97 / 136
僕として
10
「……私にとっても暁様はただ1人の夫です。ですから、そのお気持ちだけでもとても嬉しく思います」
それが精一杯の言葉だった。
婚礼の儀を上げて欲しいだとか、ずっと傍にいて欲しいだとか、そんな言葉は言えなかった。まだ何処か彼に対して遠慮している部分があって、側室として彼を困らせてはいけないと思う臆病で怖がりな自分がいる。
そんな私の心を陛下は分かっているのか、私の言葉に微かに頬笑みを浮かべるとそのまま何も言わずに私の背後に横になった。
そうして後ろからぎゅっと抱きしめられて、その温かさと力強さに嬉しくて心臓まで鷲掴みされたような感覚に陥る。
こんなに大切にしてもらえていいのだろうか?
陛下が私を唯一だと言ってくださるのは、番契約を結んでいるからかもしれない。
もしも、あの日陛下と番になっていなければ私はこんな風に大切にしてもらえなかっただろうし、そもそも側室にすらなっていなかった。
陛下にとって私は番で、それが無ければ私のことを陛下が愛する要素など無かったのではないか?
そこまで考えてから、幸せすぎて不安になっていると気がついた。
黙ったままじっとして、ひたすら陛下の手の感触を感じていると微かに寝息が聞こえ始めて陛下が眠りについたことが分かった。
陛下を起こさないようにそっと体に巻き付けられた手に触れる。
「……私自身を愛して欲しいとは申しません。暁様と番として繋がることが出来ただけでも幸せなことだから。でも、どうか私を……いや……僕自身を愛して欲しいと願ってしまう。本当の僕はただの平民で男で、側室としての作法なんてこれっぽっちも分からない。外を駆け回ることが好きだし、化粧も着飾ることも何もかも投げ出してしまいたいと思う時もある。僕の1番は何時だって家族だったから、法を犯して宮中に潜り込んだ。それを後悔することもある。貴方に出会ってしまったから……」
此処に入る時に女になりきろうと思い、僕と言っていたのを私へと変えた。短かった髪を伸ばし、少しでも女らしく見せようと身嗜みを整え、口調を改めて。家族を助けたい一心だった。
彼に出会って僕の中の1番が少しずつ変化していくことが怖くなった。
陛下や喜が僕の心を埋めつくしていく。
家族のことも大切だけれど、それ以上に新しい自分の家族をなによりも大切にしたいと囁く心が見え隠れする。
自分はなんのためにこの場所に居るのか分からなくなるんだ。
彼に出会って、彼を愛して、子も生まれて、優雅な生活を送っても、胸の内にある寂しさも平民に戻りたいと願ってしまう心も止められない。
「……時たまに、貴方と平民として出会えたなら良かったのにと思う時があるよ。こんなこと思うなんて怒られてしまうかもしれないけれど、それでも思うことがある。権力争いも、側室達との確執も、政治も何もかも遠くに追いやってただ伸び伸びと自分達のことだけに目を向けて歩み続けたい……。辛いことも沢山あるけれど、貴方と喜が居てくれさえすればただそれだけで幸せだと思えるはずだと……」
こんなこと側室になってから誰にも話したことは無かった。陛下は眠っていてきっとこの言葉は届いていない。だからこそ、今だけは平民の蘭玉として思ったことだけを口にできる。
「貴方を愛してる。僕は貴方のことが憎かったけれど、不器用な優しさや傷ついた心を必死に隠して強く有ろうとする姿を知ってしまったから、手の届かない人だと分かっていても愛してしまった。……貴方から愛されていると感じる度、胸が張り裂けそうな程に幸福だと思えるんだ。……ねえ、知ってるかな。民間では結婚すると指輪を交換しあってお互いの左手の薬指に嵌める習慣があるんだ。それは目に見える愛の証。もしも僕達が平民ならそんな風に愛を誓い合うこともできたのかもしれないね……」
言いたいことだけをただ1人吐き出して、それからゆっくりと目を閉じた。
本当は直接彼に伝えたいことが沢山ある。
簪を捨てていないことも、陛下が着飾って欲しいと言うならそうするということも、貴方のためなら命すら惜しくないということも、こんな重い感情が自分の中に燻っているんだという事実も。
何もかも吐き出してしまいたいと思うことがあるんだ。
「おやすみ暁様」
だから、今だけは平民の白 蘭玉として過ごさせて欲しい。
明日目を覚ませば、いつも通りの華嬪にちゃんと戻っているから。
それが精一杯の言葉だった。
婚礼の儀を上げて欲しいだとか、ずっと傍にいて欲しいだとか、そんな言葉は言えなかった。まだ何処か彼に対して遠慮している部分があって、側室として彼を困らせてはいけないと思う臆病で怖がりな自分がいる。
そんな私の心を陛下は分かっているのか、私の言葉に微かに頬笑みを浮かべるとそのまま何も言わずに私の背後に横になった。
そうして後ろからぎゅっと抱きしめられて、その温かさと力強さに嬉しくて心臓まで鷲掴みされたような感覚に陥る。
こんなに大切にしてもらえていいのだろうか?
