5 / 39
万能魔法の真髄
しおりを挟む
『まだ追ってくるとは、性懲りもない方々ですね』
親フェンリルはぼくと子を自らの身体の下へと隠す。
「クレア様が手負いにしたフェンリルだ! クレア様の頑張りを決して無駄にするんじゃないぞッ!!」
「全魔法術師、砲撃用意!」
「剣士突撃用意! 回復術師と銃戦士は援護射撃を怠るなよっ!! 照射!!」
口々に聞こえてくる号令と、魔力の飛び交い。
これではまるで、災害級との戦いだ。国を、ギルドを上げての討伐作戦の渦中に置かれた親フェンリルは、困ったように空を向いて口を大きく開いた。
『アォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッッッッ!!!!!』
衝撃波混じりの強い咆哮が湖の水を空に跳ね上げた。
気が狂ってしまいそうなほどの金切り音で、先ほどの号令が一気に掻き消えて魔力の波動も急停止した。
『さぁ、行きます。しっかり正気を保っていてくださいね』
「に、逃げるんですか!?」
『……この子の任せる先も見つかりました。それに――』
そういう親フェンリルは、急激に衰えて行っているのが分かった。
真っ白で飾り気のない白の直毛が徐々に色褪せ、灰色を帯びてくる。
凜として、何者にも負けないような気高い顔は、目やにと皮膚の爛れを引き起こす。
壊死していた右足からは絶えずどくどくと黒い血が流れ続ける。
『私の役目は、もう終わりましたから』
にこりと笑ったように見えたその表情は、伝説級魔狼・フェンリルとはかけ離れ、一人の親としてのもののように思えた。
彼女はぼくと子フェンリルを口に咥えて、音速とも言える速度でその場で大きく跳躍した。
「グズグズするな! 追えッ! 追えーーーーーーッ!!」
「フェンリルの素材で、今度こそ伝説級の武器を作る! 作るんだ!!」
「俺こそが最強に! 最強の証を手に!!!!」
私利私欲に塗れた冒険者たちの声がどんどんと遠くなっていくのが分かる。
しわしわと、親フェンリルの爪先が萎びていく。
「よっぽど、無理をしていたんですね」
思わず口から出たぼくの言葉に、親フェンリルは応えた。
『この子を遺して死ぬことだけは避けないと、と。そんな思いで過ごしていたら急に安心してきたようです』
彼女は、ぼくの決意さえも既に汲み取っているかのように念話を伝えてきていた。
これが、フェンリル。
これが、魔狼王か。
「……ふがぅ」
同じく口の中にしまわれた小さな子フェンリルが、何か言いたげにぼくの指をガジガジと噛んでいた。
今は全然痛くもないし、毛糸で擽られているような感覚だ。
「……フェウ」
『フェウ、ですか』
「この子の名前です」
『……ふふ、素晴らしい名前です』
「本当に、ぼくにこの子を、後世に残すような大魔狼に育てられるかは分かりません。ですが――」
ぼくは、親フェンリルがぼくに会った最初の瞬間を思い出していた。
――あなたの魔法の才はこの400年の中で随一のものです。
初めて、ぼくを買ってくれた、恐らく初めての人だ。
「この子を、守りきることくらいは誓いますよ」
ぼくの言葉を聞いて、親フェンリルは小さく『それはそれは、とてもありがたいです』と喉をグルルと鳴らしていた。
『それならば、私の遺した仕事はあと一つですかね』
達観したように言った親フェンリルは、背後から迫りきる魔法の砲撃に目を凝らした。
ぼくと子フェンリルを地上に降ろし、大きく毛並みを逆立てる。
『しつこい彼らは、私がお相手しましょう。彼らの狙いは私です。その子には気付いていない。その子の存在を、彼らに知らせてはならない。お任せできますか、万能魔法の人間さん』
そういった親フェンリルの心は既に決まっているようだった。
親フェンリルはぼくと子を自らの身体の下へと隠す。
「クレア様が手負いにしたフェンリルだ! クレア様の頑張りを決して無駄にするんじゃないぞッ!!」
「全魔法術師、砲撃用意!」
「剣士突撃用意! 回復術師と銃戦士は援護射撃を怠るなよっ!! 照射!!」
口々に聞こえてくる号令と、魔力の飛び交い。
これではまるで、災害級との戦いだ。国を、ギルドを上げての討伐作戦の渦中に置かれた親フェンリルは、困ったように空を向いて口を大きく開いた。
『アォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッッッッ!!!!!』
衝撃波混じりの強い咆哮が湖の水を空に跳ね上げた。
気が狂ってしまいそうなほどの金切り音で、先ほどの号令が一気に掻き消えて魔力の波動も急停止した。
『さぁ、行きます。しっかり正気を保っていてくださいね』
「に、逃げるんですか!?」
『……この子の任せる先も見つかりました。それに――』
そういう親フェンリルは、急激に衰えて行っているのが分かった。
真っ白で飾り気のない白の直毛が徐々に色褪せ、灰色を帯びてくる。
凜として、何者にも負けないような気高い顔は、目やにと皮膚の爛れを引き起こす。
壊死していた右足からは絶えずどくどくと黒い血が流れ続ける。
『私の役目は、もう終わりましたから』
にこりと笑ったように見えたその表情は、伝説級魔狼・フェンリルとはかけ離れ、一人の親としてのもののように思えた。
彼女はぼくと子フェンリルを口に咥えて、音速とも言える速度でその場で大きく跳躍した。
「グズグズするな! 追えッ! 追えーーーーーーッ!!」
「フェンリルの素材で、今度こそ伝説級の武器を作る! 作るんだ!!」
「俺こそが最強に! 最強の証を手に!!!!」
私利私欲に塗れた冒険者たちの声がどんどんと遠くなっていくのが分かる。
しわしわと、親フェンリルの爪先が萎びていく。
「よっぽど、無理をしていたんですね」
思わず口から出たぼくの言葉に、親フェンリルは応えた。
『この子を遺して死ぬことだけは避けないと、と。そんな思いで過ごしていたら急に安心してきたようです』
彼女は、ぼくの決意さえも既に汲み取っているかのように念話を伝えてきていた。
これが、フェンリル。
これが、魔狼王か。
「……ふがぅ」
同じく口の中にしまわれた小さな子フェンリルが、何か言いたげにぼくの指をガジガジと噛んでいた。
今は全然痛くもないし、毛糸で擽られているような感覚だ。
「……フェウ」
『フェウ、ですか』
「この子の名前です」
『……ふふ、素晴らしい名前です』
「本当に、ぼくにこの子を、後世に残すような大魔狼に育てられるかは分かりません。ですが――」
ぼくは、親フェンリルがぼくに会った最初の瞬間を思い出していた。
――あなたの魔法の才はこの400年の中で随一のものです。
初めて、ぼくを買ってくれた、恐らく初めての人だ。
「この子を、守りきることくらいは誓いますよ」
ぼくの言葉を聞いて、親フェンリルは小さく『それはそれは、とてもありがたいです』と喉をグルルと鳴らしていた。
『それならば、私の遺した仕事はあと一つですかね』
達観したように言った親フェンリルは、背後から迫りきる魔法の砲撃に目を凝らした。
ぼくと子フェンリルを地上に降ろし、大きく毛並みを逆立てる。
『しつこい彼らは、私がお相手しましょう。彼らの狙いは私です。その子には気付いていない。その子の存在を、彼らに知らせてはならない。お任せできますか、万能魔法の人間さん』
そういった親フェンリルの心は既に決まっているようだった。
0
あなたにおすすめの小説
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
神眼の鑑定師~女勇者に追放されてからの成り上がり~大地の精霊に気に入られてアイテム作りで無双します
すもも太郎
ファンタジー
伝説級勇者パーティーを首になったニースは、ギルドからも放逐されて傷心の旅に出る。
その途中で大地の精霊と運命の邂逅を果たし、精霊に認められて加護を得る。
出会った友人たちと共に成り上がり、いつの日にか国家の運命を変えるほどの傑物となって行く。
そんなニースの大活躍を知った元のパーティーが追いかけてくるが、彼らはみじめに落ちぶれて行きあっという間に立場が逆転してしまう。
大精霊の力を得た鑑定師の神眼で、透視してモンスター軍団や敵国を翻弄したり、創り出した究極のアイテムで一般兵が超人化したりします。
今にも踏み潰されそうな弱小国が超大国に打ち勝っていくサクセスストーリーです。
※ハッピーエンドです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる