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成人編
初勝利④
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拳を下ろしたアランが、また悲しげに顔を歪ませる。
「僕の両親は人間に殺された。境界に一番近い小さな村で平和に暮らしていたんだ。そこに盗賊が来て、両親は僕を守るために……。両親は簡単な魔法しか扱えなかったから、ほとんど人間と変わらなかったんだ」
「……っ、知らなかった……」
「かまわない。話したこともなかったからな。目の前で両親を殺され、村の人も何人も殺された。魔力量の多かった僕はそのショックで魔力を暴発させ、気が付くと盗賊達は全滅していたよ。その日から僕は歳をとらなくなった。魔力暴走の影響だ。村人は皆他の村へと助けを求めたが、僕だけは村から離れられなかった。そんなときに、調査に来ていた魔王様に助けられたんだ」
人間を憎んでいるのだとアランが呟く。きっと、僕に厳しく当たるのも、深く傷ついて自分でもどうしようもないくらいに、人間を許せないからなんだと知った。
今にも泣き出しそうなアランをそっと抱きしめる。昔は僕の方が小さかったのに、今はすっぽりと収まるほどに体格差ができてしまっている。
「……っ、僕は弱い。あのときお前に言った言葉は、自分に向けてのものだったのかもしれない」
「アラン、僕はあのときの君の言葉に助けられたんだよ。弱さを認めて、前に進もうと決意できたのはアランのおかげなんだ」
「もしも、この先に茨の道が待っているとしても、お前は魔王様を愛せるか? 魔族を傷つけないと誓えるのか?」
視線を合わせるように屈むと、夕焼け色に輝く瞳を真っ直ぐに見つめながら、力強く頷いてみせる。どんな道が待っていようとも、僕の心は揺るがない。
「もっと強くなるよ。だから、力を貸してほしい」
「……昔はもっと聞き分けが良かったはずなんだがな」
「我慢するのはやめたんだ」
笑って返せば、僕のおでこに、アランも自身のおでこをくっつけてクスリと笑を零した。釣られるように笑えば、心が温かくなる。僕の師匠はいつだって厳しいけれど、どんなときも寄り添ってくれる。昔は怖かったけれど、今は信頼できる大切な家族だ。
訓練場を出ると、ノクスと話があるからと言われて頷く。どんな話をするのかはわからない。でも、あえて尋ねることはしなかった。
自室に戻り、息を吐き出す。ベアトリスに傷の手当をしてもらいながら、未来のことを少しだけ考えてみた。
「ベアトリスは人間の情勢がどうなっているか知っている?」
「多少ですが聞き及んでおります」
「教えてくれないかな」
「……魔王様には私が教えたことは内密に」
「ありがとう」
手当が終わると、紅茶をカップに注ぎながらベアトリスが話を聞かせてくれる。
今、王族は二つの勢力に分かれて争っているそうだ。王が病になり、第一王子であるアントニオ王子と第二王子であるルーク王子の王太子争いが激化。火に油を注ぐかのように、半魔族派と魔族肯定派の貴族の間で論争が続いているらしい。
驚いたのは、人間にも魔族を肯定する人がいるという事実だった。ルーク王子は何百年に一度必ず起こる、人間と魔族の戦争の影響で困窮する民を救うため、魔族と和解するべきだという提案をした。しかし、反魔族派のアントニオ王子はそれを認めず、二人の仲はますます拗れてしまったらしい。
これから先のこと考えると、ルーク王子とコンタクトを取ることは、きっと世界にとってプラスになるはずだ。上手くいくかはわからない。でも、やってみる価値はある気がする。
「ベアトリス、ケーキが食べたいな」
「ご用意致します」
お辞儀をして部屋から出ていくベアトリスを見送ると、窓の外へと目を向ける。魔王城の外に出たことは数える程しかない。魔王城には生きていくために必要なものが全て揃っていて、外に出なくとも困ることはないから。でも、今は外の世界に目を向けてみたいと思っている。
