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いじめの犯人と図書室のプリンス
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とうに忘れられていたかもしれないが、まだ私へのいじめは続いていた。それも、どんどんエスカレートして。
花瓶を落とされたり、階段を突き落とされたり、その度に運良くリュアンがその場にいて助けてくれた。
そして昨日、犯人は捕まった。
その犯人は子爵家の次男アルバート・ハンディカム。
乙女ゲームをやっていだが、そんな人物は出てこなかった。
年は同じらしいが、私は一度も彼とは喋ったことがなく、関わりが一切なかったはずだ。
にもかかわらず、彼が犯人だと聞いた。
だけど私は、なぜか引っかかりを覚えた。
ともかく、事件も一件落着?したことだし、私は楽しみにしていた図書室を見にいくことにした。
図書室は学園の一番端の方にあり、距離も遠く滅多に行くものはいないそうだ。でも、この学園の図書室は本が豊富でいろんな本がたくさん置いてあるらしい。
「…すごい。こんなにたくさんの本が…」
「すごいよねぇ~。俺も驚いたよ~、最初見た時は」
「うん、本当にすご…え?」
横に立っている人物を見上げる。
プラチナパープルの猫っ毛のふわふわした髪。アーモンド型のアメジストのような瞳は長い睫毛で縁取られている。
この青年は乙女ゲームの隠しキャラ、図書室に行くと稀に会えるという。
ゲームの中では図書室のプリンスとも呼ばれていた。
青年の名は、メルヴィア・ヴォルビン。
「ルミエラは何しに来たのぉ~?」
「え?わたくしは、本を読み…に…」
ちょっと待って。今、私の名前を呼んだ?なんでが私のことを知ってるの?
「あの、メルヴィア様?なぜわたくしの名前を…?」
「ん~?そういえば、ルミエラも俺の名前どこでしったのぉ~?」
やってしまったと思った時には遅い。
そうだ。私は初対面である。ベルティーの時もそうであったが、乙女ゲームで名前は知っていたからついそういう事を気にかけていなかった。
「わ、わたくしは…たまたま、知っておりました」
「じゃぁ、俺もたまたま知ってたってことで~」
うまく逆手に取られてしまったため、返す言葉もなかった。
「ねぇねぇ~、どんな本読むのぉー?」
急に話が変わって虚をつかれたが、私は正直に答えた。
「政治などの本はあまり興味がないですが、歴史にはとても興味惹かれるはものがあります。それに、その歴史を題材にした物語もとても面白くて好きです」
「へぇ~。てっきり令嬢方がお気に召しているロマンス小説が好きかと思ってたんだけど違ってたんだねぇ~」
「ロマンス小説?」
なにそれ?聞いたことないんですけど。
「うん~。いろんな恋の物語だよ~。それは許されざる恋もあったり、風の純恋だったり~」
そんなものがこの世界にもあったのか!
でも、私は普段本ばっかり読んでて別にそっち系が好きだったわけじゃないからなー…。
だって、カナン様一筋だし。
「そうなのですね。やっぱり普通のご令嬢ならそういう女の子らしいものがお好きなのね。わたくしはあまり興味がないから…やっぱり、もうちょっと女の子らしくした方が婚約者は見つかりますでしょうか?」
「婚約者を探してるのぉー?」
「いえ、そういうわけではないのですが」
ウィルニーに婚約破棄された傷物令嬢を欲しがる貴族なんていないだろうし。それに私自身も募集中なのは募集中だが、 あまり早く婚約者を見つけてしまうとビッチ認定されてしまう恐れがある。
「…ただ、いつかは婚約者を見つけなければいけませんので。だって、なにもせずに家に残ることなんてできませんわ」
「…そうだねぇ。なら、僕が婚約者になってあげようかぁ~?」
「えっ?メルヴィア様が?それは遠慮させていただきますわ。だって、わたくしのような傷物はメルヴィア様にはもったいないですもの」
「そうかなぁ~?」
「そうですっ、絶対!」
ヒロインの攻略対象者はダメなんだって!それに、メルヴィアは次期王の補佐役でしょ?そうなったら、ウィルニーかリュアンに関わることになるじゃない!
