転生エルフによる900年の悠久無双記~30歳で全属性魔法、100歳で古代魔術を習得。残り900年、全部無双!~

榊原モンショー

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第43話 転生エルフ(108)、圧倒する。

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 森の中に入り込んだ俺の後ろに続くのは、闘龍に騎乗したグルゲアだ。
 休む間もなく撃たれる魔力の数々は全てが無詠唱魔法。
 一つ一つにカウンターを返している暇はなく、大雑把な魔法くらいなら避ける方が早いくらいだ。

「ちょこまかと……! 逃げ脚だけは人並みのようだな!」

 ヒュィンと音を立てて頬の側を火属性魔法が通過した。上級魔法レベルの威力といったところか。
 とはいえ、よくあそこまで連発して魔法を使う分の魔力が枯渇しないものだ。
 鑑定魔法でざっくり見た時の総魔力もそれほど極端に大きくはなかったはずだけど。

「……となればあの魔力は全部が全部グルゲアのものじゃないってことか?」

 うーむと空中で首を傾げる始末だが、そんな疑念を解決する時はこの古代魔術。

「鑑定魔法×魔力感知魔法、魔気流解析ギダクロチルス。君の周りの魔力の動きを隅から隅まで見させてもらうとしよう」

 かつて人類の街が魔獣に攻められんとした時に編み出した、瘴気の気動と魔力の流れから魔獣たちの行動を先読みしようとした広範囲型の魔術だとか。
 対象は森全体。見るのはこの場の瘴気の流れだ。

 魔族領域自体が高濃度の瘴気に包まれているから長い間瘴気を読み続けると魔力酔いをしてしまう諸刃の剣ではあるのだが――。

「なるほど、あの角が魔力の集約点になってるのか」

 大気中の瘴気は、グルゲアの角を介して魔法の素となる魔力として変換されているのが見て取れた。
 全部が全部グルゲアの魔力でもないってことだ。
 角に集約された魔力は、グルゲアが魔力を放つまで常に途切れずに全身に供給が続けられている。
 ここまでは普通の魔法使いと順序は同じ。だが異なる点もあった。

「魔力の流れを手先に押しとどめてる……?」

 魔法は本来、絶えず身体を流れる魔力の流れを《外》に向けることにより発動させるものであるにも関わらず、グルゲアのそれは身体の正中線である角、鳩尾、そして両手首に留まり続けていた。

 心臓がポンプのように働いて血液を全身に送り出すのと同様に、鳩尾にある魔力回路がポンプのように働いて魔力を全身に送り出していく。
 その流れを自発的にせき止めるなんてことは生体の基本を根本から覆すようなものだ。考えたこともなかった。

 次第にグルゲアの集中力がなくなってきたのか、奴の放出する魔力の質もまばらになってきた。
 今が解析の大チャンスだ。
 ここぞとばかりにグルゲアから距離を取る。おおよそ1kmは離れたかな。
 エルフはこの世界の種族の中で最も視力がいい。
 俺はここからでもグルゲアの姿はよく見える。
 魔力だけで敵の位置を探っていたグルゲアにとってはさぞやりにくいことだろう。

「超級鑑定魔法、付与魔術式の全解析ステータス・オープン。対象、グルゲア・ゾリンジャー」

《左腕付属:火属性魔法》
《右腕付属:闇属性魔法》
闘龍バトルドレイク付属:精神汚染魔法》
邪龍骨の魔大剣グラム・レイズ付属:爆裂魔法》
《魔封じの結晶石付属:精神汚染魔法》

 見ると、今まで奴から放たれていた全ての魔術式が露わになった。

 改めて一度に使える魔法が多岐にわたる魔族という種族は、本当に魔法との相性が良くて羨ましい。
 魔族と戦うには勇者が一番とはよく言ったものだ。
 勇者が纏う聖なる力は、魔族の天敵とも言える存在。
 ここまで多岐にわたる魔族の魔法も、勇者魔法の前では一律塵と化してしまうのだから。
 こんな田舎までやってくる程度の魔族でそれならば、魔王戦には必ずジン君の力が必要となってくるだろう。