明日、ノクスに話してみようかな。僕の気持ちや、ルーク王子のこと。きっと、ノクスなら受け入れてくれるよね。
「僕の両親は人間に殺された。境界に一番近い小さな村で平和に暮らしていたんだ。そこに盗賊が来て、両親は僕を守るために……。両親は簡単な魔法しか扱えなかったから、ほとんど人間と変わらなかったんだ」
「……っ、知らなかった……」
「かまわない。話したこともなかったからな。目の前で両親を殺され、村の人も何人も殺された。魔力量の多かった僕はそのショックで魔力を暴発させ、気が付くと盗賊達は全滅していたよ。その日から僕は歳をとらなくなった。魔力暴走の影響だ。村人は皆他の村へと助けを求めたが、僕だけは村から離れられなかった。そんなときに、調査に来ていた魔王様に助けられたんだ」
人間を憎んでいるのだとアランが呟く。きっと、僕に厳しく当たるのも、深く傷ついて自分でもどうしようもないくらいに、人間を許せないからなんだと知った。
今にも泣き出しそうなアランをそっと抱きしめる。昔は僕の方が小さかったのに、今はすっぽりと収まるほどに体格差ができてしまっている。
「……っ、僕は弱い。あのときお前に言った言葉は、自分に向けてのものだったのかもしれない」
「アラン、僕はあのときの君の言葉に助けられたんだよ。弱さを認めて、前に進もうと決意できたのはアランのおかげなんだ」
「もしも、この先に茨の道が待っているとしても、お前は魔王様を愛せるか? 魔族を傷つけないと誓えるのか?」
視線を合わせるように屈むと、夕焼け色に輝く瞳を真っ直ぐに見つめながら、力強く頷いてみせる。どんな道が待っていようとも、僕の心は揺るがない。
「もっと強くなるよ。だから、力を貸してほしい」
「……昔はもっと聞き分けが良かったはずなんだがな」
「我慢するのはやめたんだ」
笑って返せば、僕のおでこに、アランも自身のおでこをくっつけてクスリと笑を零した。釣られるように笑えば、心が温かくなる。僕の師匠はいつだって厳しいけれど、どんなときも寄り添ってくれる。昔は怖かったけれど、今は信頼できる大切な家族だ。
訓練場を出ると、ノクスと話があるからと言われて頷く。どんな話をするのかはわからない。でも、あえて尋ねることはしなかった。
自室に戻り、息を吐き出す。ベアトリスに傷の手当をしてもらいながら、未来のことを少しだけ考えてみた。
「ベアトリスは人間の情勢がどうなっているか知っている?」
「多少ですが聞き及んでおります」
「教えてくれないかな」
「……魔王様には私が教えたことは内密に」
「ありがとう」
手当が終わると、紅茶をカップに注ぎながらベアトリスが話を聞かせてくれる。
今、王族は二つの勢力に分かれて争っているそうだ。王が病になり、第一王子であるアントニオ王子と第二王子であるルーク王子の王太子争いが激化。火に油を注ぐかのように、半魔族派と魔族肯定派の貴族の間で論争が続いているらしい。
驚いたのは、人間にも魔族を肯定する人がいるという事実だった。ルーク王子は何百年に一度必ず起こる、人間と魔族の戦争の影響で困窮する民を救うため、魔族と和解するべきだという提案をした。しかし、反魔族派のアントニオ王子はそれを認めず、二人の仲はますます拗れてしまったらしい。
これから先のこと考えると、ルーク王子とコンタクトを取ることは、きっと世界にとってプラスになるはずだ。上手くいくかはわからない。でも、やってみる価値はある気がする。
「ベアトリス、ケーキが食べたいな」
「ご用意致します」
お辞儀をして部屋から出ていくベアトリスを見送ると、窓の外へと目を向ける。魔王城の外に出たことは数える程しかない。魔王城には生きていくために必要なものが全て揃っていて、外に出なくとも困ることはないから。でも、今は外の世界に目を向けてみたいと思っている。
明日、ノクスに話してみようかな。僕の気持ちや、ルーク王子のこと。きっと、ノクスなら受け入れてくれるよね。
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