「…僕は別に気にしないけど、まぁ、ルミエラがそこまでいうならねぇ~」
良かった。簡単におれてくれて。
なにを意図してメルヴィアがそう言ったかは分からないが、いじめも終わったばかりなのにこれ以上の面倒ごとはお断りだ。
「ねぇねぇ、せっかく本を読みに来てくれたところ悪いんだけどねー、ちょっと君と話したいことがあるんだけどぉ~」
「あっ、はい。なんでしょう?」
メルヴィアは立ち話もなんだしと言い、座って話すことになった。
「…それでぇ、話したいことなんだけどさぁ、昨日、ハンディカム家の次男アルバートがルミエラの殺人未遂で捕まったよねぇ」
あっ、いじめじゃなくもうそれは殺人未遂になってしまうのね。え?じゃぁ待って…彼はもしかして…。
「アルバートは残念だけど、死刑になるよねぇ~。彼、いい人だったのに」
そうは言いつつも、顔は別に悲しんではいない。反対に楽しんでいるみたいに笑う。
だけど今はそれよりも、アルバートという男についての死刑についてだ。
そういえば忘れていたけれど、私はルミエラ・メルカリア。メルカリア公爵家の一人娘。
公爵家といえば王家の次に偉い家柄だ。そんな公爵家の一人娘を殺しかけたとなれば、それ相応の償いをしなければならない。
アルバートはまだ私と同い年なのに、彼はもう自分の人生に幕を閉じなければならないのだろうか。
「…彼は、何にもやってないのにねぇ~」
私の様子を見ながら、メルヴィアは意地悪そうに微笑んだ。
「どういうことですか?」
「だからねぇ~、僕が話したかったことは、彼は犯人じゃない。…真犯人がいるってことさ」
その時、メルヴィアの雰囲気が変わった。ゆるゆると和やかな空気が一気に引き締まった。
「君も何か引っかかりを覚えはしなかった?この事件について。だって、アルバートは君とは何も縁がなかったんだもの」
「…そう、ですけれど」
「確かに、それだけじゃまだ彼が犯人じゃないとは言い切れない。でもね、もし本当に彼が君を殺そうとしていれば、罪なんて認めなかったはずだ。だって、罪を認めなければ彼がやったとはバレなかったからね」
「そういえば、わたくしは彼が捕まった理由を聞いていませんでしたわ」
そう、私はただ私をいじめていた犯人が捕まり、それがアルバートだったということしか聞いていない。
詳細は全く聞けていなかった。
「彼は自分で言ったんだよ。全部私がやりましたってね」
自分で?なんで、そんなことを…。
「どんな馬鹿でもそんな馬鹿正直に話す奴はいないよね。だって死刑になってしまうんだからさ」
「…そうですが。でも、なぜ…」
「…彼には、庇いたかった人物がいたからだよ。その人物はきっと君とも関わりを持っているはずだよ。多分君は相当恨みをかわれてるんだろうね。じゃなきゃ殺すなんてこと…ないしさ」
メルヴィアはカラカラと子供のように無邪気に笑った後、「ふぅ」と一息吐くと机にふにゃぁぁと力が抜けたようにうつ伏せになった。
「彼を殺したくないと思うなら真犯人を探してみればぁ~?まぁ、彼の罪がそう簡単に変わることはないだろうけど軽くはなるかもしれないよぉ~。君の頑張り次第でさぁ~」
「私の頑張り次第…」
「特別にヒントをあげるよぉ~。ヒントは、一番遠ざけたいもの。かもねぇ~」
かもねぇ~ってそれヒントなの?ていうか、メルヴィアは犯人を分かってるんじゃないの?
