの不細工に入るのだろうか。切れ長の二重の黒目に、無精髭。日に焼けた肌にボロい服を身にまとったその男は、僕達を襲おうとした男達を次から次に薙ぎ倒していく。

その様子を呆気に取られながら見つめる。彼は誰だ?
あっという間に男達は地面へと倒れ、残ったのは突然現れた男だけだ。彼は僕の方へと視線を向けると、いきなり手を差し出してきた。訳が分からなくて、目で問いかける。

「礼金だよ。助けてやったろ」
「な!貴方!!」
 
男の言葉にミアが怒るけれど、彼は手を引っこめることはしなかった。それどころか、挑発するように僕のことを愉しげな瞳で観察している。数秒見つめ合ったあと、懐から手持ちの金貨を全て取り出して、彼へと手渡した。その行動にミアが驚きの視線を向けてくる。

「はっ、こんな大金を俺みたいなのに簡単に渡しちまうとはな。あんたどこのご令嬢だ」
「僕は男だよ。それに、簡単に身分を教える程馬鹿じゃない」
「へー。これだけの金があれば、質素に暮らして五年は凌げる。なにか裏があると見た」

男の鋭い瞳が弧を描いて、手元ではジャラジャラと金貨の擦れる音を鳴らしている。男の格好から見て、浮浪者であることは間違いないだろう。とすれば、あの武術の腕を逃すのは勿体ない。それに、この男なら金を渡せばいくらでも動いてくれそうだ。

「行くあてはあるのかい?」
「あると思うか?この見た目だぞ」

確かに、その顔ではどこも雇ってはくれないかもしれない。この世界は、かなり美醜に厳しい傾向にあるから、顔の悪い者は苦労するだろう。

「僕のところで働く気はない?」
「はあ?……そりゃあ、金次第だな」

僕と男のやり取りをミアが落ち着かない様子で見ている。

「給金は弾むよ。僕の下で働いてくれるのなら、一般給金の二倍出す」
「……なにをしたらいいんだ」

男の言葉に、満面の笑みを浮かべながら、次は僕が手を差し出した。その手に視線が降り注ぐ。

「僕専属の護衛騎士になって欲しい」
 
エルヴィスが用意した護衛騎士を周りにはべらせているのは、なにかと都合が悪いから、専用の護衛が欲しいと思っていたところだったんだ。

提案に一瞬戸惑った男は、金貨を懐にしまって、汚れていた手を服で拭うと強く僕の手を握ってきた。

「ジンだ。よろしく頼む」
「そう来なくちゃね。よろしくねジン」

僕達のやり取りを見ていたミアが、慌てて腕にすがりついてきた。あまりの慌てように、思わず笑みを零すと、ミアが泣きついてくる。

「こ、こんな醜い男を傍に置くのですか!!?」
「こら、人を見た目で判断してはだめだよ」
「ですがっ、こ、この男は浮浪者ですよ!?」
「もう僕の護衛騎士だよ」
「カレンデュラ様~~!」

涙目のミアがおかしくて笑えば、頬を膨らませた可愛らしい顔と、潤んだ瞳でかか抗議された。会話を聞いていたジンは、僕の名前を聞いた瞬間、驚いたのか僕のことを凝視してきた。

「カレンデュラって、カレンデュラ=デイドリームのことか?」
「流石に名前くらいは知られているんだね。ふふふ、ジン後悔はさせないよ」
「驚いたぜ。令嬢じゃなく姫さんだったとは」
「僕は男だと言っているだろう。まあ、いいけれどね。そろそろ帰らないと暗くなりそうだ。ジン早速、護衛頼んだよ」
「はいよ」

まだジンのことを警戒しているミアと一緒に屋敷へと帰ることにする。途中、どうして護衛が着いていないのかとジンに尋ねられて、抜け出してきたと答えたら爆笑されてしまった。 彼はどうやら、かなり賑やかな人柄らしい。

ジンを雇うことは賭けに近いし、自分でも思い切ったと思うけれど、これからの復讐計画に必要な人材だ。

屋敷に着くと、使用人達が僕の姿を見てざわつき始める。
続いて、使用人が呼んだのか、エルヴィスが怒りの形相で駆けつけてきた。こうなることは覚悟していたけれど、まさか抜け出したくらいで、エルヴィスがこんなにも怒るなんて、意外だと思ってしまう。

僕のことを三ヶ月も放置したのだから、たまには困らせるのも悪くはないと思っていたけれど、彼の怒り顔を見たら更に心が舞い上がったのを感じた。

「屋敷を抜け出してどこに行っていた」
「街に……」
「ふざけるな!護衛も付けずに街に行くなど、俺の妻だという自覚はあるのか!」
「ご、ごめんなさい……」

使用人が見ているから、弱々しいカレンデュラのフリをする。横で僕の変わりようを見ているジンが微かに眉を寄せた。きっと驚いているのだろう。
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