乱華〜男だけど女官として王宮入りしたら皇帝の子供を妊娠したので子育てしながら愛を育みたい〜

天宮叶

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僕として

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「……私にとっても暁様はただ1人の夫です。ですから、そのお気持ちだけでもとても嬉しく思います」

それが精一杯の言葉だった。

婚礼の儀を上げて欲しいだとか、ずっと傍にいて欲しいだとか、そんな言葉は言えなかった。まだ何処か彼に対して遠慮している部分があって、側室として彼を困らせてはいけないと思う臆病で怖がりな自分がいる。

そんな私の心を陛下は分かっているのか、私の言葉に微かに頬笑みを浮かべるとそのまま何も言わずに私の背後に横になった。

そうして後ろからぎゅっと抱きしめられて、その温かさと力強さに嬉しくて心臓まで鷲掴みされたような感覚に陥る。

こんなに大切にしてもらえていいのだろうか?

陛下が私を唯一だと言ってくださるのは、番契約を結んでいるからかもしれない。

もしも、あの日陛下と番になっていなければ私はこんな風に大切にしてもらえなかっただろうし、そもそも側室にすらなっていなかった。

陛下にとって私は番で、それが無ければ私のことを陛下が愛する要素など無かったのではないか?

そこまで考えてから、幸せすぎて不安になっていると気がついた。

黙ったままじっとして、ひたすら陛下の手の感触を感じていると微かに寝息が聞こえ始めて陛下が眠りについたことが分かった。

陛下を起こさないようにそっと体に巻き付けられた手に触れる。

「……私自身を愛して欲しいとは申しません。暁様と番として繋がることが出来ただけでも幸せなことだから。でも、どうか私を……いや……僕自身を愛して欲しいと願ってしまう。本当の僕はただの平民で男で、側室としての作法なんてこれっぽっちも分からない。外を駆け回ることが好きだし、化粧も着飾ることも何もかも投げ出してしまいたいと思う時もある。僕の1番は何時だって家族だったから、法を犯して宮中に潜り込んだ。それを後悔することもある。貴方に出会ってしまったから……」

此処に入る時に女になりきろうと思い、僕と言っていたのを私へと変えた。短かった髪を伸ばし、少しでも女らしく見せようと身嗜みを整え、口調を改めて。家族を助けたい一心だった。

彼に出会って僕の中の1番が少しずつ変化していくことが怖くなった。

陛下や喜が僕の心を埋めつくしていく。

家族のことも大切だけれど、それ以上に新しい自分の家族をなによりも大切にしたいと囁く心が見え隠れする。

自分はなんのためにこの場所に居るのか分からなくなるんだ。

彼に出会って、彼を愛して、子も生まれて、優雅な生活を送っても、胸の内にある寂しさも平民に戻りたいと願ってしまう心も止められない。

「……時たまに、貴方と平民として出会えたなら良かったのにと思う時があるよ。こんなこと思うなんて怒られてしまうかもしれないけれど、それでも思うことがある。権力争いも、側室達との確執も、政治も何もかも遠くに追いやってただ伸び伸びと自分達のことだけに目を向けて歩み続けたい……。辛いことも沢山あるけれど、貴方と喜が居てくれさえすればただそれだけで幸せだと思えるはずだと……」

こんなこと側室になってから誰にも話したことは無かった。陛下は眠っていてきっとこの言葉は届いていない。だからこそ、今だけは平民の蘭玉として思ったことだけを口にできる。

「貴方を愛してる。僕は貴方のことが憎かったけれど、不器用な優しさや傷ついた心を必死に隠して強く有ろうとする姿を知ってしまったから、手の届かない人だと分かっていても愛してしまった。……貴方から愛されていると感じる度、胸が張り裂けそうな程に幸福だと思えるんだ。……ねえ、知ってるかな。民間では結婚すると指輪を交換しあってお互いの左手の薬指に嵌める習慣があるんだ。それは目に見える愛の証。もしも僕達が平民ならそんな風に愛を誓い合うこともできたのかもしれないね……」

言いたいことだけをただ1人吐き出して、それからゆっくりと目を閉じた。

本当は直接彼に伝えたいことが沢山ある。

簪を捨てていないことも、陛下が着飾って欲しいと言うならそうするということも、貴方のためなら命すら惜しくないということも、こんな重い感情が自分の中に燻っているんだという事実も。

何もかも吐き出してしまいたいと思うことがあるんだ。

「おやすみ暁様」

だから、今だけは平民の白 蘭玉として過ごさせて欲しい。

明日目を覚ませば、いつも通りの華嬪にちゃんと戻っているから。
感想 15

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