「あの、メルヴィア様」
そう声をかけた時にはメルヴィアは眠っていた。
わずか数秒のことだったのに、その数秒で寝たというのかこの男は。
揺さぶったり声をかけたりを繰り返してみたが駄目で、それならしょうがないとごつんとぐーで殴って見たけど一向に起きる気配がなかった。
仕方ないと諦め、私はメルヴィアがくれたヒント、「一番遠ざけたいもの」を探すことにした。
彼女が図書室を出て行った後にパチリと目を開け、俺はうつ伏せ状態から体を起こした。
そして、彼女に殴られた頭を抑える。
「いくら起きていないとはいえ、普通そこまでやるかな」
いたたと殴られた部分をさすりながら、彼女と会った時のことを思い出す。
正直はじめの第一印象は馬鹿だった。
「こんにちは!わたくしはルミエラ・メルカリアよ。ウィルニー様の婚約者なの!」
7歳の彼女は年相応の笑顔を浮かべて、誇らしげにそう口にする。
令嬢としての自己紹介は最悪。家柄も名乗らないし、敬語も使いきれていない。
子供らしいのは子供らしいが、でも第一皇子の婚約者ならばもっと令嬢らしく振舞わなければいけない。それが実年齢7歳という子供であったとしても。
それに、賢く有能な大人ばかり見てきた俺にとって彼女はそう、馬鹿意外の何者でもなかった。
彼女はその時、王宮にウィルニーに会いにきていた。丁度俺もお父様の仕事の見学をさせてもらうため王宮に来ていたのだが、たまには子供同士で遊びなさいと言われてしまったため、二人と遊ぶことになった。
「…私はヴォルビン侯爵家の長男メルヴィア・ヴォルビンです。次期王の補佐役です」
「次期王の補佐役?ということはウィルニー様の右腕になられるお方ね!よろしくお願いいたしますわ、ウィルニー様のこと!」
「なっ!て、照れるからやめろよルミエラ。俺がまだ次期王になるって決まったわけじゃないし!」
そう言いながらもウィルニーは微笑んでいるけれど。
ウィルニーとは昔から付き合いがあったのはあった。お父様が国王の補佐役なだけによく王宮には来ていたし。
でもウィルニーについては乱暴な口調に王子とは思えぬ品のなさに理解できない子供として俺の目には映っていた。
話は戻るがウィルニーの言う通り、次期国王候補というだけでまだウィルニーが国王になると決まっているわけではない。
国王様は次期国王は息子に席を譲るとも何も言っていないため、誰がその席に座るかは不明だ。
「…そうですね。ウィルニーさまが頑張れば国王になれると思います」
それも、血が滲むような思いで頑張らなければいけないけれど。君のような場合は。
「ウィルニー様は努力を怠らない方ですもの!きっと国王になれますわ!」
ルミエラがそう言うとウィルニーは照れているのか頬を赤く染め、「そんなことねぇって!」と機嫌も良くしている。
そんな馬鹿二人を眺めていると、「お兄様に義姉様」という声が聞こえた。
そちらに目を向けると、いたのは天使とも見間違えるような美しい風貌の、第二皇子であり、ウィルニーの弟であるリュアンだった。
「こんにちは」
そう言って微笑むリュアンは昔から苦手だった。
子供ながらに完璧に作られた笑み。六歳だというのにもう愛想笑いを覚えている。
「メルヴィア様もこんにちは。今日は見学に来たと聞いていましたが…」
「父に、たまには遊べと言われまして」
そう言うと、「なるほど」と頷いた。
「そう言うリュアン様はどうされたのですか?」
「あぁ、僕はたった今授業が終わったばかりなのです」
そう聞き、リュアンの持っている本に目を通せば分厚い政治に関する本だった。
同じ王子でもこの差の違い。婚約者が会いに来ているのを口実にか授業をやっておらず、ただ遊ぶだけ。
だからこんなに馬鹿なのかと思ったけれど、でもリュアンを見ていると特別にそう思うらしいと言うことに気がついた。