陛下が私を唯一だと言ってくださるのは、番契約を結んでいるからかもしれない。
もしも、あの日陛下と番になっていなければ私はこんな風に大切にしてもらえなかっただろうし、そもそも側室にすらなっていなかった。
陛下にとって私は番で、それが無ければ私のことを陛下が愛する要素など無かったのではないか?
そこまで考えてから、幸せすぎて不安になっていると気がついた。
黙ったままじっとして、ひたすら陛下の手の感触を感じていると微かに寝息が聞こえ始めて陛下が眠りについたことが分かった。
陛下を起こさないようにそっと体に巻き付けられた手に触れる。
「……私自身を愛して欲しいとは申しません。暁様と番として繋がることが出来ただけでも幸せなことだから。でも、どうか私を……いや……僕自身を愛して欲しいと願ってしまう。本当の僕はただの平民で男で、側室としての作法なんてこれっぽっちも分からない。外を駆け回ることが好きだし、化粧も着飾ることも何もかも投げ出してしまいたいと思う時もある。僕の1番は何時だって家族だったから、法を犯して宮中に潜り込んだ。それを後悔することもある。貴方に出会ってしまったから……」
此処に入る時に女になりきろうと思い、僕と言っていたのを私へと変えた。短かった髪を伸ばし、少しでも女らしく見せようと身嗜みを整え、口調を改めて。家族を助けたい一心だった。
彼に出会って僕の中の1番が少しずつ変化していくことが怖くなった。
陛下や喜が僕の心を埋めつくしていく。
家族のことも大切だけれど、それ以上に新しい自分の家族をなによりも大切にしたいと囁く心が見え隠れする。
自分はなんのためにこの場所に居るのか分からなくなるんだ。
彼に出会って、彼を愛して、子も生まれて、優雅な生活を送っても、胸の内にある寂しさも平民に戻りたいと願ってしまう心も止められない。
「……時たまに、貴方と平民として出会えたなら良かったのにと思う時があるよ。こんなこと思うなんて怒られてしまうかもしれないけれど、それでも思うことがある。権力争いも、側室達との確執も、政治も何もかも遠くに追いやってただ伸び伸びと自分達のことだけに目を向けて歩み続けたい……。辛いことも沢山あるけれど、貴方と喜が居てくれさえすればただそれだけで幸せだと思えるはずだと……」
こんなこと側室になってから誰にも話したことは無かった。陛下は眠っていてきっとこの言葉は届いていない。だからこそ、今だけは平民の蘭玉として思ったことだけを口にできる。
「貴方を愛してる。僕は貴方のことが憎かったけれど、不器用な優しさや傷ついた心を必死に隠して強く有ろうとする姿を知ってしまったから、手の届かない人だと分かっていても愛してしまった。……貴方から愛されていると感じる度、胸が張り裂けそうな程に幸福だと思えるんだ。……ねえ、知ってるかな。民間では結婚すると指輪を交換しあってお互いの左手の薬指に嵌める習慣があるんだ。それは目に見える愛の証。もしも僕達が平民ならそんな風に愛を誓い合うこともできたのかもしれないね……」
言いたいことだけをただ1人吐き出して、それからゆっくりと目を閉じた。
本当は直接彼に伝えたいことが沢山ある。
簪を捨てていないことも、陛下が着飾って欲しいと言うならそうするということも、貴方のためなら命すら惜しくないということも、こんな重い感情が自分の中に燻っているんだという事実も。
何もかも吐き出してしまいたいと思うことがあるんだ。
「おやすみ暁様」
だから、今だけは平民の白 蘭玉として過ごさせて欲しい。
明日目を覚ませば、いつも通りの華嬪にちゃんと戻っているから。
あなたにおすすめの小説
溺愛アルファの完璧なる巣作り
夕凪
BL
【本編完結済】(番外編SSを追加中です)
ユリウスはその日、騎士団の任務のために赴いた異国の山中で、死にかけの子どもを拾った。
抱き上げて、すぐに気づいた。
これは僕のオメガだ、と。
ユリウスはその子どもを大事に大事に世話した。
やがてようやく死の淵から脱した子どもは、ユリウスの下で成長していくが、その子にはある特殊な事情があって……。
こんなに愛してるのにすれ違うことなんてある?というほどに溺愛するアルファと、愛されていることに気づかない薄幸オメガのお話。(になる予定)
※この作品は完全なるフィクションです。登場する人物名や国名、団体名、宗教等はすべて架空のものであり、実在のものと一切の関係はありません。
話の内容上、宗教的な描写も登場するかと思いますが、繰り返しますがフィクションです。特定の宗教に対して批判や肯定をしているわけではありません。
クラウス×エミールのスピンオフあります。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/504363362/542779091
