ぼくの万能魔法で、フェンリルの子を最強のもふもふに育てあげたいと思います。

榊原モンショー

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万能魔法の真髄

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『まだ追ってくるとは、性懲りもない方々ですね』

 親フェンリルはぼくと子を自らの身体の下へと隠す。

「クレア様が手負いにしたフェンリルだ! クレア様の頑張りを決して無駄にするんじゃないぞッ!!」
「全魔法術師、砲撃用意!」
「剣士突撃用意! 回復術師と銃戦士は援護射撃を怠るなよっ!! 照射!!」

 口々に聞こえてくる号令と、魔力の飛び交い。
 これではまるで、災害級との戦いだ。国を、ギルドを上げての討伐作戦の渦中に置かれた親フェンリルは、困ったように空を向いて口を大きく開いた。

『アォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッッッッ!!!!!』

 衝撃波混じりの強い咆哮が湖の水を空に跳ね上げた。
 気が狂ってしまいそうなほどの金切り音で、先ほどの号令が一気に掻き消えて魔力の波動も急停止した。

『さぁ、行きます。しっかり正気を保っていてくださいね』

「に、逃げるんですか!?」

『……この子の任せる先も見つかりました。それに――』

 そういう親フェンリルは、急激に衰えて行っているのが分かった。
 真っ白で飾り気のない白の直毛が徐々に色褪せ、灰色を帯びてくる。
 凜として、何者にも負けないような気高い顔は、目やにと皮膚のただれを引き起こす。
 壊死していた右足からは絶えずどくどくと黒い血が流れ続ける。

『私の役目は、もう終わりましたから』

 にこりと笑ったように見えたその表情は、伝説級魔狼・フェンリルとはかけ離れ、一人の親としてのもののように思えた。
 彼女はぼくと子フェンリルを口に咥えて、音速とも言える速度でその場で大きく跳躍した。

「グズグズするな! 追えッ! 追えーーーーーーッ!!」
「フェンリルの素材で、今度こそ伝説級の武器を作る! 作るんだ!!」
「俺こそが最強に! 最強の証を手に!!!!」

 私利私欲に塗れた冒険者たちの声がどんどんと遠くなっていくのが分かる。
 しわしわと、親フェンリルの爪先が萎びていく。

「よっぽど、無理をしていたんですね」

 思わず口から出たぼくの言葉に、親フェンリルは応えた。

『この子を遺して死ぬことだけは避けないと、と。そんな思いで過ごしていたら急に安心してきたようです』

 彼女は、ぼくの決意さえも既に汲み取っているかのように念話を伝えてきていた。
 これが、フェンリル。
 これが、魔狼王か。

「……ふがぅ」

 同じく口の中にしまわれた小さな子フェンリルが、何か言いたげにぼくの指をガジガジと噛んでいた。
 今は全然痛くもないし、毛糸で擽られているような感覚だ。

「……フェウ」

『フェウ、ですか』

「この子の名前です」

『……ふふ、素晴らしい名前です』

「本当に、ぼくにこの子を、後世に残すような大魔狼に育てられるかは分かりません。ですが――」

 ぼくは、親フェンリルがぼくに会った最初の瞬間を思い出していた。

 ――あなたの魔法の才はこの400年の中で随一のものです。

 初めて、ぼくを買ってくれた、恐らく初めての人だ。

「この子を、守りきることくらいは誓いますよ」

 ぼくの言葉を聞いて、親フェンリルは小さく『それはそれは、とてもありがたいです』と喉をグルルと鳴らしていた。

『それならば、私の遺した仕事はあと一つですかね』

 達観したように言った親フェンリルは、背後から迫りきる魔法の砲撃に目を凝らした。
 ぼくと子フェンリルを地上に降ろし、大きく毛並みを逆立てる。

『しつこい彼らは、私がお相手しましょう。彼らの狙いは私です。その子には気付いていない。その子の存在を、彼らに知らせてはならない。お任せできますか、万能魔法の人間さん』

 そういった親フェンリルの心は既に決まっているようだった。
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