リュアンは子供ながらにどこか達観して見えたからだ。どう見てもほかの子供とは何もかもが違う。
「…それで、この後は?」
そう聞いてみると、「ダンスです」とにこやかに答えた。
「それはすみません。お時間を取ってしまって」
「いえ。それでは失礼しますね。お兄様と義姉様をお願いします」
そう頭を下げると、優雅に歩いと行った。
そんなことがあったのを覚えている。その時は別にルミエラには気にも留めなかったし、反対にリュアンの方に興味があった。
でも、ルミエラに興味が出始めたのが急にウィルニーがルミエラを避け始めた頃だった。
十一歳ぐらいから急にウィルニーはルミエラを避け始めた。
王宮に来るのは最低限の時だけで会いに行く回数も少なかった。
冷たくされているルミエラは流石にウィルニーへの気持ちも冷めるだろうと思っていたのに、それは違った。
変わらず、一途に想い続けていた。
学園に入ってからは自分を差し置いて平民の女と親しくするウィルニーを見ながらもそれでもその愛は消えず。
反対に平民の女に対する増悪ばかりが膨らんでいくように見えた。
だけれど自分から手を下そうとはしなかった。必死に抑えに抑え、なんとか自分を見失わないようにしていた。
そして、遂に婚約破棄を言い渡されたルミエラ。
流石にウィルニーを殺してしまうんじゃないかとも思っていた。我慢していた想いが膨らみ、抑えきれず。
愛しているウィルニーが自分のものにならないのならといっそ殺してしまうんじゃないかと。でもそれも違った。
彼女は何か変わったように見える。
婚約破棄のことを微塵も気にしていなく、反対に何かを避けようとしているように見えるのだけれど。
でもわかることは一つ。以前のウィルニーを愛していた彼女とは全く違った。
そんな彼女にますます興味が出て来て、止められなくなって。遂に声をかけてしまったのである。
さて、これから彼女は一体どうやって動くのだろうか。
真犯人のことをなんと言えばいいだろう。
「以前の彼女」だろうか。
だけどその真犯人は以前の彼女よりも感情の抑えが全くできていないようだけれど。
とにかく今は、彼女が無事に犯人を見つけられるのを祈ろう。
その後のことはきっとあの薄気味悪い程に子供の頃から賢かった彼がなんとかしてくれるだろうから。
今の彼女のためならばと。
花瓶を落とされたり、階段を突き落とされたり、その度に運良くリュアンがその場にいて助けてくれた。
そして昨日、犯人は捕まった。
その犯人は子爵家の次男アルバート・ハンディカム。
乙女ゲームをやっていだが、そんな人物は出てこなかった。
年は同じらしいが、私は一度も彼とは喋ったことがなく、関わりが一切なかったはずだ。
にもかかわらず、彼が犯人だと聞いた。
だけど私は、なぜか引っかかりを覚えた。
ともかく、事件も一件落着?したことだし、私は楽しみにしていた図書室を見にいくことにした。
図書室は学園の一番端の方にあり、距離も遠く滅多に行くものはいないそうだ。でも、この学園の図書室は本が豊富でいろんな本がたくさん置いてあるらしい。
「…すごい。こんなにたくさんの本が…」
「すごいよねぇ~。俺も驚いたよ~、最初見た時は」
「うん、本当にすご…え?」
横に立っている人物を見上げる。
プラチナパープルの猫っ毛のふわふわした髪。アーモンド型のアメジストのような瞳は長い睫毛で縁取られている。
この青年は乙女ゲームの隠しキャラ、図書室に行くと稀に会えるという。
ゲームの中では図書室のプリンスとも呼ばれていた。
青年の名は、メルヴィア・ヴォルビン。
「ルミエラは何しに来たのぉ~?」
「え?わたくしは、本を読み…に…」
ちょっと待って。今、私の名前を呼んだ?なんでが私のことを知ってるの?
