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「な、なにしようとしてるのよおお!」
沖と約束を交わしてから三日後の土曜日。僕は沖の家にお邪魔させてもらっていた。高級マンションの一室で一人暮らしをしているらしい。一人には広すぎる場所だ。
大きなソファーにゆったりと腰掛けた沖の目の前に膝をついたところで、行動を遮られてしまう。大声が鼓膜を揺らして、耳が痛い。
「家に呼んだってことはこういうことでしょ」
「違うわよ!それにそんな可愛い格好してくるものだから、ドキドキしちゃうでしょう!」
「普通の格好なんだけど」
今日はスクールモードは封印している。休みの日まであんな格好をするのは嫌だし。
仕事をすると思っていたから、ある程度は整えて来ていた。
「そんなことするために家に上げたわけじゃないのよ。まったく……」
僕を猫みたいに抱き上げた沖は、自分の膝の上に座らせてブツブツと文句を言ってくる。ところなしか顔が赤い。
誤魔化してるけど、かなり動揺してそうだ。
「仕事もせずにお金は受け取れないよ」
「……そういうところはしっかりしてるのね」
「こう見えて真面目なんだ」
目の前の薄くて形のいい唇に食いついてやる。沖の肩が揺れて、押し返そうとされたけれど後頭部に腕を回して阻止した。
舌を絡め合うキスは何度もした。流し目で相手を誘い、下半身を手で刺激するのも忘れない。こうしてやれば、相手が気分を良くしてくれることを知っているから。調子に乗らせておけば高確率で痛いことはされない。
「ちょっ、やめっ、なさい!」
下半身に伸ばした手を片手であっさりと止められて眉を寄せる。
頭に腕を回したまま渋々体を少しだけ離すと、頬を上気させた色っぽい顔が視界に映った。潤んだ瞳で見つめられるとなんだかゾクゾクしてくる。
「あんたって本当に噂とは真逆なんだね」
「っ、こういうことは好きな子とするべきだわ」
「……顔に似合わず可愛いこと言うんだ」
まるでなにも知らないお姫様みたいだ。
人を好きって感じる気持ちは良くわからない。好きな人にだけ貞操を捧げるなんていう綺麗事も理解なんてこれっぽちもできないし。
きっと、沖と僕は真逆の人間だ。
膝の上から退くと隣に腰かけ直す。やる気が削がれてしまったし、やらなくていいのなら今日はやめておこう。その方が楽だ。
それに、母さんから貰った財布を思い出したんだ。沖は財布みたいだ。汚したらいけない神聖なもの。
「なんでおネエになったの」
「昔から可愛いものが好きだったのよ。両親もそんな私を受け入れてくれたわ。でもこの見た目でしょう。絡まれちゃってね。喧嘩しちゃうと噂に尾ひれがついちょって、今に至るってわけ」
「……大変なんだね」
見た目で判断されるしんどさは僕にもわかる。
幼い頃は男らしさを求めたこともあったし、この顔は今でもあまり好きにはなれない。誰かを誘惑することに特化した道具みたいなものだ。
「あなたこそ、どうしてこんなことを?」
「生きていくためだよ。僕の母さんは病気なんだ。施設に入って適切な治療を受けて欲しい。だからお金を集めてる」
どうして素直に教えてしまったんだろう。普段なら曖昧に誤魔化して答えるのに。
「棗は偉いのね」
頭を撫でられて、思わずぶすくれた表情を浮かべてしまった。
「勝手に名前呼ばないでよね。ていうか、なんで知ってんの」
「同じクラスなんだから知ってるわよ。私のことも愛夏って呼んでちょうだい」
なんだか負けた気分になる。
不良だと思っていたのに全然不良じゃないし、やたらと構い倒してきてうざい。それなのに、逆らえない。
「……愛夏」
「ふふ、なーに」
指の腹が優しく梳くように髪を弄んでくる。すぐに顔を赤く染めるくせに、こんなことは平気でしてくるんだからタチが悪い。
「あなたって本当に可愛いのね」
そう言いながら幸せそうに微笑む愛夏はやっぱり綺麗で、少しだけ羨ましいと思った。
