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身代わりと狼王子

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怖いとはまた違う感覚だと思った。

先程までは確かに知らない人と一夜を共にすることに恐怖を感じていたはずなのに、今は何故かもっと触れて欲しいと思っている。

ライル様の言葉に返事を返すように微かに首を横に振ると、彼が青い瞳を細めて僕に顔を近づけてきた。

その拍子に彼からお香とも違う甘い香りがして、くらりと視界が揺れる。

その揺れは段々と大きくなっていき、次第に呼吸が荒れて短いものへと変化して行った。

「……薬が効いてきた様だな。……っ、はは、まさか、本当に居るとは」

「……はっ、な、なにっ……?」

薬とは先程飲んだ薬のことだろうか……。

ご主人様もよく僕に薬を飲ませて発情ヒートさせては弄んでいたのを思い出した。

つまり、あの薬は発情誘発剤だったということだ。

そんなことを考えている間にも自身からフェロモンが漏れ出しているのを感じる。

「やっと出会えた……」

「……へ?……あっ……」

ライル様が何かを呟くと突然僕を抱き上げてベッドへと連れていった。

背中に柔らかな布のあたる感触を感じて喉を鳴らす。

思わずライル様の顔を見れば、先程まで無かったはずの狼の様な耳が彼の頭に生えているのに気がついて息を飲んだ。

そんな僕のことを見下ろしながら、ライル様がニヤリと口元に笑みを浮かべる。

その口元から微かに鋭い犬歯が見えて、思わず後ろへと腰を引く。

狼王子……。

この国の第1王子であるライル様は国民からそう呼ばれていると耳にしたことがある。

この国の歴代の国王は皆‪α‬性であり、‪その性別で生まれてきた王子は先祖返りによって興奮すると狼の特徴が身体に現れるのだという。

第1王子である彼は長らく戦で戦地に赴いていたそうだけれど、その際狼の特徴を露にしたライル様が次々に敵兵を倒していく様を見ていた自軍の兵がそう名付けたのだとか……。

「……久しぶりだな、この感覚は。戦以来か」

「……ラ、ライル様……」

彼の手が僕の首元へと伸びてきて、顎の線をなぞる様に這わされる。

「まさか出会えるとは思っていなかったが、これ程までに甘美だとは想像もしていなかったな」

「……ひっ……」

彼の顔が唇の合わさる数cmの所まで近づいてくる。

先程まで透き通る様な青だった彼の瞳が、金色と青の合わさった不思議な色へと変化していて、獣特有の縦の瞳孔に見つめられると腹の奥が疼くような感覚が全身を襲ってきた。

「お前、名はなんという?」

触れそうな距離で彼が問いかけてくる。

けれど僕は身体を震わしながら、ただ無言で彼の瞳を見返すことしか出来なかった。
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