囚われの白夜〜狼王子は身代わり奴隷に愛を囁く〜

悩みと提案

3

どう答えたらいいんだろう。

ご主人様の家名を名乗る許可も貰っていないため、勝手に名乗る訳にもいかず困ってしまう。

「あまり詮索するものではありませんよ。使用人になるのなら尚更ご主人様を困らせてはなりません」

頭を抱えていると、二ゼルさんが戻ってきてアランへと注意してくれた。

アランはそれに渋々頷くと、掃除をしてくると言って再び部屋から出ていく。

それに安堵して、お茶を喉に流し込んだ。

「ありがとうございます」

「ええ。当然のことですから」

緊張でまだドキドキしている心臓を落ち着かせるために、お茶を何度も口に入れると、空になったグラスに二ゼルさんがお茶を注いでくれる。

「今夜も第1王子様はアズハル様をご指名ですよ」

「あ、あの」

「どうかされましたか」

「他の人達はどうなるんですか」

「ほとんどの者が家へ返されます。中には修道院へ入ることを希望する者もいます」

「そう、なですね……」

うつむく僕を見た二ゼルさんが茶器をテーブルへ置く。

「アズハル様がお気になされることはありませんよ」

「……はい」

気にするなと言われても気になってしまう。だって、僕は身分を偽ってこの場所にいる上に、ライル様を独り占めする権利なんてないって分かっているから。

「支度を致しましょう」

二ゼルさんに促されて、僕はそれに大人しく従う。

今夜も僕はライル様に抱かれるのだろうか｡
彼の逞しい肢体に抱きしめられると、胸の鼓動が高まって凄く不思議な感じがするんだ。

その度に、もっとライル様のことを知りたいと思ってしまう。

「傷も薄くなってきましたね」

僕の体を清めながら二ゼルさんが呟く。それに僕は何も返事を返せなかった。

傷が消えていく度に、自分の本当の身分があやふやになっていくようで少しだけ怖くなるんだ。

勘違いしてしまいそうになる。

ライル様のお傍に居てもいいんだって思いそうになってしまうんだ。

もしも僕がアランみたいに身分の高い御貴族様ならもっと自信を持てたのかな。

そんな夢を見たって現実はなにも変わらない。
僕は生まれながらの奴隷だ。

「お着替えを致しましょう」

身を清め終わると、いつも通り夜伽用の衣装へと着替えさせられた。

鏡を見れば美しく着飾った自分の姿が映っている。外を見れば相変わらず1面白亜の世界。

まるで夢を見ているみたいだ。

白夜は夢と現の境目を曖昧にする。

（夢なら早く覚めて）

こんなにも切なくて幸せな夢なんて見たくはなかった。
いつか夢から覚める日が来たとき、辛いって分かっているから。