「あの、メルヴィア様?なぜわたくしの名前を…?」
「ん~?そういえば、ルミエラも俺の名前どこでしったのぉ~?」
やってしまったと思った時には遅い。
そうだ。私は初対面である。ベルティーの時もそうであったが、乙女ゲームで名前は知っていたからついそういう事を気にかけていなかった。
「わ、わたくしは…たまたま、知っておりました」
「じゃぁ、俺もたまたま知ってたってことで~」
うまく逆手に取られてしまったため、返す言葉もなかった。
「ねぇねぇ~、どんな本読むのぉー?」
急に話が変わって虚をつかれたが、私は正直に答えた。
「政治などの本はあまり興味がないですが、歴史にはとても興味惹かれるはものがあります。それに、その歴史を題材にした物語もとても面白くて好きです」
「へぇ~。てっきり令嬢方がお気に召しているロマンス小説が好きかと思ってたんだけど違ってたんだねぇ~」
「ロマンス小説?」
なにそれ?聞いたことないんですけど。
「うん~。いろんな恋の物語だよ~。それは許されざる恋もあったり、風の純恋だったり~」
そんなものがこの世界にもあったのか!
でも、私は普段本ばっかり読んでて別にそっち系が好きだったわけじゃないからなー…。
だって、カナン様一筋だし。
「そうなのですね。やっぱり普通のご令嬢ならそういう女の子らしいものがお好きなのね。わたくしはあまり興味がないから…やっぱり、もうちょっと女の子らしくした方が婚約者は見つかりますでしょうか?」
「婚約者を探してるのぉー?」
「いえ、そういうわけではないのですが」
ウィルニーに婚約破棄された傷物令嬢を欲しがる貴族なんていないだろうし。それに私自身も募集中なのは募集中だが、 あまり早く婚約者を見つけてしまうとビッチ認定されてしまう恐れがある。
「…ただ、いつかは婚約者を見つけなければいけませんので。だって、なにもせずに家に残ることなんてできませんわ」
「…そうだねぇ。なら、僕が婚約者になってあげようかぁ~?」
「えっ?メルヴィア様が?それは遠慮させていただきますわ。だって、わたくしのような傷物はメルヴィア様にはもったいないですもの」
「そうかなぁ~?」
「そうですっ、絶対!」
ヒロインの攻略対象者はダメなんだって!それに、メルヴィアは次期王の補佐役でしょ?そうなったら、ウィルニーかリュアンに関わることになるじゃない!
「…僕は別に気にしないけど、まぁ、ルミエラがそこまでいうならねぇ~」
良かった。簡単におれてくれて。
なにを意図してメルヴィアがそう言ったかは分からないが、いじめも終わったばかりなのにこれ以上の面倒ごとはお断りだ。
「ねぇねぇ、せっかく本を読みに来てくれたところ悪いんだけどねー、ちょっと君と話したいことがあるんだけどぉ~」
「あっ、はい。なんでしょう?」
メルヴィアは立ち話もなんだしと言い、座って話すことになった。
「…それでぇ、話したいことなんだけどさぁ、昨日、ハンディカム家の次男アルバートがルミエラの殺人未遂で捕まったよねぇ」
あっ、いじめじゃなくもうそれは殺人未遂になってしまうのね。え?じゃぁ待って…彼はもしかして…。
「アルバートは残念だけど、死刑になるよねぇ~。彼、いい人だったのに」
そうは言いつつも、顔は別に悲しんではいない。反対に楽しんでいるみたいに笑う。
だけど今はそれよりも、アルバートという男についての死刑についてだ。
そういえば忘れていたけれど、私はルミエラ・メルカリア。メルカリア公爵家の一人娘。
公爵家といえば王家の次に偉い家柄だ。そんな公爵家の一人娘を殺しかけたとなれば、それ相応の償いをしなければならない。
アルバートはまだ私と同い年なのに、彼はもう自分の人生に幕を閉じなければならないのだろうか。
「…彼は、何にもやってないのにねぇ~」
私の様子を見ながら、メルヴィアは意地悪そうに微笑んだ。
「どういうことですか?」
「だからねぇ~、僕が話したかったことは、彼は犯人じゃない。…真犯人がいるってことさ」
その時、メルヴィアの雰囲気が変わった。ゆるゆると和やかな空気が一気に引き締まった。