 そんな魔術式は、よく見ると奴の身体と同化していた。

「そういうことだったのか……!」

 身体の中に流れる魔力を集約させ、口上を唱える。
 言葉に魔力を乗せることで空中に魔術が構築され、それが発動の機序となる。
 ここへ全身から掻き集めた魔力を更に注ぎ込むことによって魔法となる。
 これが魔法発動の基本の型だ。

 だが無詠唱魔法は身体の各部位に口上となる魔術式を仕込んでおいて、そこに魔力を流して発動させるものだったというわけだ。

 複数の魔術式へ送り込む魔力を瞬時に切り替えるための魔力操作や、連続して魔法を撃ち続ける魔力量、それに耐えうる身体全てが揃っていないと出来ない芸当だ。

 ……と、こんな具合に仕組みが分かると試してみたくなる。
 それが魔法使いというものだ。
 魔法を出す寸前まで敵に何も悟らせないというのは、魔法戦において大きなアドバンテージにもなる。
 
「……えぇと、魔術式を実体化させて、モノに付着させる……。そして、魔力回路のポンプを自発的に遮断して、腕の中に溜める……」

 超級魔法レベルの複雑な魔術式だと対応ができない。
 それならば俺が森で暮らした100年間の中で最も使用頻度が多かった魔法だ。
 上級魔法の内の一つ――衝撃魔法。
 齢40歳の頃に身につけた思い出の魔法で、魔族領域でも色々な使われ方をしている。
 異世界転生者である俺にとって、衝撃波を飛ばして敵を討つという男のロマンを叶えてくれた軌跡の魔法だ。
 全世界共通でこういった技はロマンなのかもしれない。

 ポゥ、と腕の中が光り輝いた。

 身体に流れる魔力を遮断する。108年間生きてきて初めての感覚だ……。温かいような、少し圧迫されているような。
 これなら――。

「むんっ」

 隣の木々に向けて拳を放つ。
 今初めて知ったばかりの技術だ。これから幾度となく失敗していくだろう。
 それでも、前世と違ってもう諦めたりすることはないだろう。失敗と成功を繰り返しながら――!

 ボゴォォォォォン……と。

「……あれ?」

 そう、決意を固めた瞬間のことだった。
 拳からは大きな大きな衝撃波が飛び出て、木々の中央を綺麗に抉った。
 自分の予想を大きく超える魔法の威力と、溜めに溜めていた魔力が一気に解放される心地よさを知ってしまった瞬間だった。

「――あれ、魔力回路の操作って、こんなに簡単に……?」

「いちいち魔力をかき消しおって、小賢しいッ! だが甘かったな、俺はどんな小さな魔力も見逃さんぞッ!!」

 魔力反応に気付いたグルゲアが一直線にこちらへと向かって来始めた。
 もう少しゆっくりと感動させてほしかったが、どうにも奴のせっかちは止まらないようだ。
 魔法に頼らない魔力気配の遮断も上手く行っていたようだし、常に流動的な魔力の動きを自発的に止めることが出来た。
 魔法使いにとっての大きな一歩だ。
 仕方がない。感動に浸るのは後だ。

「火属性魔法、灼熱熱波トライドル!」

 応戦すべくこちらも木々を伝って一気にグルゲアと距離を詰める。

「ようやく姿を現したな! 効かぬわッッ!!」

 鑑定魔法を駆使しながら撃った魔力はあえなく弾かれる――だがこれには別の目的がある。
 グルゲアの全身を淡く纏う魔力の中で唯一微弱に流れる場所を炙り出すために放った魔法は功を奏す。
 角に次いだ、奴の魔力放出の源泉だ。
 そこを止めれば奴の魔力のほとんどを無力化できる。

 俺の法撃を弾いたグルゲアは間髪入れず大剣を振るう。

「超級肉体強化魔法、獣人族の極硬化肌ティア・アズハウト

 もう出し惜しみする必要はない。ここから先は最大出力で――!
 魔力に富んだグルゲアの剣を硬化させた右腕で真正面から受け止める。

 ゴィンッッッ!!

