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お前に知られてしまうことが怖いんだ
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◇◇◇
夜が更けてきた時間帯に、ゼンは一人で路地を歩いていた。
目深に黒いフードを被り、人目を避けて進んでいく。
街の隅にあるこの路地の奥には、密談に使用されることの多い酒屋がある。
店内に入ると、坊主頭のガラの悪そうな店主が睨みつけてきた。その視線に気づかないふりをして目立たない隅の席に座る。
「酒はいるのか?」
尋ねられたゼンは、一瞬思案する素振りをしたあとに「酔える酒を二本」と答えた。
「……奥にある」
店主が親指を立てて奥の部屋を指した。それに従い、ゼンは立ち上がると奥の部屋の扉を開けた。
「やぁ、いらっしゃい」
中に入ると顔を仮面で隠した怪しげな男が椅子に腰掛けて待っていた。全身に多種多様な魔具の装飾品を着けている。
彼は小説内に出てくる情報屋で、この店はゼンが悪事を働く際に利用していた場所だ。
情報屋と話すには合言葉が必要になる。
店主が「酒はいるのか?」と聞いてきたら「酔える酒を二本」と答える。それが合言葉だ。
「顔を隠していてもそのカリスマ性は隠せないね。ようこそ若き天才魔術師様」
「世辞はいい。最近王太子の視察について嗅ぎ回っている人間が居るだろう。それが誰なのかを聞きたい」
「意外な質問だ。知っていると思うけれど、僕の情報量は高いよ」
「金ならある。早く答えろ」
王太子の街内視察はあと二週間後に迫っている。
小説内で起きたことは必ず起きる。それは決められた運命だ。だから今世では王太子を守る側に立ちたい。
それが最終的にルーカスを守ることに繋がると理解しているから。
(償いと呼ぶほど立派なことができるわけではないが、このくらいはしてもいいだろう)
表情のわからない情報屋の顔を見つめ続ける。
「うーん。そうだねぇ、確かに最近とある人物が王太子様の視察について尋ねてきたよ」
「それは誰だ?なにを聞かれた?」
「僕から顧客の情報を聞き出すのなら金額は上乗せさせてもらうよ」
「それでかまわない」
情報屋がぼったくりだということは元から知っている。
それでも彼の与えてくれる情報に間違いがあったことはない。だからこそ払う価値がある。
「料金は五千万ガルだ」
「……わかった」
高いが仕方ない。
小切手を書いて卓に置くと、情報屋がそれを素早く手に取った。
「取引は成立したね。それじゃあ、僕の知る情報を教えてあげよう」
金を受け取ったからかところ無しか先ほどよりも声のトーンが高い。機嫌が良くなったのだろう。
「数日前、クリフ・ハーウッドが尋ねてきたよ。彼は君と騎士団長のことを相当恨んでいるようだね。特に騎士団長には痛手を負わせたいようだ。王太子様は時計塔の針が十を指す頃に中心街を通るだろうと教えた。けれど彼はあまりお金を持っていなかったからそれ以外の情報は与えていないんだよね。でも気をつけたほうがいい。上質な透明化の魔具を最近闇市で手に入れたようだから」
「透明化か……」
前回もその魔具を使用して王太子を誘拐していた。
透明化は一時的に自身を周りから認識させないようにできる魔術だ。強力な魔術だけに、魔具に封じるにはかなりの手間が必要になる。それに三回までという制限があったはず。
あのときはゼンが闇市のオークションで落札してハーウッドに手渡したが、今回は自力で手に入れたらしい。
「ねぇ、僕には君に関して一つだけわからないことがあるんだよ。なぜ突然別人のような振る舞いをし始めたんだい?少し前まで、君は手段を選ばない冷徹さで有名だったのに。今回も人助けをしようとしているだろう」
「お前に詳しいことを話す義理はない。……ただ、悪人も機会を与えられれば正しいことを行いたくなるというだけだ」
「まるで一度経験したことのあるような言い方だね」
「……さて、どうだろうな」
正直わからなくなってきていた。
自分が前世だと思っているこの記憶は本当に存在するものなのだろうか?
ルーカスの意味深な発言や、断片的に浮かんでくる記憶。
それらを結び合わせていくと、小説の内容だけでは説明できない部分が出てくる。
「話しすぎた。失礼させてもらう」
「また来てくれるのを心待ちにしているよ。いつだって僕は君の目となり耳となる」
情報屋のお決まりの台詞を聞いてから部屋を出ると、店主にチップを手渡してから店を後にした。
──知り得た情報をルーカスに共有するべきだろうか?