「君も何か引っかかりを覚えはしなかった?この事件について。だって、アルバートは君とは何も縁がなかったんだもの」
「…そう、ですけれど」
「確かに、それだけじゃまだ彼が犯人じゃないとは言い切れない。でもね、もし本当に彼が君を殺そうとしていれば、罪なんて認めなかったはずだ。だって、罪を認めなければ彼がやったとはバレなかったからね」
「そういえば、わたくしは彼が捕まった理由を聞いていませんでしたわ」
そう、私はただ私をいじめていた犯人が捕まり、それがアルバートだったということしか聞いていない。
詳細は全く聞けていなかった。
「彼は自分で言ったんだよ。全部私がやりましたってね」
自分で?なんで、そんなことを…。
「どんな馬鹿でもそんな馬鹿正直に話す奴はいないよね。だって死刑になってしまうんだからさ」
「…そうですが。でも、なぜ…」
「…彼には、庇いたかった人物がいたからだよ。その人物はきっと君とも関わりを持っているはずだよ。多分君は相当恨みをかわれてるんだろうね。じゃなきゃ殺すなんてこと…ないしさ」
メルヴィアはカラカラと子供のように無邪気に笑った後、「ふぅ」と一息吐くと机にふにゃぁぁと力が抜けたようにうつ伏せになった。
「彼を殺したくないと思うなら真犯人を探してみればぁ~?まぁ、彼の罪がそう簡単に変わることはないだろうけど軽くはなるかもしれないよぉ~。君の頑張り次第でさぁ~」
「私の頑張り次第…」
「特別にヒントをあげるよぉ~。ヒントは、一番遠ざけたいもの。かもねぇ~」
かもねぇ~ってそれヒントなの?ていうか、メルヴィアは犯人を分かってるんじゃないの?
「あの、メルヴィア様」
そう声をかけた時にはメルヴィアは眠っていた。
わずか数秒のことだったのに、その数秒で寝たというのかこの男は。
揺さぶったり声をかけたりを繰り返してみたが駄目で、それならしょうがないとごつんとぐーで殴って見たけど一向に起きる気配がなかった。
仕方ないと諦め、私はメルヴィアがくれたヒント、「一番遠ざけたいもの」を探すことにした。
彼女が図書室を出て行った後にパチリと目を開け、俺はうつ伏せ状態から体を起こした。
そして、彼女に殴られた頭を抑える。
「いくら起きていないとはいえ、普通そこまでやるかな」
いたたと殴られた部分をさすりながら、彼女と会った時のことを思い出す。
正直はじめの第一印象は馬鹿だった。
「こんにちは!わたくしはルミエラ・メルカリアよ。ウィルニー様の婚約者なの!」
7歳の彼女は年相応の笑顔を浮かべて、誇らしげにそう口にする。
令嬢としての自己紹介は最悪。家柄も名乗らないし、敬語も使いきれていない。
子供らしいのは子供らしいが、でも第一皇子の婚約者ならばもっと令嬢らしく振舞わなければいけない。それが実年齢7歳という子供であったとしても。
それに、賢く有能な大人ばかり見てきた俺にとって彼女はそう、馬鹿意外の何者でもなかった。
彼女はその時、王宮にウィルニーに会いにきていた。丁度俺もお父様の仕事の見学をさせてもらうため王宮に来ていたのだが、たまには子供同士で遊びなさいと言われてしまったため、二人と遊ぶことになった。
「…私はヴォルビン侯爵家の長男メルヴィア・ヴォルビンです。次期王の補佐役です」
「次期王の補佐役?ということはウィルニー様の右腕になられるお方ね!よろしくお願いいたしますわ、ウィルニー様のこと!」
「なっ!て、照れるからやめろよルミエラ。俺がまだ次期王になるって決まったわけじゃないし!」
そう言いながらもウィルニーは微笑んでいるけれど。
ウィルニーとは昔から付き合いがあったのはあった。お父様が国王の補佐役なだけによく王宮には来ていたし。
でもウィルニーについては乱暴な口調に王子とは思えぬ品のなさに理解できない子供として俺の目には映っていた。
話は戻るがウィルニーの言う通り、次期国王候補というだけでまだウィルニーが国王になると決まっているわけではない。
国王様は次期国王は息子に席を譲るとも何も言っていないため、誰がその席に座るかは不明だ。
