最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる！

別人に入れ替わってる！？

②

でも、そうなるとこの身体の持ち主は……

「考え込んでいるけれど、自分のことは覚えている？」

そこまで考えたところで、ダリウスに話しかけられて意識を引き戻した。

「なあ、信じられないかもしれないんだけどさ」
「どうしたの」

別人の身体に転生したなんて言っても信じて貰えないかもしれない。でも、隠していたってそのうち変だって気づかれるはずだし、性格上隠しごとって得意な方じゃない。それなら、最初から伝えておいた方がいいよな。

「俺はクリスって人じゃないんだ。いやっ、身体は本人だと思う。中身ってか、魂？が別人ってことで。あー、なに言ってんだろ。とっ、とにかく俺はクリスであってクリスじゃないんだよ！」

自分でもわけわかんないことを言ってるのはわかってる。必死に説明する俺のことをダリウスがブルーサファイアの様な瞳で見つめてくる。不審に思われただろうか。目覚めて突然頭のおかしなことを言い始めたと思われても仕方がないかもしれない。

そこでふと疑問が浮かぶ。そもそもなんで俺は氷で囲まれた部屋に寝ていたんだ？

「なあ、俺ってなんで……」
「結婚しようか」
「は？」

寝ていた理由を尋ねようと思ったのに唐突に言われた言葉ですべてが吹き飛ばされてしまった。なにを言ってんだこのイケメンは。

「突然なに言ってんだよ」
「かまわないだろう。俺とクリスは運命の番なのだから」
「運命の番？それがなんなのかもわかんないけど……そもそも前提として俺とお前は結婚出来ないだろ」

俺もお前も男だぞ。同性同士の恋愛に嫌悪感を抱いている訳ではない。なぜなら自分自身、恋愛対象が同性だったから。でも、その分悩みも沢山あった。偏見が少しづつ減ってきている世の中ではあったけれど、同性婚問題は年々過激化していたし、好きなやつが出来たって大抵そういった壁が立ちはだかって喧嘩別れすることも多かった。

幸か不幸か、死ぬ間際の俺に恋人がいなかったのは救いだろう。居たら、恋人が死んでしまうというトラウマを背負わせてしまう所だ。

「本当になにもかも忘れてしまったんだね。君の場合、忘れたというよりも元から知らなかったと言った方が正しいのかな」

長い指先が俺の頬を撫でてくる。ダリウスに触れられるのは自然と嫌だとは感じない。むしろもっと触れ合っていたいと感じる熱が、彼の中にはある気がする。

「この世界には男女の性別とは別に第二性別が存在するんだよ。α、β、Ωという三種類に分かれていて、それぞれに特性がある」
「ダリウスはどれなんだ」
「俺はαだよ。αは第二性別の中で最も優れた能力を持つと言われているんだ。身体能力が人よりも高かったり頭が良かったり、魔法適性も他の人よりも優れていることが多い」

つまりαはエリートってことだな。説明を聞きながら自分の中でわかりやすく消化していく。

「βは所謂一般人。能力は平均的で、αやΩとは違い、なにか特別な能力があるわけではないんだ。世界で最も多い性別がβなんだよ」

βってのが日本にいた俺には一番馴染み深いのかもしれない。

「Ωだけれど、少し困った性別でね。Ωの人は一ヶ月に一、二回程発情期ヒート期と呼ばれる、特殊な香りを発する時期が来るんだ。その香りはαだけを誘うもので、香りを嗅いだαはそのΩを自身の物にしたいという衝動に駆られてしまう。ちなみにβにはこの香りは感じられないことがほとんどなんだよ。感じられたとしても香りでβが発情することはないんだ」

なんだそれっ。この世界は本当に俺が知ってる世界とはまるで常識が違うみたいだ。

「Ωってのは大変なんだな。ちなみにαに襲われちまったらどうなるんだ？」

他人事のように尋ねる。

「襲われてしまった場合か……もしも発情期にαがΩの項を噛んでしまったときは、番契約というものが成立する。これは魂の契約だ。番が出来てしまったΩはそのαにしか抱いてもらう事ができなくなる。香りも番にしか効力を発揮しなくなるんだ。それから、異例がない限り、番契約は解除することができないからね。ああ、ちなみにクリスはΩだよ」
「へ～、俺ってΩなんだな。って、はあ！？？」

説明を聞く限り、Ωって三つの中で一番大変そうだよな！？
俺って本当にΩなのか？身体の持ち主がΩだったってことだよな。頭が混乱してくる。てっきりβだと思っていたからだ。