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成人編
初勝利③
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魔王城で暮らす人々なら誰もが、僕がノクスのことを好きなのだと知っている。でも、直接やめろと言われたことはなかった。なのに、今更どうして……。
「僕はノクスのことを愛しているんだ」
「……着いて来い」
それだけ言って、アランは再び歩き出す。わけもわからないまま、言われた通りに背中を追いかける。着いたのは、いつも剣術の訓練を行っている広場だった。
アランが腰に挿していた剣を抜き、僕の方へと投げやってきた。慌ててキャッチすると、ソードラックに置かれていた剣を引き抜いて、僕に向かって構える。その姿に疑似感を覚えた。
「構えろ」
懐かしい台詞に、なにが行われるのかを悟る。
剣を握り直し、構えると、その瞬間アランが地面を蹴った。咄嗟に後ろへと飛べば、目の前を切っ先が横切る。息つく暇もなく、横腹目掛けて足が飛んでくる。それを片腕で防ぎ、足払いをすれば、飛び跳ねたアランが思い切り剣を振り下ろしてきた。すんでのところで、前へと滑り避けると、アランの背後に回り込み、剣を振る。避けられて、刀身が空を薙ぐ。
振り返りざまに切りつけられ、受け止めると、鍔迫り合いをしながら睨み合う。お互いの間に会話はない。無言のままお互いの心を探りあっていく。剣を交えれば、相手の覚悟がひしひしと伝わってくる。
勢いよくアランを押せば、体格差のせいか一瞬アランのバランスが崩れた。普段は決して力勝負に持ち込まない彼が今だけは判断を誤ったのだ。その一瞬の隙を見逃すことなどしない。思い切り剣を振り、アランの剣を弾く。円を描きながら地面へと落ちた剣を見送ることはせず、尻餅をついたアランの喉元に切っ先をあてがった。
「はぁ、はぁ……僕の勝ち、だね」
初めてアランに勝利したはずなのに、素直に喜べないのはなぜだろう。アランの真意もノクスの隠し事も、わからないままだからかもしれない。
「……強くなったな」
「アラン……」
アランが僕に向かって微笑んだ。剣を降ろせば、土を払いながら立ち上がったアランが僕の胸に拳を突き出す。
「お前の心は変わらないのか」
「……変わらない。どれだけ否定されようと、僕はノクスのことを思い続けるよ」
「そうか……。昔、お前に問うたことを覚えているか」
「うん」
忘れたことは一度もない。どうして強くなりたいのか、ずっと考えてきた。魔王城で過ごすうちに、家族ができて、好きな人ができて、楽しいことも悲しいことも沢山経験した。僕はその全てを守るために強くなりたいと思ったんだ。
「皆が安心して暮らせる、平和な世界を創りたい。争わなくてもいい世界。魔族と人間が笑い合えるような世界にしたいんだ」
口先だけじゃない。本気で叶えたい願い。夢では終わらせたくない。この願いを叶えることこそが、僕の生きる意味だと思うから。
「僕はノクスのことを愛しているんだ」
「……着いて来い」
それだけ言って、アランは再び歩き出す。わけもわからないまま、言われた通りに背中を追いかける。着いたのは、いつも剣術の訓練を行っている広場だった。
アランが腰に挿していた剣を抜き、僕の方へと投げやってきた。慌ててキャッチすると、ソードラックに置かれていた剣を引き抜いて、僕に向かって構える。その姿に疑似感を覚えた。
「構えろ」
懐かしい台詞に、なにが行われるのかを悟る。
剣を握り直し、構えると、その瞬間アランが地面を蹴った。咄嗟に後ろへと飛べば、目の前を切っ先が横切る。息つく暇もなく、横腹目掛けて足が飛んでくる。それを片腕で防ぎ、足払いをすれば、飛び跳ねたアランが思い切り剣を振り下ろしてきた。すんでのところで、前へと滑り避けると、アランの背後に回り込み、剣を振る。避けられて、刀身が空を薙ぐ。
振り返りざまに切りつけられ、受け止めると、鍔迫り合いをしながら睨み合う。お互いの間に会話はない。無言のままお互いの心を探りあっていく。剣を交えれば、相手の覚悟がひしひしと伝わってくる。
勢いよくアランを押せば、体格差のせいか一瞬アランのバランスが崩れた。普段は決して力勝負に持ち込まない彼が今だけは判断を誤ったのだ。その一瞬の隙を見逃すことなどしない。思い切り剣を振り、アランの剣を弾く。円を描きながら地面へと落ちた剣を見送ることはせず、尻餅をついたアランの喉元に切っ先をあてがった。
「はぁ、はぁ……僕の勝ち、だね」
初めてアランに勝利したはずなのに、素直に喜べないのはなぜだろう。アランの真意もノクスの隠し事も、わからないままだからかもしれない。
「……強くなったな」
「アラン……」
アランが僕に向かって微笑んだ。剣を降ろせば、土を払いながら立ち上がったアランが僕の胸に拳を突き出す。
「お前の心は変わらないのか」
「……変わらない。どれだけ否定されようと、僕はノクスのことを思い続けるよ」
「そうか……。昔、お前に問うたことを覚えているか」
「うん」
忘れたことは一度もない。どうして強くなりたいのか、ずっと考えてきた。魔王城で過ごすうちに、家族ができて、好きな人ができて、楽しいことも悲しいことも沢山経験した。僕はその全てを守るために強くなりたいと思ったんだ。
「皆が安心して暮らせる、平和な世界を創りたい。争わなくてもいい世界。魔族と人間が笑い合えるような世界にしたいんだ」
口先だけじゃない。本気で叶えたい願い。夢では終わらせたくない。この願いを叶えることこそが、僕の生きる意味だと思うから。
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