「…そうですね。ウィルニーさまが頑張れば国王になれると思います」
それも、血が滲むような思いで頑張らなければいけないけれど。君のような場合は。
「ウィルニー様は努力を怠らない方ですもの!きっと国王になれますわ!」
ルミエラがそう言うとウィルニーは照れているのか頬を赤く染め、「そんなことねぇって!」と機嫌も良くしている。
そんな馬鹿二人を眺めていると、「お兄様に義姉様」という声が聞こえた。
そちらに目を向けると、いたのは天使とも見間違えるような美しい風貌の、第二皇子であり、ウィルニーの弟であるリュアンだった。
「こんにちは」
そう言って微笑むリュアンは昔から苦手だった。
子供ながらに完璧に作られた笑み。六歳だというのにもう愛想笑いを覚えている。
「メルヴィア様もこんにちは。今日は見学に来たと聞いていましたが…」
「父に、たまには遊べと言われまして」
そう言うと、「なるほど」と頷いた。
「そう言うリュアン様はどうされたのですか?」
「あぁ、僕はたった今授業が終わったばかりなのです」
そう聞き、リュアンの持っている本に目を通せば分厚い政治に関する本だった。
同じ王子でもこの差の違い。婚約者が会いに来ているのを口実にか授業をやっておらず、ただ遊ぶだけ。
だからこんなに馬鹿なのかと思ったけれど、でもリュアンを見ていると特別にそう思うらしいと言うことに気がついた。
リュアンは子供ながらにどこか達観して見えたからだ。どう見てもほかの子供とは何もかもが違う。
「…それで、この後は?」
そう聞いてみると、「ダンスです」とにこやかに答えた。
「それはすみません。お時間を取ってしまって」
「いえ。それでは失礼しますね。お兄様と義姉様をお願いします」
そう頭を下げると、優雅に歩いと行った。
そんなことがあったのを覚えている。その時は別にルミエラには気にも留めなかったし、反対にリュアンの方に興味があった。
でも、ルミエラに興味が出始めたのが急にウィルニーがルミエラを避け始めた頃だった。
十一歳ぐらいから急にウィルニーはルミエラを避け始めた。
王宮に来るのは最低限の時だけで会いに行く回数も少なかった。
冷たくされているルミエラは流石にウィルニーへの気持ちも冷めるだろうと思っていたのに、それは違った。
変わらず、一途に想い続けていた。
学園に入ってからは自分を差し置いて平民の女と親しくするウィルニーを見ながらもそれでもその愛は消えず。
反対に平民の女に対する増悪ばかりが膨らんでいくように見えた。
だけれど自分から手を下そうとはしなかった。必死に抑えに抑え、なんとか自分を見失わないようにしていた。
そして、遂に婚約破棄を言い渡されたルミエラ。
流石にウィルニーを殺してしまうんじゃないかとも思っていた。我慢していた想いが膨らみ、抑えきれず。
愛しているウィルニーが自分のものにならないのならといっそ殺してしまうんじゃないかと。でもそれも違った。
彼女は何か変わったように見える。
婚約破棄のことを微塵も気にしていなく、反対に何かを避けようとしているように見えるのだけれど。
でもわかることは一つ。以前のウィルニーを愛していた彼女とは全く違った。
そんな彼女にますます興味が出て来て、止められなくなって。遂に声をかけてしまったのである。
さて、これから彼女は一体どうやって動くのだろうか。
真犯人のことをなんと言えばいいだろう。
「以前の彼女」だろうか。
だけどその真犯人は以前の彼女よりも感情の抑えが全くできていないようだけれど。
とにかく今は、彼女が無事に犯人を見つけられるのを祈ろう。
その後のことはきっとあの薄気味悪い程に子供の頃から賢かった彼がなんとかしてくれるだろうから。
今の彼女のためならばと。
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※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
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