 けたたましい音と衝撃波で森の木々が揺れるが、俺には傷一つつかない。

「剣士ではないのか!?」

 そこらで拾った剣で受け止めるより、硬化させた身体で受けた方が早いに決まってるだろう。
 剣だけで言えば俺なんかよりもミノリの方がずっと実力は上だし、俺の本分は剣ではないからね。
 
「……ぐっ!」

 思った通り、グルゲアは肉体強化魔法への対策を講じてきた。
 角に溜められていたほとんどの魔力が大剣に流れていく。

 バチンッッ!!

 稲妻にも似た音と共に、俺の魔力が霧散した。
 魔族にも魔力無効化の魔法があったということだ。

「俺の勝ち――!?」

 勝ち誇るようなグルゲアの表情が一点。
 今度は左の拳をぐっと握れば、今まで魔力回路の破裂ギリギリまで溜めていた分が巡ってゆく。
 魔力回路をギリギリまでせき止めて、一気に放出する――それが今!

「き、貴様、そんな魔力、どこに溜め込んで……」

 なるほど。相手に放つ寸前のコンマ数秒まで切り札を隠し持てるのは便利だな。
 グルゲアの対応はもう間に合わない。
 攻撃用に身体の隅まで流しきったグルゲアの魔力では、鳩尾目がけて振り抜こうとする拳と魔力の力を相殺することは出来ないからだ。

「別に全ての魔力を出し切ったとは一言も言ってないよ」

 大きく振りかぶり、身体の内に流れるグルゲアの魔力回路へ向けて、左の拳に溜めた膨大量の魔力を打ち込んだ――!

 ――ドォォンッッ!!

 鳩尾目がけて放った魔力入りの拳は、綺麗にグルゲアの身体の正中線を貫いた。
 奴の身体を覆っていた魔力反応がすぅっと消え、額からも魔力の光が消失した。

「衝撃魔法、内なる波動ハッケイ

 魔力の回路を破壊すれば、いかに魔族と言えど魔力も魔法も使うことが出来なくなる。
 魔族の中でもトップクラスの力を持つ者が、他の敵対魔族を制御するために産み出されたものだという。
 まさか魔術の制作者も、人間界の者が使おうなどとは考えていなかったことだろう。

「いいね、これが無詠唱魔法のやり方というわけだ」


 かつて一度だけ、無詠唱魔法の使い手と戦ったことがある。
 俺の大先輩でもある外界エルフの先駆者、ラハブ・ロウリィ師匠だ。
 だが彼女が使っていたものは、杖の中に仕込んだ魔道具に魔法を詰め込み放出するという見せかけの無詠唱魔法であった。
 あの時の俺は、まさか杖の中に魔法が仕込めるなんて考えたこともなかった。

 ――いいかい、リースくん。

 俺と戦ってくれた8年前、ラハブさんは自身が使っていた魔道具を眺めていた。

 ――外にはこの狭い世界にはない常識が山ほどある。我々が考えつかなかったことを当たり前に駆使している者たちが山ほどいる。どんな立場であれその者たちについて貪欲に学び続けることだ。それが外の世界を長年楽しみ続ける最大のコツだよ。

 それは外の世界を数百年と生き抜いてきている大先輩からのメッセージだった。

 ――わたしも、わたしにはない常識をリースくんに教えてもらった。自分の力を信じ続ければ、一つの魔法に縛られない別の魔法を使うこともできるということをね。教えてくれてありがとう。

 俺のエルフとしての生き方は、全てあの人が教えてくれたと言っても過言ではない。
 そんなラハブさんが俺に対して真っ直ぐな目をして微笑んでくれたことを俺は忘れていない。



 魔法反応を失ったグルゲアが前のめりに倒れていく。

「短い中でたくさん勉強させてもらった、ありがとう」

 自分とは大きく異なる魔法の使い方をする初めての敵に最大の敬意を込める。
 こうして俺の初めての魔族戦は、無詠唱魔法の習得という大戦果を持ってして幕を閉じたのだった。
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