沖と約束を交わしてから三日後の土曜日。僕は沖の家にお邪魔させてもらっていた。高級マンションの一室で一人暮らしをしているらしい。一人には広すぎる場所だ。
大きなソファーにゆったりと腰掛けた沖の目の前に膝をついたところで、行動を遮られてしまう。大声が鼓膜を揺らして、耳が痛い。
「家に呼んだってことはこういうことでしょ」
「違うわよ!それにそんな可愛い格好してくるものだから、ドキドキしちゃうでしょう!」
「普通の格好なんだけど」
今日はスクールモードは封印している。休みの日まであんな格好をするのは嫌だし。
仕事をすると思っていたから、ある程度は整えて来ていた。
「そんなことするために家に上げたわけじゃないのよ。まったく……」
僕を猫みたいに抱き上げた沖は、自分の膝の上に座らせてブツブツと文句を言ってくる。ところなしか顔が赤い。
誤魔化してるけど、かなり動揺してそうだ。
「仕事もせずにお金は受け取れないよ」
「……そういうところはしっかりしてるのね」
「こう見えて真面目なんだ」
目の前の薄くて形のいい唇に食いついてやる。沖の肩が揺れて、押し返そうとされたけれど後頭部に腕を回して阻止した。
舌を絡め合うキスは何度もした。流し目で相手を誘い、下半身を手で刺激するのも忘れない。こうしてやれば、相手が気分を良くしてくれることを知っているから。調子に乗らせておけば高確率で痛いことはされない。
「ちょっ、やめっ、なさい!」
下半身に伸ばした手を片手であっさりと止められて眉を寄せる。
頭に腕を回したまま渋々体を少しだけ離すと、頬を上気させた色っぽい顔が視界に映った。潤んだ瞳で見つめられるとなんだかゾクゾクしてくる。
「あんたって本当に噂とは真逆なんだね」
「っ、こういうことは好きな子とするべきだわ」
「……顔に似合わず可愛いこと言うんだ」
まるでなにも知らないお姫様みたいだ。
人を好きって感じる気持ちは良くわからない。好きな人にだけ貞操を捧げるなんていう綺麗事も理解なんてこれっぽちもできないし。
きっと、沖と僕は真逆の人間だ。
膝の上から退くと隣に腰かけ直す。やる気が削がれてしまったし、やらなくていいのなら今日はやめておこう。その方が楽だ。
それに、母さんから貰った財布を思い出したんだ。沖は財布みたいだ。汚したらいけない神聖なもの。
「なんでおネエになったの」
「昔から可愛いものが好きだったのよ。両親もそんな私を受け入れてくれたわ。でもこの見た目でしょう。絡まれちゃってね。喧嘩しちゃうと噂に尾ひれがついちょって、今に至るってわけ」
「……大変なんだね」
見た目で判断されるしんどさは僕にもわかる。
幼い頃は男らしさを求めたこともあったし、この顔は今でもあまり好きにはなれない。誰かを誘惑することに特化した道具みたいなものだ。
「あなたこそ、どうしてこんなことを?」
「生きていくためだよ。僕の母さんは病気なんだ。施設に入って適切な治療を受けて欲しい。だからお金を集めてる」
どうして素直に教えてしまったんだろう。普段なら曖昧に誤魔化して答えるのに。
「棗は偉いのね」
頭を撫でられて、思わずぶすくれた表情を浮かべてしまった。
「勝手に名前呼ばないでよね。ていうか、なんで知ってんの」
「同じクラスなんだから知ってるわよ。私のことも愛夏って呼んでちょうだい」
なんだか負けた気分になる。
不良だと思っていたのに全然不良じゃないし、やたらと構い倒してきてうざい。それなのに、逆らえない。
「……愛夏」
「ふふ、なーに」
指の腹が優しく梳くように髪を弄んでくる。すぐに顔を赤く染めるくせに、こんなことは平気でしてくるんだからタチが悪い。
「あなたって本当に可愛いのね」
そう言いながら幸せそうに微笑む愛夏はやっぱり綺麗で、少しだけ羨ましいと思った。
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