最強で美人なお飾り嫁(♂)は無自覚に無双する
竜鳴躍
BL
ミリオン=フィッシュ(旧姓:バード)はフィッシュ伯爵家のお飾り嫁で、オメガだけど冴えない男の子。と、いうことになっている。だが実家の義母さえ知らない。夫も知らない。彼が陛下から信頼も厚い美貌の勇者であることを。
幼い頃に死別した両親。乗っ取られた家。幼馴染の王子様と彼を狙う従妹。
白い結婚で離縁を狙いながら、実は転生者の主人公は今日も勇者稼業で自分のお財布を豊かにしています。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】
晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。
発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。
そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。
第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。
黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜
せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。
しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……?
「お前が産んだ、俺の子供だ」
いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!?
クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに?
一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士
※一応オメガバース設定をお借りしています
冷遇されたΩは運命の竜に守られ花嫁となる
花里しろ
BL
*誤字報告ありがとうございます!
稀少なオメガとして王都に招かれたリュカは、夜会で酷い辱めを受ける。
悲しみに暮れるリュカはテラスに出ると、夜空を見上げて幼い頃に出会った初恋の相手を思いその名を呼んだ。
リュカ・アレオンは男爵家の末っ子次男だ。病弱なリュカは両親と兄・姉、そして領民達に見守られすくすくと育つ。ある時リュカは、森で不思議な青年クラウスと出会う。彼に求婚され頷くも、事情がありすぐには迎えられないと告げられるリュカ。クラウスは「国を平定したら迎えに来る」と約束し、リュカに指輪を渡すと去って行く。
時は流れ王太子の番として選ばれたリュカは、一人王都へ連れて来られた。思い人がいるからと、リュカを見向きもしない王太子。田舎者だと馬鹿にする貴族達。
辛い日々を耐えていたリュカだが、夜会で向けられた悪意に心が折れてしまう。
テラスから身を投げようとしたその時、夜空に竜が現れリュカの元に降り立つ。
「クラウス……なの?」
「ああ」
愛しい相手との再会し、リュカの運命が動き出す。
ファンタジーオメガバースです。
エブリスタにも掲載しています。
【完結】末っ子オメガ
鉾田 ほこ
BL
「晴にいさま、大好き」
アルファばかりのエリート一家の四人兄弟の末っ子に生まれた 亜季。
思春期の第二性検査を受けるまで、誰もがアルファだと信じて疑っていなかったが、結果は「オメガ」だった。確かに他の息子たちに比べて、身体も小さく、性格もおっとりしていた末っ子オメガ。親戚を含めてアルファばかりで、オメガがいないゆえに扱いがわからない。
だが、はじめは家族の誰一人として末っ子がオメガであることを疎むことなく可愛がっていた。
ある日、転機が訪れる──
末っ子オメガに発情期(ヒート)が訪れ、事故が起こってしまう。それを理由に亜季はひとり家族と離れて暮らすことになった。
そして末っ子は──男娼になって……長男 晴臣と再会する。
すれ違いオメガバース。
あまく、とろけて、開くオメガ
藍沢真啓/庚あき
BL
オメガの市居憂璃は同じオメガの実母に売られた。
北関東圏を支配するアルファの男、玉之浦椿に。
ガリガリに痩せた子は売れないと、男の眼で商品として価値があがるように教育される。
出会ってから三年。その流れゆく時間の中で、男の態度が商品と管理する関係とは違うと感じるようになる憂璃。
優しく、大切に扱ってくれるのは、自分が商品だから。
勘違いしてはいけないと律する憂璃の前に、自分を売った母が現れ──
はぴまり~薄幸オメガは溺愛アルファ~等のオメガバースシリーズと同じ世界線。
秘密のあるスパダリ若頭アルファ×不憫アルビノオメガの両片想いラブ。