ふとそんな考えが過ぎった。
事前に知っていればルーカスも動きやすいだろう。そうわかっているのに迷ってしまうのは、ここに来たことをルーカスに知られることが嫌だと思ってしまったからだ。
(今更そんなことを気にしてしまうのか……)
昔は人にどう思われようと自分が決めたことはやり通してきた。
記憶の中に、行ってきた悪行の数々が蘇ってきてひどい頭痛に襲われた。
シャノンに頭を治療してもらってから、度々見知らない記憶が蘇ってくるようになった。
(ルーカス許してくれ)
怖くなったのかもしれない。
自分のことをまるで清らかで美しいもののように扱ってくるルーカスに、本当はどこまでも残忍で汚い人間なのだと知られることが、本当に恐ろしくてたまらなくなった。
だから王太子の件も自分だけで解決しようと決めた。
夜が更けてきた時間帯に、ゼンは一人で路地を歩いていた。
目深に黒いフードを被り、人目を避けて進んでいく。
街の隅にあるこの路地の奥には、密談に使用されることの多い酒屋がある。
店内に入ると、坊主頭のガラの悪そうな店主が睨みつけてきた。その視線に気づかないふりをして目立たない隅の席に座る。
「酒はいるのか?」
尋ねられたゼンは、一瞬思案する素振りをしたあとに「酔える酒を二本」と答えた。
「……奥にある」
店主が親指を立てて奥の部屋を指した。それに従い、ゼンは立ち上がると奥の部屋の扉を開けた。
「やぁ、いらっしゃい」
中に入ると顔を仮面で隠した怪しげな男が椅子に腰掛けて待っていた。全身に多種多様な魔具の装飾品を着けている。
彼は小説内に出てくる情報屋で、この店はゼンが悪事を働く際に利用していた場所だ。
情報屋と話すには合言葉が必要になる。
店主が「酒はいるのか?」と聞いてきたら「酔える酒を二本」と答える。それが合言葉だ。
「顔を隠していてもそのカリスマ性は隠せないね。ようこそ若き天才魔術師様」
「世辞はいい。最近王太子の視察について嗅ぎ回っている人間が居るだろう。それが誰なのかを聞きたい」
「意外な質問だ。知っていると思うけれど、僕の情報量は高いよ」
「金ならある。早く答えろ」
王太子の街内視察はあと二週間後に迫っている。
小説内で起きたことは必ず起きる。それは決められた運命だ。だから今世では王太子を守る側に立ちたい。
それが最終的にルーカスを守ることに繋がると理解しているから。
(償いと呼ぶほど立派なことができるわけではないが、このくらいはしてもいいだろう)
表情のわからない情報屋の顔を見つめ続ける。
「うーん。そうだねぇ、確かに最近とある人物が王太子様の視察について尋ねてきたよ」
「それは誰だ?なにを聞かれた?」
「僕から顧客の情報を聞き出すのなら金額は上乗せさせてもらうよ」
「それでかまわない」
情報屋がぼったくりだということは元から知っている。
それでも彼の与えてくれる情報に間違いがあったことはない。だからこそ払う価値がある。
「料金は五千万ガルだ」
「……わかった」
高いが仕方ない。
小切手を書いて卓に置くと、情報屋がそれを素早く手に取った。
「取引は成立したね。それじゃあ、僕の知る情報を教えてあげよう」
金を受け取ったからかところ無しか先ほどよりも声のトーンが高い。機嫌が良くなったのだろう。
「数日前、クリフ・ハーウッドが尋ねてきたよ。彼は君と騎士団長のことを相当恨んでいるようだね。特に騎士団長には痛手を負わせたいようだ。王太子様は時計塔の針が十を指す頃に中心街を通るだろうと教えた。けれど彼はあまりお金を持っていなかったからそれ以外の情報は与えていないんだよね。でも気をつけたほうがいい。上質な透明化の魔具を最近闇市で手に入れたようだから」
「透明化か……」
前回もその魔具を使用して王太子を誘拐していた。
透明化は一時的に自身を周りから認識させないようにできる魔術だ。強力な魔術だけに、魔具に封じるにはかなりの手間が必要になる。それに三回までという制限があったはず。
あのときはゼンが闇市のオークションで落札してハーウッドに手渡したが、今回は自力で手に入れたらしい。
「ねぇ、僕には君に関して一つだけわからないことがあるんだよ。なぜ突然別人のような振る舞いをし始めたんだい?少し前まで、君は手段を選ばない冷徹さで有名だったのに。今回も人助けをしようとしているだろう」
「お前に詳しいことを話す義理はない。……ただ、悪人も機会を与えられれば正しいことを行いたくなるというだけだ」
「まるで一度経験したことのあるような言い方だね」
「……さて、どうだろうな」
正直わからなくなってきていた。
自分が前世だと思っているこの記憶は本当に存在するものなのだろうか?
ルーカスの意味深な発言や、断片的に浮かんでくる記憶。
それらを結び合わせていくと、小説の内容だけでは説明できない部分が出てくる。
「話しすぎた。失礼させてもらう」
「また来てくれるのを心待ちにしているよ。いつだって僕は君の目となり耳となる」
情報屋のお決まりの台詞を聞いてから部屋を出ると、店主にチップを手渡してから店を後にした。
──知り得た情報をルーカスに共有するべきだろうか?
ふとそんな考えが過ぎった。
事前に知っていればルーカスも動きやすいだろう。そうわかっているのに迷ってしまうのは、ここに来たことをルーカスに知られることが嫌だと思ってしまったからだ。
(今更そんなことを気にしてしまうのか……)
昔は人にどう思われようと自分が決めたことはやり通してきた。
記憶の中に、行ってきた悪行の数々が蘇ってきてひどい頭痛に襲われた。
シャノンに頭を治療してもらってから、度々見知らない記憶が蘇ってくるようになった。
(ルーカス許してくれ)
怖くなったのかもしれない。
自分のことをまるで清らかで美しいもののように扱ってくるルーカスに、本当はどこまでも残忍で汚い人間なのだと知られることが、本当に恐ろしくてたまらなくなった。
だから王太子の件も自分だけで解決しようと決めた。
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感想ありがとうございます!
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感想ありがとうございます!♡
おまたせしてしまい申し訳ないです
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感想ありがとうございます(。・・。)♡
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